VS劇場 ─9─

 

「地味に努力だな」

「は?」

パブの椅子でショーンは、ヴィゴをまじまじと見た。ヴィゴは、一人何かを納得しているらしく、何度も頷きを繰り返している。ヴィゴの言葉の意味がわからずに、ショーンは、曖昧に頷くと、仲間の方へと視線を戻した。テーブルでは、若い連中が、自慢話、まぁ、おもにいかに自分が彼女を満足させてやっているかということについて、盛大な野次を交えながら盛り上がっていた。夕食からの流れのままに、ヴィゴとショーンは、その話に付き合っていた。

「だから、俺なんかさぁ」

「嘘だよ。彼女がお前のことかわいそうに思ってあわせてくれてるだけ!」

「違うね。絶対本気!あんな顔演技でなんかできるもんか!」

「演技…できない?お前、自分なら、演技できない?」

やり込められたほうは、言葉に詰まって、悔しそうに睨んでいる。ここにいる全員が演技をすることで飯を食っているんだから、出来ないとは答えられない。

「でも、俺、3回以上頑張るし!」

ショーンの隣で、ヴィゴが酒にむせた。ショーンは、驚いて、ヴィゴに視線を戻した。ヴィゴは、なんでもない風を装っていたが、動揺を隠せないでいる。ショーンは、ヴィゴに大丈夫かと表情だけで伝えた。ヴィゴは、軽く手を振った。それから、何を思ったのか、ショーンの手を握った。ショーンは、驚いて慌てて絡められた指を外した。

「もう、酔った?」

小さな声でヴィゴを伺う。ヴィゴは、困った顔をした。

「俺、5回が最高」

「出すだけなら6回」

「それって、最低な奴だ!」

こういう場では、誰もが張り合う。最低な話題のほうが酒が口を滑らかにする。仲間達は、グラスを片手に過去の戦歴を主張しあった。野次も凄い。

ヴィゴは、落ち着かない態度で座っていた。その様子を見かねてショーンは、テーブルから腰を上げた。

「先、帰るからな。お前らも、いい加減にしとけよ」

ショーンが椅子から立ち上がると、ブーイングの嵐だった。その矢面に立って、彼はさり気なくヴィゴにも席を立つよう促す。おやすみや、まだ帰らないで。俺も連れて帰って。ショーンをたくさんの声が追う。伸ばされる酔っ払いの手を押しのけ、ショーンは、全てに笑顔で答えて、ヴィゴだけ連れると背中を向けた。

「ねぇ、ショーン、ショーンは、満足させてる?」

笑い転げるような声がショーンの背中に投げつけられた。ショーンは、酔っ払いに振り返ると、にやりと笑う。

「あったりまえだ。満足させてるし、めちゃくちゃ満足させてもらってるよ」

「さっすが、ショーン!!!」

今日、最大の口笛と悲鳴がショーンたちを店の外へと後押しした。

 

ヴィゴは、店の脇に止めてあった車に乗り込むと、ショーンに襲い掛かるようにして唇に噛り付いた。

「…どうした?」

ショーンは、ドアに押し付けられるように覆い被さられ、驚いていた。

「…本当に、満足してるのか?」

ショーンは、見開いていた目を細めて、吹きだした。ヴィゴは、縋るような目をしていた。

「なんて顔をしてるんだ」

「なぁ、本当に満足してるか?俺たち大概1回か2回で、あいつらみたいに底なしってやり方じゃないし」

ショーンは、笑いが抑えられず、まだ小さく笑っていた。

「あんたの年で、あいつらと渡り合ってるっていうんなら、その方が恐ろしいね。そんな奴と俺はセックスしたくないよ」

ヴィゴは、悲しいようなため息をつく。

「だから、地味に努力?」

ヴィゴが呟いていた言葉の意味がわかって、ショーンは、また小さく笑った。

「努力が必要だろ。回数の足りない分、努力してあんたに満足してもらわないと」

ヴィゴは、車が暗がりに駐車してあることをいいことに、またショーンに口付ける。

「満足してるよ。あんたには、あいつらにはないテクニックがあるだろ?」

それに愛も。

ショーンは、ヴィゴの唇を追って舌を絡めた。ヴィゴは、経験に裏打ちされた甘いキスをショーンに与える。

 

「道具ってのも、一つの手だよな…」

ヴィゴは、キスの合間にふと声を漏らし、ショーンは、顔を顰めた。だが、愛とテクニックに満ちたキスはそのまま続行された。

 

END

 

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