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   男は子供の喉へと迸りを注ぎながら、同時に、股間に激しい痛みを感じていた。驚いて視線を

   落とすと、自分のイチモツが大量の精液とともに、血しぶきを上げているのがわかった。


   そこは、深く切り裂かれていた。

   男は絶叫した。

   未来流の犬歯で噛み砕かれた場所は、焼けつくように痛み、男は床に転げ回った。

   それを眺めながら、未来流はケタケタと楽しそうに笑っていた。その口元は、精液と血で

   べっとりと汚れていた。
それを舌先でペロリと嘗め取ると、未来流は残酷な事を言った。

   「フフ、それじゃあ、ボクを気持ち良くさせるのは、無理だよね? そのオチンチンじゃ、

    もう一生無理だよね? 」


   男は逃げようと個室の扉を開けると、トイレの床を必死に這いまわった。未来流は笑いながら、

   痛みで悶絶している男
の腹部を蹴り上げた。

   我を忘れたように、暴れている未来流の姿は、トイレの鏡に全て映りこんでいた。窓から

    差し込んでいる月光の光で、その姿ははっきりと浮かび上がる。


   その満月と同じように光り輝く金色の瞳をし、牙をむき出しにしたその姿は、まさに、本物の獣

   そのままだった。


   男の叫び声を聞き、他の職員がトイレにかけつけた時。苦しげにうめいている血だらけの男と、

    茫然と裸で立ち尽くしている未来流の姿があった。

    
男は病院に運ばれて一命を取り留めた。

   同じく未来流も病院へと運ばれた。

   未来流は、自失したように誰が話かけても、目を閉じたままで反応を示さなかった。まるで

   死んだように身動き一つせず、食事の変わりに毎日点滴で命を繋いでいた。




   事件から、一ヶ月ほど経った深夜の事だった。

   未来流の眠っている、南棟五階にある小児科病棟の個室へ、男が忍び込んできた。

   未来流に重症を負わされた中年男だった。看護婦や警備員の目を盗むと、空いた病室に隠れ、

    夜が更けてから、未来流の部屋へとやってきた。


   男は、このひと月の間、ずっと未来流を探していた。病院からも逃げ出し、警察の目を逃れ、

   ただひたすら未来流を探していた。


   男は未来流が憎くてたまらなかったが、同時に、もう一度だけ、自分を魅了して止まない、

   美しい少年に会いたかったのだ。


   「このクソ餓鬼! お前のせいで。俺は仕事も何もかも、全て無くしたぞ! 

    お前さえ、いなかったら! 」


   部屋に飛び込んでくるなり、男はそう叫んだ。

   未来流はあの事件以来、初めて瞳を開いた。

   そこに映った物は、自分の頭の上にかざされた白く輝く美しいナイフだった。男の手は

    小刻みに震え、窓から差し込む月光が、その鋭利な刃物にキラキラと反射していた。


   未来流は恐怖よりも、安堵感を感じていた。やっと楽になれそうだった。

   もう嫌な思いをしなくても済む。人を恨んだり、憎んだりしなくても済む。

   自分の中の凶暴な《 アイツ 》も出てくる事は無い。

   未来流はとても安らかな気持ちで、その凶器が振り下ろされるのを待っていた。

   静かに瞳を閉じると、死が訪れるのをじっと待っていた。




                              
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