朝帰り 3

 

思っていたよりも、ショーンの砦は強固だった。

時折、何故そうなのか、恨むような目をヴィゴに見せるくせに、一歩もその中から、出てこようとはしなかった。

ヴィゴとの間に、人が不審に思わない程度の距離を置き、食事は一緒に取るが、決してヴィゴの車で送られようとはしなかった。

撮影現場では、隣に座るくせに、誰かの家で飲むときには、膝の上をホビット達に占領させたりした。

今も、ソファーに寄りかかって、眠りかけているショーンの腹の上に、ドミニクが頭を乗せていた。

ショーンは、全く反省していなかった。

ヴィゴが言ったことなど、聞いていなかったのではないかと思わせるほど、オーランドに寄りかかり、イライジャを構い、ドミニクや、ビリーと慣れない悪戯を仕掛け、アスティンと、演技について話し合っていた。

近頃のショーンの隣には、オーランドか、イライジャのどちらかが、立っていた。

今の状態だって、正確に言えば、腹の上に、ドミニクの頭を乗せて、足元では、オーランドが、膝に頭を寄せて居眠りをし、ショーンの手を抱き込むようにして、イライジャがソファーの上に丸まっている。

これだけ居れば、ヴィゴが一歩も近づけないだろうといわんばかりだった。

ヴィゴは、金髪の頭の悪さに、すこし呆れた思いだった。

警戒するショーンを怯えさせないため、ヴィゴは、距離を取ったが、そうやって眺めていると、ショーンのやり方の不味さばかりが、際立って見えた。

逃げるにしても、やり方がある。

こんなことばかりしているから、ちょっと付き合っただけの女相手に、後ろも見ずに逃げ出さなければならない窮地に追い込まれるのだ。

しかし、そんなショーンのみっともないところすら、愛しいとヴィゴは思っていた。

もっと、無様にあがいてくれたら、嬉しいと感じている。

足元に転がった酒瓶をテーブルに上げながら、ヴィゴは、小さくため息を落した。

さっきまで、ショーンと、オーランドは、週末に行くドライブのことで盛り上がっていた。

あれほど、自分のとる行動の意味を考えろと言ってやったのに、全くわかっていない。

ショーンは、オーランドの目の色が、変わってきていることに気付きもしない。

金髪は、頭が悪い。

本当に、ショーンは、反省という言葉の意味を知らない。

 

「ショーン」

ヴィゴは、ショーンを自分の車に詰め込もうと、ショーンの顔を軽く叩いた。

うとうとと眠りかけていたショーンは、はっとしたように、目を開いた。

だが、眠いのだろう。瞼が自然に落ちていく。

「ショーン」

もう一度ヴィゴが、名を呼ぶと、ショーンではなく、隣で丸まっていたイライジャの方が目を覚ました。

ショーンの腕に顔を擦り付け、甘えるような態度を取ると、伸びをして、顔を上げる。

「ヴィゴ、帰るの?」

「ああ。そろそろ。お前も明日早いんだろう?このまま泊って行くのか?」

「う〜ん。どうしよう。そうしちゃおうかなぁ」

イライジャは、寝起きとは思えないすっかり目の覚めた顔で、ヴィゴを見て、もう一度大きく伸びをした。

ヴィゴの手が、ショーンの頬に触れているのに気付いて、首を傾げた。

起きたばかりで、頭の中がフル回転だ。

いつも思うが、眠っていたことが嘘のようだ。

「ん?ショーン?ショーンのこと連れて帰るの?なんか泊ってくみたいなこと言ってたよ?」

「ちょっと、話したい事があってね」

聡い顔をしたイライジャに、ヴィゴは苦笑を返した。

イライジャは、ほんの少し、ショーンのことを心配そうな目で見て、小さく肩を竦める。

「近頃、ショーンの態度が悪いから?」

「近頃、ショーンが俺と遊んでくれないからさ」

イライジャは、大きな目を何度も瞬きして、意地悪く笑った。

「ヴィゴがなにか悪いことをしたんだろう。まぁ、いいんじゃないの?ちょっと、ヴィゴとショーンは仲良すぎだったし、今くらい、ショーンの事を俺たちに分け与えてくれても全然罰が当たらないと思うな」

ヴィゴは、肩を竦めるしかなかった。

じろじろと、ヴィゴを観察するイライジャの目の重圧に耐えながら、ショーンの肩を叩き、眠りから起こす。

「ショーン、帰るぞ」

「…ん?ヴィゴ?なんで?もう?」

「もう、とっくにお開きだよ。家まで送ってやるから、車に乗るぞ」

「…眠い」

ショーンは、大きなあくびをして、ぼんやりとヴィゴを見上げた。

このところ見せる警戒心に溢れた目を忘れていた。

緑の目が、あくびで出た涙に濡れていた。

「こんなところで、朝まで寝る気か?あんたは、明日ゆっくりでいいんだろう?家のベッドで寝たいんじゃないのか?」

「…ベッドで寝たい…」

「じゃ、車に乗れ。家まで運んでやる」

ショーンは、のろのろと、ドミニクの頭を腹の上から降ろし、そこで、大きく息を吸い込み、それから、オーランドの頭をソファーに寄りかからせた。

「ショーン、大丈夫?」

完全に寝ぼけている様子のショーンに、イライジャがキッチンまで走っていき、コップの水を渡す。

「ありがとう」

ぐいっと、水を飲み干すと、ショーンは、大きなため息を落した。

だが、まだぼんやりしている。

「ねぇ、ショーン、ほんとに、ヴィゴと帰るの?」

寝ぼけているのなら、このまま拉致してしまおうと考えていたヴィゴを裏切り、イライジャが、ショーンに耳打ちをした。

「俺、このままここで泊るつもりだし、ショーンも泊っていったら?オーリだって、ショーンが朝までいた方が喜ぶと思うし」

ショーンが、空ろな目で、イライジャとヴィゴを見比べた。

ヴィゴは、ショーンが、このままここに泊ると、逃げる方を選ぶと思った。

今までの行動から言って、断然その方がショーンらしい判断の仕方だった。

ショーンは、ソファーから立ち上がった。

イライジャの頭を撫で、小さく笑って、帰る。と、言う。

今度は、イライジャが、ヴィゴとショーンの顔を見比べた。

驚いた顔をしている。

「そう。じゃ、気をつけて。2人とも大人なんだから、怪我するようなケンカはしないでよ」

何を想像しているのか、イライジャは、わざわざドアの側まで見送りに来た。

ヴィゴは、家の扉を開けた。

ショーンは、何も言わずドアから踏み出す。

 

車に乗り込んだショーンは、しばらく黙り込んでいた。

もう、眠気はないようだった。

ヴィゴは、隣に座る顔を盗み見るようにしながら、夜の道を走っていた。

ショーンは、窓に肘をつき、頬杖をついて、ぼんやりと闇を見つめていた。

「ショーン、少し、話をしていい?」

ヴィゴは、前を向いたまま、声をかけた。

「…なんだ?」

返してくるショーンの口調は、気だるげでかなり機嫌が悪そうだった。

こちらを見る視線にも剣がある。

ヴィゴは、ショーンがどうしてこんなにも自分に攻撃的になるのか、いま一つ腑に落ちなかった。

摩擦の強い人間関係においては、逃げ回るのが、ショーンの常套手段だ。

攻撃は、まず、しない。

なのに、撮影中、恨みがましい目でヴィゴを見たり、ショーンの行動は、いつもと違う。

ヴィゴは、ショーンの様子を伺っていたため、言葉を返すタイミングを失った。

その間が待てず、ショーンが、苛立たし気に、膝を指で叩く。

「なんだ?早く言え、言う気がないなら、俺のほうにこそ、話がある」

ショーンは、ヴィゴを睨んでいた。

ショーンにそうされる理由のないヴィゴは、金髪の心中がわからず首を傾げた。

浜辺で酷いことをした後、ヴィゴは、ショーンを刺激しなかった。

逃げ回るショーンを腹立たしく思ったが、追い詰めたら更に逃げ出すだけだとわかっていたから、時期を待った。

イライジャを構おうが、オーランドと飲み明かそうが、距離を取って眺めていた。

すっかり大人の顔をしているが、どこかに人恋しさを隠し切れないショーンなら、濃密な関係を作り上げたヴィゴとの空間が欲しくなって、何もなかった顔をしてヴィゴの元に帰ってくることになるだろうと予想していた。

それから、攻め落としてやればいいと、悠然と構えていたのだ。

あれから、肉体的な接触はない。

今日は、少しだけ小言を言おうと思ったが、これまでは、ショーンの態度に文句一つ言っていない。

ショーンは、眉を顰め、緑の目を吊り上げていた。

ヴィゴには、こうされる理由が思い当たらない。

「ヴィゴ。あんた、何を考えてるんだ?」

ショーンは、いらいらと膝を指で叩いていた。

「…何…と、言われても困るんだが、特には、何も。今日は、あんたの態度に少しばかり文句を言おうかと思っていたがね」

「…文句」

ショーンは、小さく呟いた。

「…文句ね」

繰り返す声を聞いて、ヴィゴは、もしかしたら、ショーンは、結構酔っているのかもしれないと思った。

酔いは、感情を解放させやすい。

ショーンの中にあった不満が吹き出てきたのだろうか?

「俺の方にこそ、文句があるんだが、言ってもいいか?」

ショーンは、じっとヴィゴを睨みつけたまま、手を強く握り込んだ。

手の甲に、血管が浮き出ていた。

「…どうぞ」

ショーンの迫力に、ヴィゴは、車を止めるべきかと思った。

ショーンは、殴りかかってきそうな目をして、ヴィゴのことを睨みつけていた。

とりあえず、車の速度を落した。

隣を伺うと、ショーンは、何から言おうかというように、少し顎を上げて、車の天上を見つめていた。

ヴィゴは、こんな時に不謹慎だとは思ったが、ショーンの怒っている顔がきれいだと思った。

獲物を狙うように目つきが鋭くなっている。

普段のショーンは、落着いた表情で、感情も落着いており、激しく何かを言い立てたりはしなかった。

「まず、ヴィゴ、あんたのとっている態度について、俺は文句が言いたい。なんなんだ。この一、二週間。俺との間に、距離をおきやがって。俺がなんかしたか?あんたのキスに応えなかったら、もう、俺はお払い箱なのか?俺があんたに近付かないってのならわかる。あんたが、俺に近付かないってのは、一体何なんだ!俺が悪いのか?俺が避けてたんだぞ?俺が、あんたを避けてたんだ!」

最初は、感情を押さえようとしていたようだが、話しているうちに、ショーンの声が大きくなっていった。

肩に力が入り、握り締められた拳は、小さく震えていた。

ヴィゴは、やはり車を止めることにした。

ショーンは、車が止まると、エンジンを切る間もなく、ヴィゴの服を掴み上げた。

食いつきそうな目をしていた。

至近距離でしげしげとその目を眺め、ヴィゴは、やはり、きれいだと思った。

強い感情に揺り動かされている人間は、もとより好きだが、ショーンが、こうやって怒りに身を任せている姿は、ずっと見ていたいほど、素敵だった。

整った顔立ちが、かわいそうになるほど歪められていた。

「あんた、何、考えてるんだ?俺に、親切めかして、忠告してみせたけどな、俺なんかより、よっぽど、オーリと親しいじゃないか。あいつ、あんたの家に泊まりこみに行ったんだろ?すごく楽しかったって、言ったぞ。誰が、周りを巻き込むって?俺じゃない。俺は何もしていない。俺を追い詰め、俺を避け、あんたが、一方的に、関係を悪化させ、拗れさせてるだけなんだ!俺は、全く悪くない!全く、全然、悪くない!俺が避けられる理由なんてない!!」

ヴィゴを、掴み上げてくる緑の目が怒りに燃え上っていた。

しかし、ヴィゴには、ショーンがどうして、こんなに怒るのかわからなかった。

ヴィゴに、近付いてほしくないと願っていたのは、ショーンのほうだった。

あの日の緑の目は、許しと、解放を真に願っていた。

ヴィゴは、その願いをつかの間叶えてやっただけだ。

ヴィゴは、落着くようにと、ショーンの肩を撫でようとした。

ショーンが、振り払う。

指の先が、ヴィゴの頬に当たった。

ショーンの激昂は、それでも止まらない。

「ヴィゴはどうして、こんな酷いことばかりするんだ!なんで、俺を突き放すんだ!俺が何かしたってのか!今までのままでいいじゃないか!俺に求めるな!俺の中にあるものを全て見ようとするな!俺が隠そうとしているものまで、引っかき回して、持ち出そうとするな!俺のことを暴こうとするな!」

ショーンは、ヴィゴの首を締め上げた。

「あんたなんか大嫌いだ!!」

車の中には収まりきらない大声でわめき散らすと、ショーンは、はぁはぁと大きく息を吐き出した。

ヴィゴが反論する余地はなかった。

ショーンに聞く耳もなかった。

ショーンは、一気に酔いが回ったのか、気分が悪そうに、シートに倒れ込んだ。

目の上を長い指で覆って、荒い息を繰り返していた。

急激に顔色が悪くなった。

ヴィゴは、嫌がるかとおもったが、ショーンの体を跨いで、ウインドウの窓を開けた。

風が、吹き込んで来た。

ショーンは、青くなった顔色で、シートにぐったりともたれかかっていた。

「…あの…な」

ヴィゴは、まずは、ショーンの体調を気遣うべきかと思った。

ショーンの体からは、ヴィゴに対する強い拒絶が剥き出しになって、溢れ返っていた。

ヴィゴの話を聞き入れる準備がない。

「…ショーン、気分が悪いんなら、一旦車から降りるか?」

ヴィゴは、もう一度、ショーンを跨ぎ、車のドアを開けようとした。

突然、ショーンの体が動いた。

吐くのかと、ヴィゴは思った。

ショーンの足の上に覆い被さるヴィゴの上半身を、力の限り抱きしめた。

骨が軋むほどの力だった。

驚きと、痛みが同じ分量でヴィゴに降りかかった。

ショーンは、泣いていた。

感情的になりすぎているのだろう。とめどなく、緑の目は、涙を零しつづけた。

子供のようにしゃくりあげている。

見上げるヴィゴの背中に顔を擦りつけ、涙をぬぐっている。

涙は止まらない。

ヴィゴの背中が、どんどんと濡れていく。

骨を軋むほど抱きしめる腕の力も弱まらない。

ヴィゴは、自分の気持ちを押し付けたことが、ショーンにとってどれ程の負担だったのだろうかと、激しく後悔した。

時間さえかければ、ショーンは上手くヴィゴを受け入れることが出来るだろうと、推測していた。

そのくらい、ヴィゴとショーンの距離は近かった。

友情という名前を無理やりつけた、愛情関係にあると思っていた。

「ショーン…神様が」

「宗教的な問題じゃない!黙ってろ!何もわかっていないくせに!!」

ショーンは、きつくヴィゴを抱きしめたまま、背中で泣きつづけた。

ヴィゴを決して逃がさない力強さで抱きしめつづけた。

唸るような声を上げながら、ショーンは涙でヴィゴの背中を濡らす。

ヴィゴは、とりあえず、ショーンが落着くのを待った。

泣きながら、ショーンが、何度も口汚くヴィゴを罵る。

ヴィゴのことを散々にわめきたてる。

ヴィゴは、そのどれもに謝罪しながら、ショーンの膝にキスを続けた。

 

「ショーン…少し、話をしてもいい?」

ヴィゴのシャツの背中が、涙と鼻水で、ぐしょぐしょになった後、ヴィゴは、そっと顔を上げて、すこし落着いた呼吸を繰り返すようになったショーンを見上げた。

ショーンは、目を真っ赤にして、ヴィゴを睨みつけていた。

けれども、泣きつかれたのか、目に宿っていた怒りの力が弱まっていた。

骨が痛むほど抱きしめていた腕の力も緩んできていた。

唇を噛み締めていたが、もう、言うだけの文句もないようだった。

ヴィゴは、優しくショーンの腕を解き、ショーンの体をシートへと倒してやった。

ショーンは、そうされて、気が抜けたように、体中の力を抜いた。

もう、何の気力もないと、緑の目を閉じてしまった。

「ショーン?大丈夫か?」

ヴィゴは、額に張り付いた髪をかき上げ、疲労の滲む頬を撫でた。

ショーンは、逃げない。

「…大丈夫なもんか」

ショーンは、最小限に口を開けて、不機嫌な声で返事をした。

 

ショーンは、だるそうに、手を上げて、指で、ヴィゴのことを手招きした。

ヴィゴが顔を寄せると、金色の睫を少しだけ開けた。

緑の目が無気力にヴィゴを見る。

「あんたの話なんて聞きたくない。だが、俺にキスしろ。俺にキスして、今まで通り、ちゃんと側にいろ」

ショーンは、薄く口を開けてヴィゴを待っていた。

愛情のある態度ではなかった。

しかし、ヴィゴは、驚きのあまり、目を見開いた間の抜けた顔になった。

ショーンは、感情的に泣いたせいで、体中から汗の匂いをさせていた。

その匂いに、ヴィゴがキスだけでショーンを解放すると、本気で信じているのだろうか。

何を言い出したんだ。この金髪は。

「ほら、早く」

ショーンが、キスをしないヴィゴに苛立った。

ヴィゴの顔を手で引き寄せ、唇を重ね合わせる。

逃がさないとばかりに、両手で耳を掴んでいる。

ヴィゴの舌が、なかなかお迎えに現れないものだから、ショーンが舌を伸ばしてきた。

舌が、ヴィゴの口の中で滅茶苦茶に動き回る。

快感を得ようとか、そういう動きではなく、とにかく、深いキスをしたという証拠を欲しがっているような動きだった。

ヴィゴは、ショーンの頭を抱きしめ、緩やかに、乱暴な舌を絡め取っていった。

そんなに必死になって針を立てていなくとも、愛していることを確信させてやれるだけ、愛情深く。

もっと言えば、こんなキスだけでは、満足できないほど、ショーンを欲しがっているのだとわからせてやれるだけ、十分に、セクシャルに。

ショーンは、目を閉じて、舌を愛されることに、気持ちの良さそうな顔をした。

さっさと自分の努力は放棄して、ヴィゴに翻弄されるままになった。

ヴィゴは、柔らかい唇をそっと挟む。

ヴィゴは、技術も、気持ちも惜しまずに、ショーンの口の中を隈なくなぞって歩いた。

上顎をしつこく舐めると、ショーンは、鼻に抜ける声をもらした。

2人の唾液が、混ざり合って、ショーンの喉に落ちていった。

ショーンは、それを飲み下す。

ヴィゴは、そろそろと、ショーンの太腿と撫でた。

優しく、優しく撫でてやると、ショーンは、また、鼻に抜ける甘ったるい声を出した。

唇の位置を変えようと、顔を少しだけ離そうとしても、ショーンは、追うように吸い付いて来た。

ショーンの身体からは、汗の匂い以上にいい匂いがした。

「ショーン」

ヴィゴは、金色の頭を柔らかく何度も撫で、幸運に感謝しながら、太腿に置いた手の位置をずらしていった。

目的の場所までは、もう少しだった。

胸の音が大きくなるのに、ヴィゴは少し恥かしくなった。

指の先が、触れた。

しかし、掌をそこに押し当てると、ショーンが、大きく目を開け、ヴィゴのことを突き飛ばした。

ヴィゴは、ダッシュボードに身体を打ちつけた。

酷い仕打ちだった。

背中が、痛みを訴えていた。

「キスしていいと、言ったんだ。もう、代金は払った。明日から、必ずあんたは俺の側にいろ」

顔を顰めるヴィゴを睨みつけ、ショーンが、言い放った。

唇が、濡れて光っていた。

目だって、潤んでいた。

体中が、なにか、いい匂いをさせていた。

「…ショーン、あんたは、何者だ?」

ヴィゴは、信じられないショーンの物言いに、呆れ果てて、じっと胸で息をするショーンを見つめた。

 

 

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まだ続く…らしいです。

すみません。

ヴィゴに頑張って欲しい。

さっさとメロメロにして、やっちゃってくれ!(笑)