VS劇場 ─11─
「なぁ…」
ショーンの足がヴィゴの背中に乗っていた。
ショーンは、シーツの端で、軽く口元を隠し、思い出し笑いをしていた。
「なぁ、ヴィゴ、お前さ、世界中の女が自分に甘いと思ってるだろう?」
ヴィゴは、髪をかき上げながら、肩越しにショーンを振り返った。
目の色が何を言い出したんだと、ショーンに聞いていた。
「…だって、ヴィゴ」
ショーンは、また思い出したのか、くすくすと笑った。
目が細くなって、とても楽しそうな顔だった。
「お前、十年後に破産してたら、また、花売りをやるってインタヴューで答えてただろう?それって、確実に買って貰えると思っているから言えることじゃないか?十年たとうが、二十年たとうが、そのハンサムな顔は変わらないってか?」
ショーンは、笑いながら、ヴィゴの背中を軽く蹴った。
ヴィゴは、蹴られた勢いを使って、身体を転がし、ショーンに向かって横になった。
「珍しいものを読んでるじゃないか」
ヴィゴは、からかうように、目元だけでショーンに笑った。
それは、ヴィゴがかなりミーハーな雑誌の取材に答えたものだ。
ショーンは、もう一度蹴ろうとしているのか、届かなくなった足先をヴィゴに向かって伸ばした。
ヴィゴは、腕を伸ばして、ショーンの足を捕まえた。
「ショーン、あんたもする?」
「何を?花売りを?」
ショーンは、ふざけるように爪先に口付けるヴィゴを笑った。
ヴィゴは、目の色だけでショーンを口説いていた。
ショーンは、すこし、考える振りをして、くしゃくしゃと顔を緩めてヴィゴを見つめた。
「花売りより、一緒に旅に出ようか。どうせ、そういうお気楽な計画なんだろう?今の生活も楽しいけど、あんたは、もっと時間がのんびりと流れてもいいと思ってる」
「まぁね。無一文になったら、また新しいものが見られるだろう。そんな時、ショーンが隣にいたら、楽しいかもしれないな」
ヴィゴは、愛しげにショーンの足へと頬擦りをした。
「じゃぁ、一緒に旅にでよう。それで決まりだ」
2人は、悪戯な顔をしてキスをした。
しかし、キスの途中で、ショーンが、あっ、っと、声を上げた。
「悪い、ヴィゴ。やっぱり俺は旅にはでない。あんたと旅に出るとなると、ちゃんとテレビのあるところにいられるとは限らないし、リーグ戦が始まったからって、本国に帰ってくれないだろう?」
ショーンの目がまじまじとヴィゴ見た。
「シェフィールド?」
ヴィゴは、目を丸くして至近距離のショーンを見た。
「そう。これだけは、一生、応援するって決めてるからね」
実現するとは限らない恋人との甘い約束より、サッカーを優先するショーンにヴィゴは呆れた。
ショーンは、嬉しそうな顔で、ヴィゴの鼻にキスをした。
「俺が応援してやらないと、チームが勝てないから」
「…そうか?」
ショーンは、真剣な顔で頷く。
「じゃぁ、俺は一人旅か?」
ヴィゴは、すこし悲しげな顔を作って、ショーンを見た。
ショーンは、その表情を鼻に皺を寄せて、馬鹿にした。
「わかった。じゃぁ、俺は、そのころ南仏に別荘を買っている予定だから、そこで花を作ってやるよ。それを、ヴィゴが売れ。俺は花の世話をしながらテレビで試合を見る。ヴィゴは、花を売って、のんびり暮らせ」
ショーンは、胸を張って、ヴィゴに言った。
ヴィゴは、自分と同じくらい着実な人生というものと縁遠そうなショーンを見つめ苦笑いした。
「ショーンに任せておくと、一生実現しそうにないから、俺が破産しないように心掛けるよ」
ショーンが何で?と、不思議そうな顔をした。
ヴィゴは、ショーンの頭を引き寄せキスをしながら、愛しているよと、囁いた。
「俺もだよ」
ショーンは、ヴィゴのキスに応えた。
「でも、何でだ?なんで破産しないように心掛けるなんて言うんだ?ヴィゴ。俺に別荘が買えないと思ってるのか?」
「いや、そんなことは、思ってない。それだけの仕事をショーンはするだろうさ。だけど、同じくらいあんたは使っちまうだろう?あんたに任せておくと、纏まった金が手に入ったら、サッカーチームを買うくらいのことはしちまいそうだ」
ショーンは、にやりと笑った。
それはいいと、キスの途中で、思案し始めた。
ヴィゴは、楽しげな恋人をもう一度自分に夢中にさせるため、唇以外の場所にもキスを始めた。
END