VS劇場 ─2─
「ショーン?」
ヴィゴは、カメラを向けるショーンに、眉をしかめてみせた。
「なぜ?笑ってくれればいいじゃないか。笑顔なんて何パターンもできるだろ?」
ショーンは、ビーチのパラソルの下で、デジタルカメラを構えていた。
しかし、それに、気づいたヴィゴが顔をそむける。
「ショーン、新しいカメラが使いたいんなら、あっちでやってくるといい。きっとメモリーが一杯になるまで、あいつらならポーズを取ってくれる」
ヴィゴは、サングラスを手に取り、波打ち際でビーチバレーをする仲間に、顎をしゃくる。
あくまでモデルになりたくないと、体現するヴィゴに、ショーンは、憮然とした。
「俺は、ヴィゴが撮りたくて、ここでカメラを構えてるんだ」
ショーンは、乱暴にカメラを机の上へと置く。
ヴィゴは、ショーンの抗議が聞こえているはずだが、知らぬ顔で持ってきた雑誌に目を通している。
「どうして?ヴィゴは、写真嫌いじゃなかったと思うんだが」
「嫌いじゃないよ。だけど、今は、いやだ」
「本当に?俺に撮られるのはいやじゃなくて?」
「それもあるよ。ショーンに、撮られるのは、嫌だ。・・・がっかりするからね」
ショーンは、ヴィゴと会話を続けるのが嫌になって、机の上のタバコを取った。
「機嫌が悪くなった?」
ヴィゴが、伺うように、ショーンを覗き込む。
「ああ、悪いね。どっかの誰かさんが、くそ意地のわるいことをいうからね」
「そりゃぁ、言うよ。どうせあんたは、これが仲良くなった友人のヴィゴだとかなんとか、本国の友達に見せるために写真を撮るんだ」
ショーンは、タバコをくわえたまま、片眉を上げる。
「そうだろう?今度のオフを意識してそのカメラを買ったんだ」
ショーンは、とりあえず、タバコを消して、ヴィゴの顔を見る。
「・・・やきもちか?」
「まぁ、そうともいうね」
「俺は、それをどう受け止めれば?」
「そのまま、素直に」
ヴィゴは、カメラを取り上げた。
「ショーン、あんたの営業用の笑顔を見せてくれ、最高のだよ」
ショーンは、ヴィゴの手から、カメラを取り上げた。
「悪かった。俺が悪かったから」
「そうだ。あんたは、何重にも俺に謝るべきだ。でも、わかればいい。俺の写真は、今度の機会にしてくれ」
「ああ」
ショーンは、はしゃいでいた気持ちが沈んでしまった。
手の中に収まるカメラを弄ぶ。
ヴィゴは、すっかり反省した様子のショーンに手を伸ばした。
「でも、そのカメラはいいな。どんな写真を撮っても気軽にプリントできる」
ショーンの手から、カメラを取り上げる。
機能を点検するように、あちこちを眺め回す。
「今度、二人っきりのときに、リラックスしたあんたの顔を撮ってやる。誰も見たことのないようなのをな」
ウインクしてカメラを構えるヴィゴに、ショーンは、あることを想像して、ヴィゴの手からカメラを奪い返そう慌てた。
「ショーン、何を?」
ヴィゴが大げさにおどけてみせる。
「あんたが赤くならなくちゃいけないような、そんなのじゃないよ。ただの、プライベートフォトだ。期待に添えなくて申し訳ないがね」
日焼けではなく、赤いショーンの顔に、ヴィゴはシャッターを切って、笑った。
END