VS劇場 ─4─
「なにがしたいんだ?」
朝から付きまとうヴィゴに、ショーンはいささか閉口して、彼の方を向き直った。
今日は、昼からみんなで釣りにきている。
午前中の打ち合わせのときですら、ショーンの隣に座って譲らす、みんなを困らせていたヴィゴは、オフになれば、全くショーンから離れず、ずっと、ショーンを拘束している。
いつもなら、じっくり釣り糸をたれているはずなのに、ショーンがその行為を我慢できないことを知っているので、釣りざおを仕掛けると、さっさと話の輪に戻ってきた。
そして、仲間が、夕食の食材を心配しても、全く持ち場に戻ろうとしない。
「そんなに邪険にするな。俺がここにいるのは迷惑か?」
「あんたは、釣りの担当だろう」
「釣りは、釣りざおがしてくれる」
いつもと、全く違うことを言うヴィゴに、ショーンは、手を焼いていた。
ヴィゴになにか含むところがあるのはわかる。だが、何を思ってそうしているのか見当がつかない。
「だから、何がしたいんだ?」
「なんだろうねぇ」
朝から、何度繰り返したかわからない会話が、また、二人の間で交わされる。
ショーンは、ため息をついて、ヴィゴを視界から追いやった。
もう、いい加減ショーンだって疲れてくる。
「あっ!」
ショーンが呆れて湖の遠くを眺めていると、ヴィゴの釣りざおに魚がかかったのがわかった。
ショーンは、全くこういう方面に才能がないので、ヴィゴの腕を引き、彼に持ち場に帰るよう促す。
近くで釣り糸をたれている仲間も、一生懸命ヴィゴの名を呼んでいる。
「今晩、魚が食べたい?」
「はぁ?」
いつもなら、すぐに釣りざおに駆けつけるヴィゴが、今日は、全く動かない。
「俺に魚を食わせて欲しい?」
「ああ。そりゃ、魚がつれなきゃ、今晩は缶詰とサラダだからな」
「仕方がない。ショーンは、本当にわがままだから」
どっちがだ!
ショーンは、面倒くさそうに立ち上がるヴィゴに、さっさと行けと手を振った。
ヴィゴは、途中まで歩いて、立ち止まってしまう。
「ショーン、食べたきゃ、おいで」
完全に、つむじを曲げているヴィゴに、ショーンも仕方なく立ち上がった。
湖の端に立つ。
ヴィゴは、全く危なげなく魚を吊り上げていく。
その隣で、ショーンは、おっかなびっくり網をもって魚を待った。
かなり大きな魚が顔を見せる。
ショーンは、慌てて網をだした。
しかし、ショーンは、慌てすぎた。魚はかろうじて網に入ったが、足を踏み出しすぎたショーンは、ほんの浅い場所ではあったが、湖のなかにはまってしまった。
網の魚は死守しているが、自分は、湖の中に尻餅をついている。
まだ、水浴びには早すぎる季節だった。
大きな水音に、仲間たちが歓声を上げる。
ショーンは、情けない顔でヴィゴへと手を伸ばした。
ヴィゴが、びっくりした顔で、濡れた手を掴む。
なぜかはわからないが、手を握ったとき、ヴィゴがひどく嬉しそうな顔をした。
「やっちまったよ」
網をヴィゴに渡しながら、ショーンが服の水を絞ると、全く機嫌の良くなった顔で、ヴィゴはショーンを手伝おうとする。
「一体なんだったんだ?」
酷い目にあったが、とりあえず、恋人の機嫌だけは直ったらしい。
今晩の食材も手に入れたことだし。と、満足して、ショーンは、仲間に笑われる為に、焚き火のもとに戻った。
END