《 頼朝の苦悩 》



福原での戦を終え、私達は今、鎌倉にいる。
鎌倉でもお世話になっているのは景時さんと朔のお邸。
この鎌倉のお邸には景時さんと朔のお母さんがいる。
とても優しそうな人。

時代は違ってもどこか懐かしい鎌倉。
私の生まれ育った場所。
少しはのんびりしたいな・・なんて思ったりもするけど、そうもいかないんだよね。
色々とする事がたくさんあって。
毎日の様に私達は出かけている。

そんな時、ある一通の書状が私の手元に届いた。
それは本当に突然だった。
書状の送り主は九郎さんのお兄さんである源 頼朝。
それを見た瞬間、私は驚いた。一体何だろう?って。
もちろん、八葉のみんなも驚いていた。
私一人で大倉御所に来るようにという内容の書状だった。
内容を知った八葉や白龍は良からぬ事を考えているみたいで、
「一緒に行く」「一人では行かせない」などと嬉しい言葉をかけてくれる。
だけど、これは私を呼び出している内容。みんなで行ったらきっと、頼朝さんを怒らせちゃう・・・
だから、私は「気持ちだけ受け取っておきます。きっと、大丈夫だから」と丁重にお断りした。

私は意を決して頼朝さんの居る大倉御所へ向かった。
みんなには『大丈夫』と言ったけれど、やはり悪い考えばかりが先走ってしまう。
通りで一人立ち止まっていると掛けられる声。

「望美」
「く・・九郎さんっ! どうしたんですか?」
「お前が心配でついてきた」
「ぁ・・ありがとうございます。 でも・・書状には・・・」
「それは分かっている。だが・・どうしても心配なんだ」
「九郎さん・・・」
「お・・俺だけじゃないっ!他の皆も俺と同じ様に心配してるんだっ(////)」

赤面した九郎はぶっきらぼうに答え、顔を背けた。

「はい、それは良く分かってます」
「それに、兄上も同行したのが俺ならば許して下さるだろう。さぁ、行くぞ」

先に立って歩き出した九郎の後を望美は慌ててついていった。
こんなにも、同行してくれる事が心強いなんて思ったのは初めてだった。
さっきまでの不安や心細さが嘘のように消えた。

「九郎さん」
「何だ?」
「もう、大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ?」
「九郎さんが一緒に大倉御所(ここ)まで来てくれたから・・・」
「まだ、門の前だろう?これからだぞ?」
「そうなんですけど、ここで大丈夫です。 私、みんなに『大丈夫』って言ったけれど
 本当はすごく不安で、心細くて、悪いことばかり考えちゃってたんです。
 だけど、九郎さんが来てくれてそんな不安が一気に消えたんです。
 だから、もう大丈夫です。九郎さん、ありがとうございました」
「・・・・・(/////)」

望美の言葉を聞いて再び赤面する九郎。

「だが・・・兄上は厳しい方だ。お前を一人で行かせるなど、できるかっ」
「だからこそです」
「望美?」
「だからこそ九郎さんを連れて行けません」
「お前、何言ってるのか分かっているのか?」
「はい、分かっています。 厳しい頼朝さんだからこそ、私一人で行かなくちゃ。
 九郎さんの気持ちはすごく嬉しいんですけど、それじゃ頼朝さんを怒らせてしまうかもしれないし、
 その事で九郎さんが叱られてしまったりしたら嫌なんです」
「俺が兄上に厳しいお言葉を頂戴するくらい何でもない事だ」
「だって・・それだけじゃ済まない場合もあるじゃないですかっ!
 この世界は・・この世界は・・・平気で人を斬ったりするし・・・・・」
「っ・・望美・・・」

望美の言葉と瞳から零れ落ちた雫にうろたえる九郎。

「私は・・九郎さんが好きだから・・・だから、こんな事で失いたくないんですっ!」
「なっ!お前・・何言って・・・・(/////)」
「と、とにかく戻って下さい。私、行ってきますね?」

ごしごしと涙を拭ってにっこりと微笑みかけると、望美は大倉御所へと入って行った。

「戻れるか・・ お前が出てくるまで、ここで待ってるからなっ!」
と、大倉御所へと入って行った望美の背に九郎は叫んだ。



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