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公園の中は、満月に照らされて、とても明るく見通しが良かった。
未来流は地面に横たわったまま、兄・麗二の姿をうっとりと眺めていた。
凶暴な満月期の人狼が五匹、兄と激しくやりあっていた。双方の殺気は本物だった。
しかし、兄は怯む事も無く、男達に啖呵を切り、その巧みな体術は、まるで月光の中で踊って
いるようだった。
なんて、強くて美しい人狼だろう、と未来流は思っていた。
未来流は、部屋から満月を見ているうちに切なくなって、家を飛び出してしまった。
じっとしていると、兄の事で頭がいっぱいになってしまう。
考えれば考えるほど、身体中が熱くなる。 こんな満月期に兄と一緒にいたら、その胸に我を
忘れて飛び込んでしまいそうだった。
外の冷えた風で頭を冷やすつもりだったが、やはり兄の姿を心から消す事はできない。
途方に暮れて街を彷徨っていると、兄に良く似た懐かしい香を嗅いだ。
それは、発情した人狼の雄の匂いだった。
それに誘われるように未来流は、この公園に飛びこんでいたのだった。
しかし、そこにいた人狼達は、兄とは似ても似つかなかった。彼らは自分を陵辱しようとする、
ただの発情期の亜人達に過ぎなかった。
麗二の腕や足の逞しい筋肉がしなるたび、男達がまるで木の葉のように吹き飛んだ。人狼の
彼らは、牙を剥き出しにして飛びかってきたが、兄の強靭な身体には傷一つ付かなかった。
兄が満月の輝く光の中で軽やかに動くたび、五匹の狂犬達は傷だらけになっていった。
悲鳴を上げて逃げてゆく男達を見送った後、麗二は未来流の側に駆け寄ってきた。
「おい、大丈夫か? 未来流! 」
自分を心配する兄に、未来流は嬉しそうに笑った。
「やっぱり、オニーチャンって凄いねぇ。フフッ、ボク、興奮してイキそうになっちゃった。」
「な、お前は! 」
《 野生の未来流 》のそんな台詞に、麗二は驚きのあまり二の句が告げなかった。
未来流はクスクスと可笑しそうに笑う。 その瞳はキラキラと金色に輝き、好奇心でいっぱいと
言う感じで兄を見つめていた。
「ねえ、ねえ。オニ〜チャンはいつも人型だと思っていたけど。 本当は、ボクと同じなのね。
獣のオニーチャンって初めて見ちゃった。 フフ、その格好も好きだなぁ。
ものすごく興奮するよ。 そういう時のオニ〜チャンの身体ってどんな感じなの?
ねえ、セックスしようよぉ、オニ〜チャン。 ボクの、もう起っちゃってるよ。
あんまり、オニ〜チャンが格好良いから、イキそうだもん! 」
「あ、アホか〜お前は! 」
呆れた声を出す麗二に対して、獣化し怖い物知らずになっている未来流は、兄の首に両腕を
巻きつかせると、強い力で抱きついてきた。
その腕を必死に引き剥がしながら、麗二は叫んだ。
「何でお前がココにいるんだ! この間、納得して消えたんじゃね〜のか? 」
「え〜。だって、満月だモン。何で出てきたかなんて、すぐわかるでしょ?
ボクを消したいんなら、わかってるよね〜オニ〜チャン! 」
麗二は、にこやかにそんな脅迫めいた事を言う未来流に、唖然とした。
立ち尽くしている麗二を、未来流は力をこめて地面に押し倒した。

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