った一つの柵



コンコン。とノックをして父の書斎へ入る。
「失礼致します。」
「…何用だ。」
まだ怒っているのかしら。
こんな方法でしか威厳を示せないなんて情けない。
「折り入ってお願いがあります。」
「ほう…言ってみろ。」
私はこの人の考えなんて分かりきっていた。


女は謙虚にする。
男に従う。
女は男に対して敬語を使わなければならない。


きっとこんなものでしょう。
この二つさえ守ればすぐにでも父の機嫌は良くなる。
父は気付いていないらしいけど。
「転校したいのですが…。」
「転校?何故だ。今の学校に不自由でもあるのか?」
違う。
学校は楽しいしスキだ。
友達も居る。
だけど
「…お願い致します。」
「理由を述べよ。」


「…私自身のためです。堂本様との契約の期限は今も過ぎています。私は
今を無駄にしたくはありません。我侭を言っているのはわかっております。
ですが…その期限まだ私は抗いたいのです。一時の夢を見たいのです。」


「…もういい。勝手にしろ。手続はアレにでもやらせておけ。」
話を遮られた事に多少はムッとした。
だけど父が認めてくれた。
「お父様ありがとうございます。」
「…早く下がれ。」
パタンッとドアを閉める。
すると目の前には先程『アレ』と呼ばれていた可哀想な女性。
…私の母。


「鈴音さん…。」
悲しそうな顔。
だけど今の私にそんな顔をしても無駄よ。
「転校の手続と、県立白樺高校への転入手続頼みますわ。」
「何故?今の高校は設備も万端ですのに…。何故そのような学校へ」
「お母様よろしくお願い致します。」
もうこれ以上母の話を聞きたくなかった。
この人は世間体をとても気にする。
だから…浮気に対して何も言えないんでしょう?


そして私は行動に出る。
今までの女学校から私の目的地へ。
私の好きな人がいる白樺高校へ。







「あ〜転校生を紹介する。華南高校から来た富士本鈴音さんだ。」
「よろしくお願いします。」
初めての共学校。
でも私に迷いはない。
あの人を見つけるそのために私は来た。


「えっと…富士本サンだっけ?」
「えぇ。そうよ?」
「私は金本奈加って言うの〜!!よろしくね。」
「えぇ。よろしく。」
…なんか悪いけど脳天気そう。
でもきっと人気があるんだろうな。

そう思い外を見た。
雲一つない空。
とても奇麗だった。

ふと視線を何気なく下に落とした。



そこには私の望んでいた人の姿。
私は一目散に走った。
だけどもうソコに彼はいなかった。