1ページ目/全5ページ 1)葉月編 ……真っ暗だ。どうしたんだろう。周囲には闇が広がり、自分がどこにいるのかさえわからない。 立っているのかさえわからない。そして……直前まで何をしていたか思い出せない。 「何……してたんだっけ……。名前は覚えてる。加藤葉月、それが名前。でも……」 …………エーンッ はーチャンッ ゥエーーーンッ 子供の泣き声が聞こえる。その声は知っている声だと、呼ばれているのだとわかるのに…… 思い出せない。もどかしい。喉元まででてくるのに、それ以上思い出せない。どうしてもっ! ッエーンッ ゥエーンッ エエーンッ 声はますます大きくなって、必死に呼びかけられる。でも…でもっわからないっ。 どこからか唯一思い出している養い親の声が聞こえた。 『わからないときは、落ち着いてゆっくりと深呼吸してごらん。大丈夫。葉月はいい子だね。 さあ、ゆっくりと呼吸をしてごらん。……大丈夫だから』 いつも問題に行き詰まると、低くて甘い声がゆっくりと耳に聞こえる。声に従って深呼吸すると、 頭が冴えてきて今まで見えなかった回答に導かれていた。 「そうだね。深呼吸してそのままゆっくりと考えに没頭するんだよね」 でも今回は父の助言は役に立たないみたいだ。泣き声に考えに没頭できない。どうしても……。 邪魔されているようで嫌な気分になる。僕は一体……。 『どうした? 人の子よ』 「父さん。どうもできないよ。なんだか……疲れちゃった」 闇の中で独りきり。どこにも行くことができないし。僕はいつの間にか、膝を抱え込んだ。 こうしているとあの時を思い出す。否応もなく『独り』だったあの子供時代。 「お父さんの事しか……過去のことしか思い出せない……」 ![]() 『遥かなる遠い昔、異世界からの侵略者から地球を守るため、一人の少年が一心に祈った。 その子供は普通の子供ではなかった。今は高次元の彼方で眠っている至上の神々の血が 入っている子供だった。 その子供の願いは神々に届き、地球界に重なり包み込む異次元世界を創造された。 その世界は天上界と冥府界を繋ぐ境目にも位置し、その為にある役目を負った。 少年は時を奪われ『彼方の君』と呼ばれ、創造されたせ界『御山』と命運を共にする。 御山の役目は生ある者の魂を癒すために49日の間に御山での現世の穢れを落とし、後に天上界、 冥府界へと運ばれていく。 いわば、『御山』とは黄泉の入り口に位置する世界なのだ。 そして銀河に生きる全ての魂を御山へと導くには、神々に聖別された魔物『鬼天狗』一族が受け持った。 その聖魔は真っ白な翼と二本の角を持っていたが、しばしば人間には『天使』と 呼ばれることもあった……』 ……その昔話も今は失われていて、彼方の君の血を引く九つの血筋の一つの九条一族の古文書のみに 記載されているだけらしい。そんな話を僕は育ての親に聞かされた。 僕の育ての親は……人間ではなかった。 |
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