*2006年7月のワタクシ。*

 

7/1

飛行機の予約が夕方なので、今日は近場で太宰府天満宮へ行く事にした。
ホテルを出て、まずは祇園駅前にお土産の芥子明太子を買いに行く。
一昨日行ったアーケードを通り櫛田神社を抜けて行く。と、アーケードの山飾りを、揃いの絣模様の法被(ハッピ)姿の男性が取り囲んでいる。
おおっ?と思い、街中に貼ってあるポスターを確認すると、山笠祭りは7月1日から、つまり今日から始まっている!
ほんの10分ばかり歩いて汗だくになって、目当ての明太子屋「しまもと」に飛び込んだら、なんと冷たい麦茶を出してくれた!
本当に嬉しくて、熱くお礼を言った。麦茶の無い暑い国には住みたくない。
で、買い物を済ませてから、山笠について聞いてみた。
今日からは飾り山と言って、飾り付けを見せる。練り歩くのは15日で、飾ってあるのとは別の曳き山というのを使う。法被は町内別に柄が違う(博多絣だそう)ので、見ればどこの者か分かる。等、丁寧に説明してくれて、「ぜひ曳き山も見にいらしてください」。すみません、今年は無理そう。
イベントがあるなら太宰府をカットして、と思ったが、飾り付けだけだというので雰囲気だけ味わって、電車に乗った。

急な出発だったし、初日は撮影の待ち時間も長かったので、友人何人かに携帯メールで「いいとこあったら教えて!」と情報収集したんだけど、結局博多でノンビリはしなかったんで、せっかく教えてもらった情報も大半を無駄にしてしまった。
太宰府なら梅が枝餅、と九州出身の逆木圭一郎劇団☆新感線の役者)が言うので、それは食べて行こうと張り切る。
駅からすぐに天満宮の参道に入り、両脇に賑やかに店が並ぶ。梅が枝餅を焼いて一つ売りしている店も、あちこちに多数。どこがいいのか分からないので、適当に決めて買って、歩きながら食べた。うん、美味しい!香ばしくて、やっぱり優しい味だ。
お祭りだからか?市が立っている。けっこうな人出。
市のテントの中は、陶磁器やアクセサリーもあるが、着物の古着が圧倒的に多い。うわー、着物!
すごい数。しかも、本当に安い!ちゃんとした着物や帯が、一着千円とかでぶら下がっている。小物なら500円から。
うーん、欲しい!買いたい!…しかし、やめておいた。
着付け教室に通ったり、ちょっと着物に興味を持ちつつあるものの、結局教室が終わったらそれきりにしてしまっているのが現状。見立ても分からない。本音を言えば生地だけでも千円は安いが、これまた作るつもりで買ったハギレが家の押し入れに山程残っている。イカン、これ以上。
グッと堪えて、でも見るだけはいっぱい見て、楽しかった。

天満宮の中には牛の置物があって、良くしたい部分を撫でると御利益があると言うんで、取りあえず牛の顔を撫でておいた。
それから、隣接する九州国立博物館と、天満宮境内にある宝物殿も見学。
平成4年に博物館はTさんが「凄いよ」と言っていたので、主に建物を見物に行ってみたけど、本当に凄い。天満宮の脇腹から生えてる巨大なエスカレーターを登ると、緑濃い中に忽然とそびえる薄黒い波形のオブジェ。SFかもー。
特別展はやってなかったが、常設だけでも充分見応えがあった。広いし。
入り口付近に体験コーナーがあって、ガムランや沖縄の三線を触らせてくれる。世界の楽器やオモチャの体験。ちょっと嬉しい。
博物館脇に小綺麗なカフェがあって、ここと宝物殿と、どちらに入ろうか迷ったが、日比野克彦展をやってたんで宝物殿に決めた。
感想は…、うーん。点数もそんなに多くなかったし、正直実物を見たからどう、というタイプの物でもなかったかも。(でも、HPはカワイイな)

地図を見ると天満宮のすぐ近所に、光明禅寺というのがあって、少し時間もあったんで帰りがけに寄る、という気分で行ってみたら、ここがまあ、すごい、いい所!
小さな門を潜ると、小振りながら見事な枯山水のお庭。
ここですでに度肝を抜かれていたが、200円の入場料を払って建物に入ってまたビックリ。
長い外廊下はもちろん、座敷や茶室も出入り自由、太鼓橋型の渡り廊下まで入れる。
そして、中庭の、素晴らしい事!!(←)苔、紅葉、岩。したたる緑(雨で洗われたから格別だったかも)にクラクラしてしまった。
シマッタ!こんなに居心地の良い所なら、もっと時間を取れば良かった。
悔やんでも飛行機のチケットは変更不可の物。仕方無い、昼食はあきらめて、空港の待合所でなにかかっ込めばいいや。
太宰府の参道からちょっと逸れただけなのに、この静けさは何事か。(秋は紅葉目当ての客で混み合うそうだが)人気も少なく、たまに入って来る人は皆、一様に溜め息をつく。
お庭に面した外廊下に座って風に吹かれた。見ると足下に、トカゲが一匹。じっと息をひそめていたら、足のすぐ横まで来て、しばらくウロウロして行った。なんだろう、ここは異次元か。
昔、太宰府の名物の梅の季節に訪れた時は、こんないい所があるとは知らずに素通りしていた。
もったいない、絶対オススメ!

思わぬ拾い物をした気分で、いよいよ博多空港へ向かう。
天神駅でコインロッカーから荷物を引き出し、地下街でラーメン食べて行けないかな…とチラと思ったが、もう3時に近いのにどこも行列、今日は土曜日だからか?あきらめて地下鉄に乗り、空港へ。
飛行機は16:10発。空港に着いたらもう3時半になろうとしているので、取りあえずチェックインして、持ち物検査も済ませて待合所に入る。
中にもあるかと思ったのに、軽食の店はあるものの、ラーメンは無い!博多なのにー(泣)。
カレー、サンドイッチ、ソバうどん。
うどんは美味しくない、と聞いていて、逆にちょっと食べてみたくなったんで、「ゴボウ天うどん」を注文。
あら。けっこう美味しいじゃーないの。
確かに讃岐うどんのようなコシは無く、ヤワヤワなうどんだけど、白っぽいダシがめっぽう美味い。麺の歯応えも含めて、やっぱり優しい味だ。私はコレ、「アリ」ですわ。
わりと混んでしたにもかかわらず、帰りの席も窓際をGetできた。
そして、帰り道は、けっこう晴れていて、主に海の上を飛ぶのかと思ったら、殆ど陸の上。おお!生Google Earth だ!
国内線、サイコー!

 

7/14

東京都庭園美術館へ、旧朝香宮邸のアール・デコ展を見に行った。
梨影子姐さんことR子さんと、入り口の狛犬前で待ち合わせをする。
実は、先日の九州で、九州美人支部長ことTさんからR子さんに、プレゼントを預かっていたので、それをお渡しがてらブラブラと、という計画。
そう言えば、元々TさんはR子さんのお友達だったんであった。

今年はなんだかスッキリしない天候で、今日もそんなに照ってはいないものの、物凄く蒸し暑い。
猛暑の時間帯14:00に野外で待ち合わせ、しかもまたしてもお待たせしてしまった(すみません…)。
R子さんはカメラ2台担いで来ている。
す、すごい気合い入ってますね……入り口で聞いたらストロボ禁止、一部撮影禁止はあるものの、基本的にはOK。

入ってホール左にある、白いカップ状のオブジェ。
「香水塔」という名が付いているのは知ってたけど、実際に上の部分に皿が設えてあって、香水を入れ、カップ部分に入っている電灯を灯して巨大なアロマポットとして使われていたそう。へー。
華族様って本当に、優雅だったのね。

九州のTさんからのプレゼントは、お手製の天然石ネックレス。
以前「誕生日石」というのが話題になった事があって、それに合わせて私にアメシスト、R子さんにタイガーアイを使った物を用意しておいてくれたんであった。ありがたや。
せっかく素敵な物をいただいたので、身に付けた姿を写真に撮って送ろうと思い、私も携帯カメラで数枚撮ったが、R子さんは凄い勢いで撮影していた。どうするんだろう、あんなに………?
まあ、どこを撮っても絵になる、アール・デコの館ではあるんだが。
天井画のフルーツが何だか分からなくて「柿!?」と言っていたら、監視の職員の女性が「ザクロですよ」と教えてくれた。
(柿は…無いよねぇ、確かに、いくらジャポネスク流行りだったと言っても…)
あちこちにある座り心地の良いソファに座ってボンヤリしたり、格子柄が印象的な内バルコニーから暑そうな庭を眺めたり。
何度も来ているけど、ここは居心地の良い所です。

美術館を出て、玄関前の狛犬を二人で挟んで携帯写真を撮り、さっき撮ったネックレスの写真と共にTさんに送信。
便利な世の中になったもんです。
夕方になって少し暑さも和らいだ中、さかんにカナカナが鳴いている。秋の虫じゃなかったっけ?と、思ったら、「むしろ出現は6月に多い」んだそうだ。そうだっけ?
入り口の脇にあるカフェでお茶して帰る。
以前はイタリアンレストランだったが、最近リニューアルしたそうで、軽食・甘味が中心になっていた。
オープンエアの席もあるが、暑いし蚊も出そうなので室内席へ。
店内の照明は暗めで、広く取った窓から美術館の庭の緑が見える、絵のように綺麗。
ちょっと甘い物が欲しくなったので、アンミツと抹茶入り日本茶をオーダー。
てっきり渋茶が出て来ると思ったら、背の高いグラスに入ったアイスグリーンティーでビックリ。自分が熱い物好きなんで、アイスという発想が無い(笑)。
アンミツは、綺麗な木の器に入ったごくシンプルなもの。寒天、豆、餡に、黒蜜をかけるだけ。
うーん、きっと材料とか厳選してる感じなんだけど、ちょっと寂しいな。求肥とか、缶詰フルーツとか。

展覧会は10/1までだけど、8/26〜31の期間は夜間会館(20:00まで)もアリ。
アール・デコの数々の照明が灯るのも、見てみたい気がするな。







7/18

週末を実家で過ごし、仕事場へ戻る途中の横浜駅で、高校時代の友人二人にバッタリ出会った。
と、言うよりも、二人も待ち合わせの場にたまたま私が行き会わせた、という事だったんだが、あまりにタイミングが良くて驚いた。
改札を入ったところで、前を歩いている人の後ろ姿が「似てるけど…まさかな」と思って目で追っていたら、その進行方向にもう一人見知った顔が待っていて、ちょうど待ち合わせで出会う所だった。
驚いたけど、二人とも一昨年会っているので間違い無い。声を掛けたら、しばらく二人ともポカンとしていた。

方向が同じだったんで一緒に電車に乗る。「武道館でコンサート」なんだとか。
うっかり「誰の?」と聞いたら「#&*※☆∈θξ」…知らなかった…。「けっこう有名」なんだとか。
そう言えば二人共、ロック少女だったなぁ。今は一児&三児の母だけど、続いているのね。
いいなぁ。これから好きなアーティストのコンサートなんだから、当たり前だけど、楽しそうだった。
最近アイドルいないからな、私。つまんないです。
そうそう、『イブの息子たち』を最初に私に見せてくれたのも、この二人だったっけ…。

武道館コンサート、帰ってから調べたら『コールドプレイ(Cojdplay)』というんだった。
「UKで発掘された2000年最大の宝」なんだそうだ……懐かしバンドかと思ったら平均年齢21.5歳。若い!メンバーが、じゃなくて、それを観に行く友人の精神がね(笑)。
私のしていたオパールの指輪を見て、「未だに宝飾店で小娘扱いされる」と言っていた(三児の母)が、なんか分かる気がする……見た目も気持ちも若いもんな。
元気で楽しそうな旧い友人に会うと、嬉しいような、羨ましいような。

 

 

7/30

富士山に登りました。初めて。

亡父が登山好きで、子供の頃は何度か連れて行かれた。
良く覚えていないが、上高地だの白馬だの、高尾山だの、登ったような気がする。
とろとろと長く登るのはウンザリしてグズッたが、頂上が見えると走り出す子供だった。
山の空気は美味しく、おにぎりも美味しかった。
3歳上の姉が思春期に差し掛かると登山を嫌がるようになり(理由は「服装が汚くて駅前で友達に会うと恥ずかしい」という信じがたいモノだった)、父もやがてあきらめて、私の登山キャリアは小学3年生くらいで終わった。

毎週木曜日の夜、通っているスポーツクラブで外を走るクラスがあって、そこで一緒になるYさんという凄いお姐さん(と言っても年下だが…)がいる。一緒に走ってても余裕しゃくしゃく、いつもイッパイイッパイの私なんかとはエライ違い。フルマラソンも完走してるし。
その凄いYさんが、7/13(木)、走りに出た先で急に「富士山登らない?」と誘ってくれたんで、「行く行く!」と答えた。
以前知り合いが登った話を聞いたりして、一度行ってみたいと思っていたから。でも、私が断ると思っていたらしく(何度かマラソン大会のお誘いを断っているので?)Yさんは驚いた様子。
その時は、まだ半月あるなーとノンビリ構えていたが、後からネットや本で調べたら、富士登山って意外とハードらしい。
高山病、遭難、凍死………しまった!甘く考えていたかも。

翌週の20日(木)、ショップの店員であるYさんが付き合ってくれて、靴を買いに行った。
梅雨時だし、山頂はかなりの低温なので、レインウェアも必要、と言われたが、上下で最低2万円と聞いて保留にし(後日ドンキで8千円で買った)、トレッキングシューズと登山靴下、それに出発が夜明け前と言う事なのでヘッドライト(この姿笑えるぞ…)と、水に溶かして飲む酸素というのも購入。
翌日、早速近所の丘陵地で試し履きをしてみたら、これがなかなか歩きづらい。半ブーツ状で足首が固定されるので、スキー靴とまではいかないがスネがこすれるし疲れるし。予定では登り7〜8時間、下り2〜3時間。かなりの長丁場になる。だ、大丈夫か!?
二駅先の駅前でミスドに入って一休みしたら、クジに当たって可愛いバックをもらった。
ちょっと元気づいて、また歩いて帰ったが、やはりスネが軽く痛む。慣らし歩きはしないといけないけど、それで足首傷めたら最悪。そう言えば私、捻挫でイタイ思いをしてるんだっけ。このところ痛まなくなったけど、クセになってるっぽいから、危ないかも…………………ああ、考え過ぎるの、やめよう。
富士山は険しく道程は長いが、メジャーなコースで山小屋も整備されている。トラブったらすぐリタイアして下山しよう。
あきらめる勇気を忘れずに。

と、かなり及び腰で迎えた7/30早朝0:30。
少し寝ておこうと21〜23時横になったが緊張して眠れず。
いつものスポーツクラブの前で集合、2台のバンを連ねて出発。メンバーは全部で11人、うち女性は4人。私が最年長かと思ったら、一人上の人がいた。
土日深夜だが道はガラガラ。順調に走って3時頃には五合目駐車場に到着。と思いきや、駐車場は満杯で、その前の道をエンエンと路駐が続く。帰り道、登山道を出てからこの道を戻るのが辛そうだ…。
やっとスペースを見付け、車を停めて外に出ると、満点の星!!こんなの見たの、久しぶり。ちょっと見てると流れ星が光る。
梅雨時でお天気が心配だったが、まずは上天気で出発できそう、山の天気は分からないけど。
装備を調え、持って来た食事を車内で済ませて、予定通り4時頃歩き出す。まだ暗いので一応ヘッドライトは点灯させて行ったが、周囲の森からは小鳥の声。

五合目の駐車場のすぐ上に、最初の山小屋(と言うか売店兼食堂みたい)がある。ここですでに、標高2000m。
登山用の杖なんかを売っている。各合目ごとの山小屋で焼き印を押してっくれるそうで、ちょっと記念になるかなー、と思ったが、やめといた。別に見せたい人もいないし、すぐリタイアして引き返す事になったら無駄になるし(弱気…)。
我々のルートは須走口(すばしりぐち)という所。
主要4コースある中で、最も景色に変化があり、そこそこ歩き易く、下りの長い砂地が特徴的、という事だ。
5合目からしばらくは森林を歩く。うっすら明るくなって来た道のすぐ脇に、小鳥やリスが顔を出す。可愛らしいホタルブクロや百合も咲いている。
林を抜け、ちょうど見晴らしが良くなった所で、背後の雲の隙間からご来光が顔を出す。皆神妙に手を合わせる。どうか無事に登れますように。
体力的な事よりも、高山病と靴擦れが心配だ。頭痛や吐き気や擦り傷と闘いながら上り坂なんて地獄。本当に危ないし。

六合目の山小屋には、可愛いビーグル犬が繋がれていて、首に「ハナ」と名札を下げている。退屈なのと客慣れしてるので、物凄い人なつこい。可愛くて目がクギ付け!でもオニギリは、あげない(笑)。
ここを過ぎる あたりから、木が減ってきてゴロゴロした岩と荒い黒砂の道になり、日陰は全く無くなる。
下の方は雲海だが、上は見事なピーカン。さっき登った朝日が、そろそろ暑くなって来た。
日焼けは怖いので、半袖の上に化繊の長袖パーカーを着るが(汗に木綿はNGだそうだ)、暑いとテキメンにバテる。日焼け止めを頼みの綱に、パーカーを着たり脱いだり、時折下の方から霧(雲?)が上がって来て日差しを遮ると、ホッとしたりして。
六合目の上の休憩所は七合目なのかと思ったらさにあらず、「本六合目」というのがある。以後、「新」と「本」が各合目ごとにあるようだ。
七合目を超えたあたりから、メンバーに何人か、具合の悪そうな人が出始めた。
私は…大丈夫?うん、多分。岩場を歩くので下ばかり見ていて、首が凝ってしまい、ちょっと頭が重く感じるが。
高山病の予防には、深呼吸と、水を飲む事、そしてゆっくり進む事。心して深呼吸、深呼吸。
ずっと雲海が広がっていた足下が、途中ちょっと晴れて、雲の切れ間から下の街が覗けた。
「…あのキラキラ光ってるのはなに?」良く見ると、五合目に駐車した車の列だった!豆粒みたいに小さい。「こんなに登ったんだぁ」「頑張ったな、オレ」皆のテンション上がる。高い所って好きだ。

七合目は標高2920m。いよいよ緑は無くなって、ゆっくり歩いても息切れ、心臓ドキドキ。深呼吸してもなんか充実感が薄い……3人ばかり、かなり具合が悪そうだ。でも私はむしろ、標高と共に涼しくなって来て楽になった。
それに、頂上までの道程が、もう殆ど見渡せる!これはいい。
合目ごとの休憩所のいくつかは、鳥居が立っていて良い目印になる。道の中腹でも休み休みゆっくり登る。八合目には鯉のぼりがはためいている。目指して進む。
休憩所に着くたびに背負って来た食料を食べた。オニギリ、チョコレート、ゼリー飲料、簡単食、飴、菓子パン、お饅頭、グミ、ラムネ……元気出さなくちゃ、の一心だったが、冷静に考えると食べ過ぎだ…。
中程まではおっかなびっくりだったが、後半に入ったと思ったら俄然気が大きくなって来た。
2本用意した500mlペットボトルが空いたんで500円出して水を買った。
トイレは驚く程完備されていて、綺麗だし水洗。紙もちゃんとある。ただし有料100〜200円。八合目の水洗の水は茶色くてビックリ、雨水を使ってるそうだ。
本八合目(標高3360m!)を超えると、皆だんだん厚着になって来る。今日は本当に上天気でラッキーだったが(やはり雨続きだったそうだ)、それでも休憩してると身体が冷える。せっかく買ったレインウェアなんで上着だけ引っかけて休み、歩き出すとすぐ暑くなるので腰に巻いて登った。
急角度の道と瓦礫のような荒い砂に足を取られ、踏み出した足がズルズルと滑り落ちてしまう。3歩進んで2歩下がる。賽の河原か、ここは。

頂上付近に来ると、突如岩だらけの難所になる。
ここで軍手は必需品、殆ど這うようにして岩場をよじ登る。雨じゃなくて、本当に良かった。
途中何度も顔を合わせた小学生の男の子達も、七合目あたりではグズッて泣いたりしていたのに、ここらではすっかりおとなしく、黙々と登っている。あきらめたのか抵抗する元気も無くなったのか、それとも私同様頂上が見えてヤル気が出たのか?
急な岩場がまた突然終わると、綺麗にならした道の先に狛犬と鳥居が見える。
鳥居を潜ると、頂上に到着!
お昼をだいぶ回ってしまったが、とにかく着いた!
鳥居前で記念撮影。少し進むと「富士山頂浅間大社奥宮」の碑、また撮影。見知らぬカップルにもシャッターを頼まれ、はしゃぐおばちゃんと喜びを分かち合い、山の頂上ではみんないい人だ(笑)。
意外にも元気一杯で、最初の5人の中に入って頂上に着き、後から来る6人を待った。頂上は土産物屋や食堂が建ち並び、携帯で写メールも送れる。
登山好きでない人も多く登りたがる特殊な山だから、だろうが、この景色は俗っぽいと言えばその通りで、あまりに趣が無いかも。
しかし、皆が揃ってから食べた山小屋のラーメン(¥800)は嬉しかった。多分インスタントだが、暖かい汁物が食べられるのは、本当にありがたいし美味しく感じる。
そこで重い靴を脱ぎ、少し横になって休ませてもらったら、一瞬で墜落睡眠。「雨が降りそうですよー」との店の人の声で目覚めた。

予定よりだいぶ遅くなったというので、頂上を一周する「お鉢巡り」は中止。日本最高3776m地点には行かず、火口部をちょっと覗いて下山に入った。
これが、また………、下りの道は、ほぼ直進の急角度。石と砂だらけの砂利道で、足が砂に潜ってしまう。砂塵が舞い上がり視界が白く濁る。
登りでも日差しを避けるため、帽子とサングラスをしていたが、砂を防ぐためにさらに口にバンダナを巻く。
実は出発前、チームリーダーの「大将」が、全員にお揃いの黄色いバンダナを配ってくれて、登山中遠くからでもメンバーが見分けられて重宝した。
その黄色いバンダナで覆面をして、かなり怪しい姿。「誰!?」強盗ができそうだ。
下りの方が足を傷め易いと聞いていたのに、皆かなりのペースで下って行く。それでも七合目までは、揃って降りて行った。
そこでリーダーが立ち止まり、「ここでの最も安全な下り方を教えます」と言うなり急角度の砂利道を駆け下り出した!ウッソ〜!!
カカトから着地。砂に足を埋めて飛び、駆け下りる。一番滑りにくく危険が少ない歩き方で、「砂走り」と言うそうな。
けっこう怖い、マジ、重力が掛かるから途中でセーブできなくなる、かなりのスピードが付いてしまう。
びびる私を尻目に、皆ドンドン駆け下り始める。嫌いだ、体育会系なんて、と毎度の愚痴を心で繰り返し、必死で後を追うが、なにしろ長いし一直線で、スネあたりが吊りそうになった。途中何人かを見失い(足下を見ているしかないから)目立つ赤い上着の女性を必死で追って下った。
途中から霧が深く1m先も怪しくなって来て、軽いが雨も降り出す。一昨年の夏くじいた足首が、昔傷めた腰椎間板が、近頃は時々膝も痛むんだった………頭の中はぐるぐる心配が渦巻きつつ、駆け下りるというより転がり落ちる。一度尻餅をついたが、そんなに痛くもなく、足は疲れて来るがだんだん気分がハイになって、一人で笑ってしまった。
2時間ちょっとで、霧の中急に平地に出た。砂払5合目というその名の通り砂地の終わる地点で、茶店のような施設があり、おじさんが客引きをしている。「五合目まであと2.2キロ、速い人なら30分です。ジュースでも飲んで行きませんか」。
柵に腰掛けて休憩を取りながらメンバーと話してみると、どうやら我々が先頭らしい。一番前を突っ走っていた赤い上着の女性が、リーダーが先に行ってしまったと思って飛ばしていたと言う。
ここで後続を待つが、なかなか来ない。1〜2人づつチラホラ集まって来て、結局小一時間も待ってしまった。
全員揃って、後は林道を皆で下り、最初に通った五合目の山小屋に戻ったのは4時を回っていた。
売店で売ってるソフトクリームを食べて、また一休み。こういう時のアイスって、最高に美味しい!

五合目から車を停めた場所まで下るのは、行きに思った程苦にならなかった。あれだけ歩くと、舗装道路の下り坂なんぞ、どうという事はない(と言うくらい気が大きくなっている)。
とにかく砂だらけの靴を脱いで車に置いてあったサンダルに替え、車で近所の温泉に直行。
もー、温泉、極楽ッ!!
…しかし入浴前、温泉施設のトイレの明るい灯の下で見た自分の顔の物凄さには参った。
spf50+の強力日焼け止めと、スポーツ用のウォータープルーフファンデーションを何度も塗り重ねて「塗り壁」状態の肌。厚塗りになり過ぎたか、笑ったり眉をひそめた(眩しかったから…サングラスをかけていたのに紫外線で目が充血した)時のシワが、そのまま消えずに残ってしまっている、おばあさんみたい。ぎゃー。…歌舞伎の隈取りかも。
(しかし、塗り壁の効果は絶大。入浴後の男性陣の日焼けぶりを見たら恐ろしくなった。)
待望の温泉だというのに、そう簡単にはお湯に浸かれない。まずは厚塗りウォータープルーフを落とすのに悪戦苦闘、次にシャンプーをしようと思ったら髪がバサバサのギトギトでなかなか水が通らない。砂と日差しと強風と霧、それに汗。シャンプーで二度洗いの後、備え付けのリンスをすり込んで放置、ヘアパック代わりにして、やっと髪の毛らしき物に戻った。腕や首の強力日焼け止めもクレンジング剤で落としてから身体を何度も洗う。
そしてやっと一通り洗い終え、湯船に入った時は、本当に生き返った!という気分。
疲労よりも汚れが身にしみる。
温泉を出ると7時半。外は雨、かなりの本降りになっている。本当に梅雨の晴れ間にドンピシャリだったようだ。
高速の渋滞にハマッてしまい、家に帰り着いたのは0時。ほぼ24時間イベントになってしまった。

帰りの渋滞がいちばん辛かった。でも、滅多にない幸運の上天気だったからだな、きっと。
さぞやと思った翌日の筋肉痛も、腿の前が痛いには痛いがたいした事もなく(下り階段は2〜3日辛かったが)、心配した関節は大丈夫だったみたい。
登りはバテてはいけないと思い、休憩所に着くたびに食べていたので、殆ど4時〜14時は食べ詰めだった事になる。なんと体重1kg増!やっべー。あんなに歩いたのにー。
道程は長く予想以上に急傾斜ではあったが、ルートは完全に整備されており、よほどの無茶や悪天候でない限りは安全、という印象だった。でも逆に、人工物が多過ぎ快適過ぎて、登山をしたー、という充実感は薄いかも。なんかトレーニングって感じだったな(笑)。
聞いていた程にはゴミも目に付かなかったが、ゴミ袋を片手に下げて登って来る人達を見かけた。こういう人達のおかげか…、ゴミ袋の中には空き缶やビニールクズが入っていた。まだ棄てる人がいる、という事。ダメだぞ!
なにしろ全員で頂上に立てて、怪我という程の事も無く、途中具合の悪そうな人もいたが、どうやら後遺症も無かったようだ。
本当、皆で無事で良かった。
お疲れ様でした。