その彼の言葉。
一瞬何を考えこの様な提案を出したのか理解出来なかった。
『なにこいつ。』
としか考え付かない。
「先輩聞いてますか?」
覗き込むように私の顔を見てくる。
何だか機嫌を伺っている子供みたいな感じ。
『この子は真っ直ぐに育って来たんだ。』
嫌でもそう感じさせられる。
私とは全然違う。
何もかもが正反対。
きっと彼の帰る家にはいつも暖かい明かりが待っているのでしょう。
「…なんでそんな要求なの?」
ふと疑問に思った事を口に出す。
ナンデ?
「あぁ…秘密。」
そう返された。
何よそれ。
わけわかんない。
いいようのないフツフツとしたモノが込み上げてくる。
何なんだろうこの気持ち。
こんな気持ちの正体さえ掴めない。
ふっ…と悲しくなってくる。
「何で?そんなに言いたくないような事なの?」
彼の目を見据えて言う。
人の目を見ながら話すのなんて何年ぶりかしら。
もう遠い昔に思える。
すると少し動揺したような顔色を表しながら
「まだ誰にも言いたくないんだ。別にやましいことじゃないよ?」
そう言った。
『そんなんじゃあ全然わからない。』
そう喉まで出て来た言葉をグッと飲み込む。
「それで俺の要求は呑んでもらえるの?」
なんだか心なしかムッとした表情をした彼。
私は急に黙り込んでいたらしい。
さてどうしようか…。
考える。
だけど結局頭に浮かぶのは
『OK』
の二文字で。
素直に自分の判断に従う事にした。
「わかった。」
そして自分でも驚くほど熱のこもっていない息を吐きながら告げる。
そしてそれ同様に彼も
「それじゃあこれで交渉成立。」
と機械的に言い放った。
だけどどこか微笑んでいるように見えるのは私の気のせいだろうか?
「じゃあね『センパイ』」
そう言うと彼はさっさと居なくなってしまった。
なんだろう何かがいつもと違う気がする。
久しぶりにこんなに会話したからだろうか?
なんだか恐い。