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2) 京一編 <前編>
何故だ。何故なんだ。……何故、俺の家族は平然とこの状況に馴染めるのだ。
信じられない。いや、別に家族がおかしいのではない。俺の家族構成は普通だ。
まず俺、野中京一。自分で言うのもなんだけど容姿は、可もなく不可もなくってところだ。
運動が好きで勝手に身体が鍛えられたがっしりとした躯は男も女も褒めてくれる。
息子に言わせると、熊に似ているらしい。
その愛息子の彰吾は亡くなった妻にも似ているがどちらかというと俺に似ている。
そして最愛の恋人の加藤葉月は、黒目がちの濡れた大きな瞳がとても魅力的で人形じみたほど
繊細で整った顔立ちだ。つややかな髪は梳くととても柔らかいし、きゅっと締まった腰に柔らかな尻。
俺の貧困なボキャブラリーでは語りつくせないほどの美貌の持ち主だ。
あと今まで仲違していた俺の母・静子(母親に語るべき言葉はない。ただ、俺とは親子だと
すぐ判るようだ)だった。男の恋人を持つが、普通の家庭だった。
そんな平和な日常のある日、人外がやってきたのだ。
そいつは……てっ天使、とか言って……背中から真っ白な彼の身体の三倍ほどの大きな翼を広げて。
そんでもって空に飛んでったんだ!
変だろう? 変なんだ。でも、俺は見たんだ。この目で。目の前で、彼は飛んでったんだ!!

去年のクリスマスの日、彰吾が不良に蹴りだされて歩道に転がった子猫を拾った時、
車が突っ込んできた。彰吾を庇ったのは、葉月だった。
二人とも幸い軽傷だったが、二日間も意識が戻らなかった。
あの時は落ち込む彰吾を宥めながら、昔を思い出していた。
彰吾の母親も交通事故であっけなく他界した。あの時の絶望感が胸に蘇る。
時折、息をしているか確認して安堵の息を吐いた。
震える身体をどうにか宥めて彰吾を連れて病室を後にするのがとても怖かった。
このまま目を覚まさないかと思って。
三日目の朝、彼は目を覚ました。開口一番に彰吾の心配をしていたが。
俺が妬くほど、あの二人は仲がいい。それに怪我の功名ではないが、葉月との関係を否定していた
俺の母親が気遣ってくれたのだ。それがとても嬉しかった。
そこから異変が起きたのだ。葉月が目覚めたと同時に、彼が病室に訪れたのだ。
彼の名は如月沙羅。女のような名前だが、彼は男で美人だった。
俺は自慢じゃないが、どこにでもいるような容姿だ。可もなく不可もなくといったところだ。
でもそいつは葉月と張るぐらい美人だった。そしてそいつの顔は見たことがあった。
葉月が大事にしている写真に写っている父親の顔だ。
驚いている間に、何だか有耶無耶のうちに納得させられた。
まっいいや、その死ぬほど心配していた恋人が起きて、こう……盛り上がるじゃないか、気持ちがさっ。
だからちゃっかり便乗して葉月とそれはそれは情熱的な交情を病院のベッドの上で繰り広げた。
あの時の葉月はとても綺麗だった。
いや、そのことは置いといて。
問題はあの人外の自称『天使』とかいう如月沙羅だ。
あの日からちゃっかりと俺の家に居候して、俺以外の家族と仲良く暮らしているのだ。
近所には葉月の従兄と名乗っているのだ。

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