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一夜明け、昼間の勤務者が出勤してきた東方司令部では、不思議な空気が蔓延していた。
「趣味はお好きにどうぞ。でも、上層部にはバレないようにしてくださいね。」
イスに座り、銃器の手入れをしているリザ・ホークアイ中尉は、大佐にそう言葉をかけた。
その顔は無表情で、何を考えているのかわからない。
しかし、部下達は全員、部屋の温度がやたら低いような気がしていた。
「いくら私でも男の子とデートする趣味は無い! 」
と答えたのは、今だに疑われているマスタング大佐だった。
ハポック少尉は当直明けで、申し送りを済ませたら帰宅する予定だった。
眠けであまり回らない頭で二人の会話を聞いていた。
「あ〜? 良いんじゃ無いですか? さすがに大佐も男相手では隠し子も作れないワケなんだし……。」
ハポック少尉は思った事を、うっかり言葉に出してしまい、ホークアイ中尉に鋭く睨まれてしまった。
彼女が銃を手入れ中で、本当に良かったと、ハポック少尉は冷汗を流してしまった。
昨晩、3時間も司令部内を走り回っていたハポックの脳は、すでに完全に腐りきっていたのだ。
「誤報でも、噂話でも。どういう事であっても、油断はいけません。
もし、今回の事を上層部のあの方に知られたら、どうなると思いますか? 」
そんなホークアイ中尉の忠告で、マスタング大佐の頭の中に浮かんだのは、左目に眼帯をした
軍部の最高権力者が、大口開けて笑っている姿だった。
確かに、あの男が知った場合、間違い無く。
「面白がって、遊びにくるな……絶対に。」
ひ〜それだけは嫌だ〜!と、司令部の部下達は全員が絶叫していた。
キング・ブラッドレイ大総統の性格ならば、<焔と鋼がデキている>と言う噂話を、
おもしろ可笑しく脚色して、広めて歩くのに違い無かった。
できれば、あの男を早く亡き者にして、自分が大総統まで出世したい。
そんな事を思う、ロイ・マスタング大佐であった。
「兄さん、やっぱり、東方司令部は良いですよね。みなさん、親切だから。」
今日も資料室で本を読み漁るエルリック兄弟の姿があった。
昨晩、遅くなって兄・エドワードが帰ってきた。
何だか、少し悲しそうな兄の様子に、アルフォンスの心は痛んだが、理由を聞こうとは思わなかった。
兄が言いたく無い事なら、無理に聞く必要も無いと思う。
アルフォンスは、実に良くできた、兄思いの弟だった。
そんな明るく元気な弟と違い、兄のエドワードは憔悴しきった表情をしていた。
「……やはり最終手段は、もう牛乳しか無いんだろうか?」
大嫌いな牛の白い汁を頭に思い浮かべて、思わず吐き気が込み上げる。
彼はもう15歳だが、この先も<チビで可愛いまま>に違いなかった。
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