朝帰り 4
ショーンは、ダッシュボードにぶつかったヴィゴに、手を伸ばした。
乱暴にヴィゴを引き寄せ、腕の中に抱き込む。
ショーンは、大きな人形でも抱きかかえるように、とても不器用にヴィゴのことを抱きしめた。
まだ痛むヴィゴの背中をポンポント叩く。
ヴィゴが痛みに顔を顰めても、続ける。
痛いと口で言っても、やめようとしない。
ヴィゴは、緑の目を呆れた思いで見つめた。
「ショーン、一体何がしたいんだ…」
「痛かっただろうなぁと、思って」
「そりゃ、痛いさ。あんた、手加減なしだったからな。いや、そうじゃなくて、こうやって、抱きしめてくれるってことは、続きをしてもいいってことか?」
ヴィゴは、半ば呆れ、もう、ほとんど投げやりな気持ちで、ショーンの耳元で囁いた。
殆ど悪ふざけで、甘ったるく囁く。
鼻から吸い込むショーンの匂いは、ヴィゴを煽ったが、あんなにも強く突き飛ばされるようでは、続きは望み薄すだと、ヴィゴだって自覚していた。
ショーンは、いろいろと混乱していた。
あんなにわめいたり、泣いたりしたのだ。
いや、ヴィゴ自身、ショーンの態度をどう受け止めればいいのか、混乱していた。
上手くショーンの気持ちを受け止めかねていた。
ヴィゴがせめてとばかりに、ショーンの首筋に顔を埋めてそこの匂いを胸に吸い込んだ。
その音を聞きつけて、ショーンが、ヴィゴの背中を引っ張った。
目を眇め、口を尖らせて、ヴィゴを見る。
「あんた、意外に高くつくんだな」
ショーンは、聞くヴィゴが、額に皺を寄せえて首を捻らなければならないようなことを言った。
「毎日側に居てもらうためには、どうすればいい?毎日キスすればいいのか?それだけじゃ、足りないか?」
ショーンの顔を真剣だった。
だが、ヴィゴには、どういうことを考え、ショーンがこんなことを言い出したのか、ほとんど見当がつかなかった。
「ショーン?」
「足りない?それとも、何もしなくとも、側に居てくれる?」
ショーンは、ヴィゴのことをけちんぼだとも言うように、恨みがましい目をして睨んでいた。
おまけに、早く、結論を出せ、思い切り急かした。
ヴィゴは、額に皺を寄せるほど、不機嫌に急かすショーンを見て、おもわず自分も額に皺を寄せた。
ショーンの態度が、理解し難い。
何を言い出したのか、わけがわからない。
誰が代金を支払えと言ったというのだ。
仕方なくヴィゴは、泣き喚いた名残で、頬を赤くしているショーンがとても酔っているんだということで、自分を納得させた。
大抵、ショーンは幸せな酔っ払いだが、今日は悪く酔ったのだろう。
ショーンがわめきたてるのも、大声で泣くのも、かなり珍しい。
人間、酔っているときは、感情の箍が外れやすい。
下手をすると、今日キスをしろと言ったことだって、明日には忘れているのかもしれない。
「ショーン」
ヴィゴは、甘い声でショーンを呼んだ。
「なんだ?キス以上ってのは、なしだぞ。それは、困るんだ。そういうのは、困るんだ。それに、いままでは、何もしないでも、側に居てくれたのに、急に料金を払えだなんて、ヴィゴはずるいぞ」
もう、わかったから、何もなしでも、側にいてやるからと、口約束だけ与えて、ショーンを安心させてやるつもりだったヴィゴは、ショーンの不満に、思わず眉間を指で押さえた。
子供のように不機嫌に言いたてるショーンの言葉を聞けば、聞くほど、頭痛がするような気がした。
ヴィゴには、一度だって、ショーンに料金を払えなんて請求した覚えがなかった。
ヴィゴが示したつもりの愛情を、どうしてそんな理解の仕方をするのだろう。
「どうなんだ、ヴィゴ。俺のキスじゃ納得できないってのか?」
ヴィゴが答えられずにいると、殆ど、脅すような勢いで、ショーンがヴィゴを引き寄せた。
3歳児のキスのほうがまだマシだと思う、すばらしく手抜きなキスがヴィゴの唇を覆う。
「ほら、追加サービスだ。必ず明日から、俺の側にいると、約束しろ。俺を避けるなんて許さない。俺を見ないなんて許さない」
つよい目がヴィゴを見つめる。
「わかった?ヴィゴ」
ショーンは、唇をぶつけたただのキスから、ヴィゴを引き離し、強く念を押した。
ヴィゴは、情けない思いになりながら、頭をたてに振った。
頷く以外、他に方法が思いつかなかった。
頑なな顔をしたショーンは、ヴィゴに誤魔化しを許さなかった。
胸元を固く掴まれているから、と、いう以上に、ショーンの切ない目は、ヴィゴに約束を求めていた。
撮影所には、一見もと通りの風景が戻っていた。
ショーンの隣に、必ずヴィゴがいて、2人は、台本のことについて語り合い、立ち位置について、議論しあい、たわいもないことで笑いあった。
今までと違うのは、そこに、ふたつばかり頭数が増えたことだ。
すっかりショーンに懐いたイライジャと、オーランドは、ヴィゴが元の位置に戻ろうと、自分たちが得た立場を放棄するつもりはないと、事あるごとに、2人の間に割り込んだ。
ショーンの背中や、肩は、イライジャの枕になったし、大声を上げてショーンが笑っている時には、必ずオーランドが側で笑っていた。
どこでも寝られるが、物凄く目覚めのよいイライジャでも、ショーンの側は別のようだった。
次第に眠りは深くなり、呼びにきたスタッフに揺さぶられるまで目覚めないことも、一度や二度でなかった。
一方、オーランドは、ショーンを独り占めにしようと自分の見つけた散歩道や、秘密の休憩場所に、ショーンだけを引っ張り出すようになった。
ショーンは、オーランドに腕を引っ張られながら、ヴィゴがどこにいるのかを、必ず確認した。
ヴィゴがショーンの背中を見つめていることを確認すると、ほっとした顔をした。
そうして、何か思い悩む顔をして、緑の林の中へとオーランドと消えていくのだ。
ヴィゴは、その姿を最後まで見送らされる。
「ヴィゴ…なんか、大変なことに巻き込まれてる?」
この暑い中、猫のように丸まって、テントの中で眠っていたイライジャが、撮影から戻ったヴィゴの気配に気付いて、即座に顔を上げた。
ヴィゴは、そこにイライジャがいること自体、気付いていなかったので、むっくりと起き上がったイライジャに思わず踏み出しかけていた足を空で止めた。
「いると、思わなかった」
「ここにいなきゃ、俺、今日の撮影できないんだけど」
ヴィゴは、ゆっくりブーツの足を下ろしながら、肩を竦めた。
「この暑い中、よく眠れるな」
「殆ど寝れてない。素敵な枕が、お出かけしちゃって」
イライジャは、どこか楽しげに苦笑した。
「素敵な枕…か。どこに行った?」
「また、オーリに攫われていった。もう直ぐヴィゴが戻るからとか、なんとかかなり抵抗してたけど、あの強引さで誘われたら、逃げ出せないよ」
「ふーん」
ヴィゴは、なんでもない振りで、椅子を引いて、腰掛けた。
腰の剣が、椅子に当たってカチャカチャと音を立てた。
もう、聞きなれた音だった。
イライジャも、彼のために特別に広げられていたブルーシートから立ち上がり、ヴィゴの隣に腰掛けた。
さり気なく距離を取ろうとしたヴィゴのことを、イライジャは、自慢の透き通った目で強引に捻じ伏せてきた。
どこまでも、透明なだけに、純粋な恐れを抱かせるイライジャの目でじっと見詰められて、ヴィゴは、仕方なく視線を合わせた。
イライジャは、すっかり大人しげで、かわいらしいフロドの顔をしながら、目だけが、外見を裏切っていた。
その目でじっとヴィゴを見つめる。
「ヴィゴ。ショーン、ちょっと変じゃない?あんた達の間に割り込んでる俺が言うのも、おかしいんだけどさ、ショーンってば、やたらヴィゴのこと気にかけてるよね。ちょっと、前は、無理に距離を置こうとしてたけど、いまじゃ、反対にべったりじゃん、あれって、どういう意味?」
まだ、たった4日だ。
ショーンの態度が変わって、4日しか経っていない。
イライジャは、聡い目をしてにやにやとヴィゴの表情を盗み見ていた。
「そうか?」
ヴィゴは、とりあえず、しらをきることにした。
ショーンのためにも、自分のためにも、軽々しく口にできないことだった。
ショーンが、毎日ヴィゴに支払いを続けていることなど、話してきかせる必要もない。
そうされたからでは、ないけれども、ヴィゴがショーンの側を離れない理由を聞かせる相手は、イライジャではない。
イライジャは、悪魔のような顔で、にやりと、口の端を上げて笑った。
似合わない。いや、似合うが、フロドのメイクには似合わない。
「またまた、どうやって、俺を丸め込む気なのさ。上手い嘘になら、乗ってやってもいいけど、頭使ってくれないと、俺、つまんないのは嫌だからね。そんなことしたら、じっと、あんたたちのこと、観察しちゃうよ。あんたは、無理でも、ショーンの方は、きっとぼろを出すよ。多分、あんたにちょっかいだしたら、一発だね。なんだろ。あれ、ただくっついてるだけじゃなくて、ヴィゴに指一本触れるなと、あんたにべったりくっついてガードしてるよね」
イライジャの観察は正確だった。
そう、ショーンは、べったりとヴィゴの側を離れないだけでなく、ヴィゴに近付く人間をことごとく警戒していた。
それも、必要以上に。
見当違いにも、その筆頭はオーランドだ。
ヴィゴは、イライジャのにやにや笑いから、目を反らした。
イライジャの大きな目が追ってきた。
ヴィゴのことも観察している。
「観察なんてすると、素敵な枕が、お前のことを嫌いになるかもしれないぞ?」
下手な逃げだと思った。
「そういう脅し?」
案の定、イライジャは、鼻で笑った。
ヴィゴは、小さくため息をついた。
イライジャの聡さは、そうとう複雑な人間関係で練られてきたものだ。
これを少しでも、ショーンが持ち合わせていたら、こんなに捩れた展開にはならなかっただろう。
ヴィゴは、頭の悪い緑の目を思い出して薄く笑った。
そして、ショーンのために、適当な部分まで、情報を開示する方を選んだ。
どうせ、イライジャは、逃がしてくれない。
「最初は、ショーンが距離を置いてたんだが、しばらく前に、俺から距離を置いたろ。そうしたら、ショーンが、山猫みたいにヒステリィーを起こしたんだ」
勿論、お前は気付いてたと思うけど。と、ヴィゴは、イライジャの顔をみた。
「ふ〜ん。なるほど。で?」
イライジャは、当然という顔で、続きを促す。
「それが、お前が知りたがってる、あの晩のことだよ。あの晩は、大喧嘩をしたんだ。そしたら、急に反省でもしたんじゃないのか?それから、俺が戸惑うほどべったりなんだ。相当喧嘩したからな。多分、なにか不安になっているんだろう。撮影もしんどくなってきているしな」
俺は大事な親友だし。ヴィゴが笑って見せると、イライジャは、何度か大きく頷いた。
全く納得していないが、その程度で勘弁しておいてやろうという態度がみえみえだった。
「仲直りしたんだよ。元通りだ。喧嘩したらから、より仲良くなった。それだけだ。納得してくれるか?」
ヴィゴは、もう、空っぽだと、両手を広げて、イライジャに見せた。
「これ以上は話すことがない」
ヴィゴがおどけて見せると、イライジャは、もう一度、大きく頷いた。
そして、暑い太陽に照らされ、青々と茂っている草を眺めた。
青い、透明な目が、じっと動かない。
「ヴィゴ、あんたは、ショーンとの間に、俺や、オーリが割り込むことを許す?」
まるで何かのついでのように、イライジャが聞いた。
明るい声だったが、含みがあった。
多分、ショーンなら気づかない、もし、気付いてしまったのなら、大きく傷つくだろう、含み。
勿論、ヴィゴには、わかってしまった。
「…許すさ。ショーンに嫌な思いをさせなきゃね」
ヴィゴは、穏やかに返した。
ヴィゴは、誰も、気付かなくとも、イライジャなら、ヴィゴとショーンの関係に気付くだろうと思っていた。
そして、それを見逃してくれるだろうとも。
イライジャは、小鳥が囀るような声で笑った。
「もう、ほんとに、仲良し中年コンビなんだから。焼けちゃうね」
やはり、なんもないことのように、イライジャは受け流した。
スタッフが、イライジャに、手を振って合図をした。
主役の出番だ。
イライジャは、マントを取り上げ、肩に羽織った。
照り返しの強い太陽が顔を泥で汚したフロドを待っている。
「じゃ、早めにオーリから、ショーンを取り返しておいでよ。きっと、ショーン、泣かされちゃうよ」
セット中でイライジャの到着を待っているショーン・アスティンに駆け寄りながら、イライジャは、ヴィゴに笑いかけた。
「しらないよ?ヴィゴがぐずぐずしてると、オーリに攫われちゃうかもね」
駆け出していく、巻き毛の下の、人を食った笑いは、フロドではなく、イライジャ本人の顔だった。
ショーンは、ヴィゴの車の助手席に座っていた。
撮影が終わって、時間さえあえば、ショーンは、ヴィゴの車で送られたがった。
多少、時間が遅くなっても、撮影を眺め、ヴィゴを待っていることすらあった。
だが、ヴィゴの車に乗り込むからといって、ショーンがヴィゴを家に招くわけではない。
以前のように、ヴィゴの家に泊まりこむわけでもない。
ただ、ヴィゴの時間を余分に奪い取り、ショーンの家まで送らせるだけだ。
そして、車を降りる直前に、今日の分の代金を支払う。
怠惰にも座席に座ったまま、金の睫を閉じて、ヴィゴを手招く。
「ん…」
唇を重ね合わせて、柔らかく吸い上げてやれば、緩く口は開けられる。
待っている。
気持ちよく、口の中を愛されることを期待して、舌が口の中で浮き上がっている。
「ショーン」
キスの合間に、優しく名前を読んでやると、気持ちの良さそうな顔をする。
全く、自分で努力しようとしないくせに、ヴィゴが怠けようとすると、鼻を鳴らして、抗議する。
抱きしめてやると、もっと、もっとと、甘えかかる。
だが、決してその先には進ませない。
うっとりと酔ったような目をしているくせに、キスを止めようとすると追ってくるくせに、体中から、いい匂いをさせているくせに、ショーンは、余分には決して支払わない。
そもそも、こんな支払いをヴィゴは望んでいない。
どうせなら、ショーンの腕に抱きしめられてキスしたい。
「ショーン、そろそろいい?」
何度も唇を甘く挟みながら、ヴィゴは徐々に顔を離そうとした。
潤んだ目を薄く開けたショーンは、サービスの悪いヴィゴを未練がましい目つきで眺める。
「もう少し?」
「……」
ショーンからの返事はない。
シートに寄りかかって、少し顎を上げたまま、キスの続きをまっているくせに、ショーンは、自分から求めようとしない。
「ショーンが、もう少し協力的になってくれたら、情熱的なキスをプレゼントしてもいい」
せめて、腕を上げて欲しくて、ヴィゴは、ショーンの顔をじっと見つめた。
ショーンは、唇を尖らす。
「…やっぱりヴィゴは、けちだ」
どうしょうもないショーンの物言いに、ヴィゴは、ショーンの顎を掴み上げ、ショーンの気の済むまで、口の中を舐め回した。
ショーンが大好きな上顎の部分は、とくに念入りに何度も触れた。
ショーンは、鼻から甘いいい声を上げている。
すっかり、力を抜いて、ヴィゴに任せきりになっている。
ショーンは、このままシートを倒して、ショーンの上に伸し掛かってやろうかと、ヴィゴが腹立たしくなるほど、満足した顔をしていた。
「ショーン、あんた、いつもこんな風じゃないんだろう?」
唇の端をヴィゴの舌で舐められながら、気持ちよさそうに目を閉じている金髪に、ヴィゴは、唇を歯で甘噛みした。
浜辺でそうした時と違い、ショーンに怯えはない。
それどころか、痛みの手前にあるつよい快感に、もっとと、顔を寄せてきている。
「ショーン、あんたは、いつも、気持ちよくしてもらうばかりなのか?俺を気持ちよくしてくれないのか?こういうのは、不公平じゃないのか?」
「…ヴィゴがキスしてくれた方が、気持ちいい」
「だから、そういう問題じゃなくてだな。俺にやられっぱなしは、ごめんだとか、少しは、ファイトを燃やせよ。あんた、手抜きにも程があるぞ?これで、代金を支払っているつもりなのか?」
ショーンが、目を開いた。
傷ついた目をしていた。
「努力しないと、ヴィゴは、また俺から、離れる気なのか?」
ショーンが身体を起こした。
ヴィゴとの間を詰めようとした。
「…離れやしないよ。しないけどな。こんな位なら、キスなんてさせてもらわないほうがいい」
ヴィゴは、ショーンがヴィゴの服を掴むのを見ながら、苦い顔をして笑った。
「これじゃ、足りない?ヴィゴは、満足しない?俺の身体を撫で回したい?俺とセックスしたい?」
「はっきり言えばそうだ。でも、それだけじゃない。俺は、ショーンに愛されたいよ。こんな代金なんて本当は、要らない。ショーンが、俺を必要だと言ってくれたら、いつでも、側にいる。いつまでも、側にいる。わかってるんだろう?俺は、あんたのことを愛している」
ヴィゴは、ショーンの顎の下に指をいれて、擽るようにした。
「わからないなんて、言うほど、そこまで、ショーンは、馬鹿じゃないよな。俺は、あんたのために距離を開けたんだ。あんたが逃がして欲しそうだったから、逃がしてやっただけだ。いつでも抱きしめてやるつもりだよ。だから、なにも無理しなくていい。こんなことは、しなくていい」
ヴィゴは、唇の先に小さく触れるキスをした。
「追い詰めて悪かった。俺が先走りすぎたんだ。あんたのことを多少誤解していた。もっと、簡単に考えていたんだ。ショーンを泣かせたいわけじゃなかった」
ショーンは、縋りつくような目でヴィゴを見つめた。
ヴィゴにとって、この目が一番堪らなかった。
こんな風に見つめられると、理性が飛びそうになる。
あたりは、すっかり寝静まっていて、車は、ショーンの家のポーチの中に入り込んでいる。
誰も見ていない。
ここでだってできるし、家のドアさえ開けてしまえば、もう、周りに関係なく、ショーンをかわいがってやることだってできる。
「…ヴィゴは、俺とは、キスしたくない?」
しっとりと濡れた唇が誘惑していた。
「あんたが、怠け者でなければ、キスしたいよ」
ヴィゴは、ショーンをからかうようにしながら、自分の息が熱くなっているのを感じていた。
ショーンは、ヴィゴに覆い被さり、簡単に舌を絡めると、あっさりと退いていった。
何が起きたのか、一瞬、ヴィゴにはわからなかった。
「あんた程、上手くできないんだ。それじゃ、ダメ…なんだろう?」
ショーンが自分の唇をペロリと舐めた。
「…ダメか、どうか試してみるか?」
急激に熱くなった体温をどうすることもできなくて、ヴィゴは、ショーンに覆い被さろうとした。
緑の目が、恥かしそうに何度も瞬きしていた。
ヴィゴは、ショーンの腕を掴んだ。
だが、その前に、ショーンは、車のドアを開けてしまった。
ヴィゴがショーンの体を押さえ込もうとするより前に、ショーンは、するりとそこから脱け出し、車から外に降り立った。
「おやすみ、ヴィゴ。今日の代金は、支払済みでまけといてくれ」
下手なキスを恥じているのか、小さく首を傾げてショーンは照れ笑いを浮かべていた。
「明日は、オーリとドライブに行く約束なんだ。この週末は会えないけど、来週は、俺のために予定を空けといてくれよ」
逃げるように、ショーンは、ドアの中へと姿を消してしまった。
もう、暗闇しか車の中には残されていない。
ヴィゴは、笑うしかなかった。
本当に、金髪は、頭が悪い。
反省をしらない。
一度オーランドに泣かされて、帰ってくればいいのだ。
そうしたら、逃げ出せないほど思い切り抱きしめて離さない。
感想が欲しいと、騒ぎ立て、ご迷惑をかけました。
しかし、言ってみるものですね。(笑)
優しい方々から、とても嬉しい言葉を頂きました。
ありがとうございました。(幸)