VS劇場 ─6─
「煙草をくれ」
ヴィゴは、衣装のままのショーンの背中からショーンの手元を覗き込んだ。
ショーンの手には、残念なことに空のパッケージが握られている。
「最後の一本?」
「みたいだな」
ショーンは、言わずとも分かることを、敢えて口にするヴィゴの残念そうな様子に、肩を竦めてみせた。
「もう、持ってない?」
「今は、な。トレーラーになら置いてある」
「そこになら、俺も置いてあるんだ…」
要するに面倒くさいといいたいらしい。ショーンは、最後の一本を口に銜えて火をつけた。ヴィゴの目が正直に羨ましいと口元を見つめている。
「ニコチン切れ?」
「頭がくらくらしそうだ」
「そりゃ、大変だ」
ショーンは、煙を吸い込む振りで、ヴィゴに向かって息を吹きかけた。
「おすそ分けだ」
ヴィゴは、目を見開く。
「意地が悪いな」
「野伏のパイプを使ったらどうだ?」
「ガレナスを吸えってか?」
「あんたになら、ブリー村の最高級品が用意されるこったろう」
ショーンは、そろそろ煙草を渡してやろうと思いながら意地の悪いことを言った。
ヴィゴは、突然、後ろを振り返る。
「おい、明日ショーンもバンジーに付き合うってさ」
いっせいに共演者たちか歓声が上がる。とくに、金色の髪をした人間じゃないやつが、飛び跳ねた。
「ヴィゴ!」
ショーンには、バンジーに付き合うことなどできない。仲間も承知しているから、その約束を守らされることはない。しかし、今晩の食事くらいは奢らされることだろう。
「煙草をわけてやろうかと思ったが、もう、止めた。あっちで、誰かに貰って来い」
ショーンは、ヴィゴから顔を背けた。それを追うようにヴィゴの手が伸ばされ、ショーンの口から煙草を取り上げようとする。
「子供みたいな真似をするな」
ヴィゴは、ショーンから火の付いたままの煙草を取り上げ、舌の上で火を消した。
「これであんたも、禁煙だ」
あまりに、にんまりとヴィゴが笑うので、ショーンは苦笑して椅子から立ち上がった。
「…俺は、トレーラーに取りに行くよ」
「じゃ、俺のも頼む」
「なんで…ああ、もう、なんてずうずうしい奴だ」
「持ってきてくれたら、ご褒美とびっきりのキスをしてやろう」
ヴィゴは、ショーンが座っていた椅子に腰を下ろして、ふんぞり返った。
ショーンは、足を止め、ヴィゴに向かって顔をしかめた。
「あんた、今日、朝から歯を磨いたか?ついでに歯ブラシも取ってきてやろうか?」
ヴィゴの顔が盛大にしかめられる。
後ろの共演者が、「王様は不潔だ!」と、囃し立てる。
「お前ら全員、ディープなキスで舌を引っこ抜いてやろうか」
ヴィゴは、うるさい連中を睨みつけた。
ショーンは、トレーラーに向かって足を進める。
本当に歯ブラシを持参して、ご褒美を貰おうかと考えて、すこし笑った。
END