3ページ目/全4ページ 未来流が自室で、秘めた思いに悩んでいた頃。 その相手の麗二は、書斎にいる長兄・京一郎の元へ訪れていた。 夜空に月が昇れば、未来流の二度目の満月期になる。陽は暮れかけ、辺りは少し薄暗くなっていた。 京一郎は、少し早めに部屋に灯りを灯すと、お気に入りの英国製のイスに座り、趣味の読書を 楽しんでいた。 同じ部屋のソファーでゴロゴロと寝転がっている麗二の存在など、ほとんど 無視している。 京一郎は、麗二から仕事の報告を受ける時も、いつもこんなふうだった。他人にほとんど関心が 無い様子で、ひょうひょうとしているのだ。時々、サラサラした自分の前髪が目にかかって、 京一郎は邪魔な様子で払っていた。 彼は、父の東吾にはあまり似ていない。 同じく人狼である京一郎の母は、純日本的で古風な 美しさのある女性だった。 京一郎は彼女にそっくりだった。 両親とも人狼である京一郎は、一族でも血統の良い者として重宝がられていた。 一方、腹違いであり、さらに人間の女性を母に持っていた麗二は、格が違うため、一族のしきたりで 言うならば。 長兄の京一郎は、《 分家の次期当主 》だが、麗二はあくまでもその下。 大昔ならば、《 家臣 》に過ぎなかった。 そのため、本家の長老達には、「京一郎様」と呼ぶように注意を受けていたが、麗二は兄に 敬語を使うなんて馬鹿らしいと思っていたので、いつもこんな調子だった。 「あ〜、何だよ? それじゃあ、兄貴は 《 未来流が二人いる 》 事に初めから、気がついていた ワケかぁ? 」 口を馬鹿みたいに開けて驚いている麗二に、京一郎はチラリと視線を向けると、静かに こんな事を言う。 「気がついていないのは、お前がだらしないからだ。 冷静に観察していれば、すぐにそんな事は わかったはずだぞ? 」 麗二は、押し黙ってしまった。 さらに負いうちをかけるように、京一郎は、厳しい口調で続けた。 「お前は未来流を可愛がりすぎだ。 気持ちはわかるが、お目付け役ならば、もっと冷静に 対処しないとな。 弟の一人すら、まともに指導できないようでは、一人前の人狼とは 言えないぞ。 もっと自覚を持つように。」 兄の指摘は的をついていたので、麗二は言葉を返す事もできなかった。 三年もの長い間、未来流についていながら、麗二はその事に気がつかなかった。 あまつさえ、未来流を危険な目に合わせ、さらに大切な弟に対して、とんでも無い事をしたのだ。 人狼は、性的な面に関しては人間よりも大らかだった。 しかし、血のつながりが無いとはいえ、 兄弟で性行為をする事が良いはずが無い。 人狼の世界では、近親婚も多かった。 必ず、最初の妻は一族の者を迎えるのが、しきたりだった。 長兄の京一郎も生まれた時からの許婚がいる。 相手は本家の娘で、麗二達の従兄妹に当たる。 兄よりも血統の劣る麗二は、ありがたい事に許婚はいなかった。もし、いたとしても、会った事も 無い相手との婚姻など、麗二には考えられない事だった。 かつて未来流の母親は、父・東吾の許婚だったらしい。 と言っても結婚する前に、人間の男と 駆け落ちして行方知れずになった。 人間と婚姻した人狼には、一族は冷たい。 麗二の母も人間だったので、身を持ってその厳しさを知っていた。 麗二がどうしても、未来流を 放っておけないのは、そのせいもあるのだ。 ![]() ![]() 2ページ目へ戻る 4ページ目へ進む 小説マップへ戻る |