った一つの柵



「この度は私共の躾が行き届かなかったばかりに堂本様にとんだご無礼
を…」
深々と頭を下げてくる義父。
「いいえ。お気になさらないで下さい。私も鈴音さんと勝手に契約をし
てしまいまして…」
…下手に出ておけば富士本がすぐに大人しくなる事はもう分かりきって
いた。




…そう彼女以外は。




初めて鈴音さんを見た瞬間私は恋に落ちた。
迷いなど何一つとしてない様な凛とした眼差し。
しゃんと伸ばした背筋。
その何もかもに惹かれた。
その何もかもを手に入れたいと思った。
だから私は彼女が必然的に私のモノになるように仕向けた。

まず第一に富士本に圧力をかけた。
富士本に関連している全ての業者を買取った。
第二にちょっとした脅しをあの愚かな義父にかけた。

たったのこれだけだ。
これだけの事に恐れをなしたのか経営術などまるで学んでいない義父は
堂本に助けを求めて来た。


裏で堂本が動いていたのも知らずに。


全てが予想通りだった。
これで取引さえ行えば鈴音さんは私のモノになる。
そう思った。


確かに婚約まで漕ぎ着けるのにそう時間はかからなかった。
あっと言う間に鈴音さんは私のモノとなった。
私のモノになったからには彼女に何一つ不自由はさせない。
それが彼女にとっての最高のプレゼントであり。
それが私にとっての最高の幸福であると思っていた。


だがそれは所詮私の憶測に過ぎなかった。


徳本には彼女に関する事全てを調べさせた。
そこには彼女に関するデータが全て入っているはずだった。
そう…はずだったのだ。


だが現実に起こった事は彼女からの拒絶。
それも好きな人がいるから婚約は解消してくれとのおまけ付きだ。
彼女は最初に私が見とれたその目を私に真っ直ぐと向けて言った。
私がその時どれだけ動揺したのか鈴音さん…あなたは知らないでしょうが
ね。


私には今まで手に入らないモノなど無かった。
…鈴音さんを除いては。


だが私がそう易々と彼女を手放すつもりはない。
だから私は彼女にある条件を出した。
それは簡単かも知れない。
だけどきっとあなたには無理でしょう。
世間知らずのあなた。


いままで大事に『飼われて』来たあなたには。


私はあなたが帰ってくるまで精々見守っていてあげましょう。
あなたがどれだけ抗えるか私が見ていて差し上げましょう。


それはあなたにとって最大の地獄でしょう。
ですが私にとっては最高の幸せへのカウントダウンなんです。






だからいましばらくは夢を見させて差し上げましょう鈴音さん。
だがその夢が終わった瞬間あなたにはもう自由を与えません。





この取引をやぶったらどうなるか…あなたはわかっていますよね…?