1ページ目/全5ページ 2) 京一編 <後編> 「えっと、葉月?」 「……」 無言だ。葉月が一人で達してしまってから、ずっとこの状態。葉月の中はとても気持ちがよくて、 早く動きたいのだが……。肝心の葉月がそっぽを向いて動くの禁止を宣言されて、動きたくとも 動くと可哀想で。でも辛い。男としてこれは大変に辛いです、葉月さん。 「葉月が俺の恋人になって、一番嬉しかったことはさ……」 動くことも抜くことも諦めて、葉月の上に覆いかぶさって昔話を始めた。訝しげに眉を顰めながら、 でも絶対に目を合わせないように、葉月は聞き耳をたててる。それを面白そうに眺めながら、 柔らかい髪を梳いた。 「彰吾を一番に気に入ってくれたことだ。……妻が死んでから俺が育ててきた。もちろん母さんも 一緒になって頑張ってくれてた。これでもモテたから、結婚しようと思った女も正直いたさ。でもな、 俺の女にはなれても、彰吾の母親には誰もなってくれなかった。 それがお前はあいつをしっかりと認めて、それでもいいって言ってくれた。 彰吾のことを俺以上に可愛がってくれて、場合によっては厳しく躾もしている。それが一番嬉しい。 血が繋がってなくても、彰吾のもう一人の父親だよ。あいつを一緒に育ててくれる家族だ」 本当に感謝している。俺の唯一の恋人だ。顳?に口付けをする。すると可愛い顔がくしゃくしゃになって、 嬉しそうな切ない表情で、「ずるい……」と呟いた。 「何がずるい? お前に感謝しているって言っただけだよ?」 「だって……僕、汚いよ? 身体……汚れている。それに彰吾だって、あの子が最初に僕に懐いて くれたんだよ? 嬉しくて、僕はあの子が好きになった。それに彰吾と一緒にいると……あの小さな手で 無償の愛情を受ける度に、ほんの少しだけ綺麗になったような気分になった」 葉月の頬を優しく撫でてやる。過去の出来事をずっと気にしている。どんなに彼が消したい過去だろうと、 それはある。けれど今が幸せに感じられるなら、それはきっと薄れていくと俺は思っている。俺達は ゆっくりとひとつずつ積み重ねていけばいい。 「葉月……。彰吾は俺と一緒で面食いだ。だから一発でお前を気に入った。でも彰吾が懐いたのは、 お前が優しかったからだ。自分を見つめて笑ってくれたからだ。 ……あいつは今では信じられないけど、当時は人見知りが激しくてね。ちょっと人が信じられなくなって いた時に、初対面でお前が笑顔であいつをすんなりと受け入れたんだ。それがあいつには…彰吾には 嬉しくて、そして必要なことだったんだ」 そう、今は全部付き合いを絶った親戚どもの悪意ある噂話に、彰吾は傷つき俺以外に近づくことは なかった。ならば全然知らない葉月に会わせてみたいと思った。それが俺に似てあいつは面食いで、 一発で葉月を気に入った。でも後になって彰吾は俺に、 『あのね、葉月のきれいな目がね,ぼくを見たの。そしたらね、なんかここがかるくなったの』 胸を押さえて笑いかけたあの子を見て、感動した。他人にまっすぐに見つめられて笑ってもらった瞬間に、 彰吾はきっと自分の存在を許してもらったように感じたんだろう。それがあって俺は二度、葉月に惚れた。 一緒にいたいと心から思ったんだ。 「だからね、葉月。お前はお前のままでいい。俺の傍にいて欲しい」 一緒にいれば、最愛の者もやがて空気のような自分の一部のような感じがする。でもそれは、決して 葉月を忘れたわけではない。慣れて馴染んでくる。照れくさいって言うか、言わなくても判るだろうと 思ってしまう。だからこんな事、滅多に言わない。愛してるって言葉もついでのように言うこともある。 俺は今とても真剣な顔をしているだろ。ジッと見下ろし、投げ出されているその手の甲を引き寄せ、 自分の頬に押し当てた。 ![]() 2ページ目へ進む ![]() |