VS劇場 ─3─

 

「はぁ?もう一回言ってくれるか?ヴィゴ」

ショーンは、ソファーの右隣に腰掛ける、ヴィゴの顔をのぞき込むようにして、聞き返した。

ヴィゴは、なんでもないことのように、平然とした顔をしてショーンを見つめ返してくる。

「なにをそんなに驚いているんだ?」

ヴィゴの聞き方が、あまりにも普段通りなので、ショーンの方がとまどった。

やはり、さっきの言葉は、聞き間違いじゃない。

ショーンは、手の中の台本を、握りつぶした。

「・・・落ち着け。落ち着くんだ」

「いや、あんたの方が、落ち着いた方がいい」

ヴィゴは、ショーンの手の中から、直しになった分のコピーを取り上げた。

しわをのばし、ソファーの端へとよける。

「どうして?そんなにおかしなお願いだろうか」

「だって、そんな」

「そんなに変か?」

「おかしいだろ。そりゃ」

「そう?」

ヴィゴは、お願いを実行するため、ショーンの側へと体を近づけた。

ショーンは、限界までソファーの端へと逃げようとしている。

「どうして?普段とそんなに変わらないことだろう?どう違う?」

「違うだろう。ニュアンスが全くちがう。それは、ちょっと・・・俺には出来ない」

ヴィゴは、ソファーの端から、立ち上がって逃げ出したショーンを捕まえ、腕の中に閉じこめる。

「どう?違う?」

腰に回したヴィゴの手の中で、うろたえるショーンをにやにやと笑う。

「違うだろ。これは、抱きしめる。あんたが望んだのは、抱っこ!」

「つまり、こう?」

ヴィゴは、自分よりウエイトのあるショーンを苦労して、膝の上に乗せて軽く揺すった。

ソファーが二人分の重みに、ギシギシと音を立てる。

ショーンは、ヴィゴの体に手を突っ張り、必死に抵抗した。

「あんた!あんたは、自分を抱っこしてくれって言ったんじゃなかったのか!」

さすがに、同じ体格の男を大人しくさせておくことは難しい。

ショーンは、とうとうヴィゴの膝から逃げ出した。

「だって、あんたが、抱っこしてくれないから」

「しないだろう!普通、大人は抱っこしてくれなんて言わない。頼む。おかしなことを言い出さないでくれ」

ショーンが地団駄を踏んでヴィゴに抗議を表明する。

「いいじゃないか。たまには甘えたい時もある」

「やめてくれ・・・はずかしい」

ショーンは、赤くなって何度か頭を振ると、うつむいた。

ショーンのとまどいが、ヴィゴには微笑ましい。

「しょうがないなぁ・・・じゃぁ、抱きしめてくれ、ショーン。このくらいは、お願いしてもいいだろう?」

ヴィゴは、ショーンに向かって腕を差し出した。

ショーンは、その腕をひき、立ち上がらせると、ヴィゴを抱きしめ、キスをした。

「サービスがいいね」

「あんたが無茶な要求さえしなけりゃね」

「そう?」

全く無理な要求をした覚えのないヴィゴは、また今度お願いしてみようと、恥ずかしがり屋の恋人を、ぎゅっと抱きしめた。

 

                                                               END

 

            Back      index     next