朝帰り 5

 

案の定と、いう言葉がぴったりだった。

ヴィゴが煩く感じ始めたテレビを消し、酒瓶を片手に本を持って寝室へ向かおうとした12時少し前、にわかに家の前が騒がしくなった。

カーテンの隙間から外を覗くと、ショーンが、車から降りてくるところだ。

慌てたようなショーンの動きに、纏わりついてるオーランド。

「ほんとに?本当に約束してるの?」

「言わなくて悪かったよ。ここまで送ってくれてありがとう。オーリ」

「…俺の家に泊まってくれてもいいんだよ?」

「違うんだ。もう、今日こっちにくることは、金曜から決まってたんだ。ヴィゴが起きて待ってるはずなんだ。遅くなったって、怒ってるかもしれない」

オーランド相手に、勝手に嘘の話を進めているショーンに話をあわせてやるため、ヴィゴは、ドアに向かって足を進めた。

動き出しているショーンがドアに手をかけて、鍵が掛かっていることがばれないよう、少し駆け足になった。

床に落ちている雑誌を蹴り飛ばし、大股で、ドアに近付く。

馬鹿馬鹿しいが、こうやって、頼ってきたショーンの気持ちが嬉しい。

大きくドアを開け放つ。

驚いている顔のショーンより前に出て、オーランドの注意を引く。

「どこを遊びまわっていたんだ。ショーン。もう、寝ちまうとこだったぞ?」

「あっ、ヴィゴ…」

「オーリ、ショーンは年寄りなんだから、あんまり遅くまで引き摺り回すなよ。お前と違って若くないんだ」

車のドアを閉め、ショーンに追い縋ろうとしていたオーランドは、ヴィゴの出現に不満顔を隠そうともせず、唇を尖らせた。

「なんだよ。ヴィゴ。また、ショーンを独り占め?」

開け放ったドアから差し込む蛍光灯の明かりが、オーランドの黒い目に光って、きらきらとしていた。

挑戦的なその瞳は、年相応に苛立たしげで、可愛らしかった。

「昼間は、お前が独り占めしてたんだろう?いいじゃないか。俺たちは年より同士、話し合うことが沢山あるんだよ」

ヴィゴは、ショーンの脇を通り抜け、もう一歩オーランドに近寄り、黒い髪をかき回した。

「楽しかった?オーリ」

つるりとした柔らかい額に、唇を寄せ、キスをする。

オーランドは、不満顔をやめようとはしなかった。

だが、ヴィゴの質問には素直に答えた。

「湖の周りをまわったり、沢山買い物をしたりしたんだ。楽しかったよ」

ヴィゴは、オーランドの機嫌を取るため頬にもキスをした。

「オーリ、俺にお土産は?」

手を差し出したヴィゴに、オーランドは、頬を緩め、肩を竦めた。

「まさか、ショーンが、ヴィゴと会う約束をしてるなんて思ってなかったから、何も買ってこなかった。ショーンったら、急に言い出すんだよ?こんな時間にヴィゴの顔をみることになると思わなかった」

オーランドは、若いくせに、上手く嫌味を織り交ぜることを忘れなかった。

「悪かったな。週末にどっちかの家にいるって約束自体が、当たり前でね。ショーンは、意識もしてなかったんだろう」

しかし、もっとヴィゴの方が上手だった。

「のろけ?」

オーランドが眉を寄せる。

ヴィゴは、精一杯眉間に皺を寄せているオーランドの頭を引き寄せ、胸に抱きしめた。

「オーリ、随分遅い時間だけど、お茶くらいご馳走した方がいい?」

オーランドは、素直に胸に抱かれた。

「ううん。いい。お年よりの会話を邪魔しちゃ悪いから、帰るよ。お休み。ヴィゴ」

腕から脱け出したオーランドは、ヴィゴの頬に顔を寄せる。

オーランドがヴィゴの背後に視線を向けた。

「ショーンも、今日は楽しかったね。お休み。これからも、一緒に出かけようね」

ヴィゴが振り返ると、ショーンは、ドアの影に隠れるように立っていた。

小さくオーランドに手を上げて、挨拶をそれで済まそうとしている。

オーランドは、少し淋しげに笑った。

しかし、気丈にも、それ以上なにも言わずに、ドアをあけて、車を発進させた。

わざとスピードを上げることもしない。

平常心を装っている。

暗闇に消えていく車の姿を見送りながら、ヴィゴは、あいつは、いい男に育つな。と、思った。

 

ショーンは、オーランドの車が方向転換をした辺りで、さっさと部屋に入ってしまった。

ヴィゴが、ゆっくり明かりの元へ帰ってみると、いつもの場所、つまり、この家に当たり前の顔をして遊びに来ていた時、座っていたソファーの左側に腰掛け、膝の辺りに顔を埋めるようにしていた。

ヴィゴはあえて、指定席である右隣に腰掛けたりせずに、ショーンの足元に膝を付いた。

「ショーン、泣いてる?」

ショーンの頭を優しく撫で、小さい声で話し掛ける。

「…泣いてない」

「泣きそう?」

「ああ、泣きそうかもしれない」

自己嫌悪に浸りきって、唸るような声をもらすショーンの頭に、ヴィゴは、そっと額を寄せた。

「だから、言ったろ。自分の行動を良く考えろって」

「…こんなことになるなんて」

「わかったはずだぞ?そのくらいのことは、予想できたはずだ」

「…できたかもしれないが…」

金色の頭を両手で抱え込むようにしたショーンの長い指に、ヴィゴは口付けを与えた。

「告白されて、嬉しかったろ?」

ショーンは、答えなかった。

身体に力が入り、次、何をヴィゴから言われるのかを恐れているようだった。

ヴィゴは、構わず、ショーンを責めた。

何も言わずに、済ませてやることも出来たが、そうなると、ショーンは、いつまでも、自分で自分を責めつづける。

ヴィゴは、ショーンの頭を抱いたまま、静かな声で、ショーンを責めた。

「オーリが、若くて、他人と、自分の境目がまだ曖昧なこと位、知ってただろう?」

ショーンは、石のように固まっていた。

随分、長いことかかって、小さく頷いた。

「柔らかくて、未分化なハートは、簡単に恋に落ちるんだ。そのくらいは、ショーンだってわかってるだろう?」

ショーンは、小さなため息を漏らした。

罪を受け入れ、深く反省しているのが、ヴィゴにはよくわかった。

そして、ヴィゴになにもかも見抜かれていることを安堵していることも。

ヴィゴは、ショーンの頭を抱きしめてやり、背中を優しく撫でてやった。

「ショーン、あんた、オーリに優しくしてやった?」

ショーンが、ゆっくりと首を横に振った。

「優しくしてやらないとダメだろう?あんたが、嵌めたようなもんなんだから。オーリだって、かわいそうだ。あんたに振り回されて、その気になったら、逃げられちゃ、いい面の皮だ」

「だけど!」

ショーンが、顔を上げた。

うっすらと、目が濡れていた。

ヴィゴは、重くなっている金の睫に優しくキスをした。

「そうやって、ショーンは、自分の行動に責任が持てないんだから、やっぱり、俺にしておけばいいんだよ。逃げ回るのは、気が済んだか?」

「…ヴィゴ」

名前を呼んだままの形で開いた唇に、ヴィゴは、口付けた。

柔らかく、優しくショーンの唇を吸う。

ショーンは、力が抜けたように、口付けを受け入れている。

「もうこれで、人を巻き込むのはやめたほうがいいって、わかっただろう?待ってやれない訳じゃないけど、そろそろ、俺のところへ、戻って来いよ」

ぼんやりと開いたままのショーンの唇に、繰り返し、ヴィゴは唇を押し付けた。

「ショーン、愛してるよ。どんなにみっともないあんただって好きだ。だから、どうして、そんなに逃げ回ったのか、俺に話してくれ」

ヴィゴは、ショーンの膝に頬を寄せて、緑の目をじっと見つめた。

 

ヴィゴの目が、じっとショーンを見つめ、その重圧が部屋を制圧するほどになった。

ショーンは、とうとう負けを認め、ヴィゴの目を見つめた。

気の重そうな顔をしていた。

「ヴィゴ、あんたは、どう思っているのかしらないが、俺は、あんたが好きなんだ」

ショーンは、ヴィゴの手を取り上げ、自分の膝の上にあげると、強く握り締めた。

「わかってる?」

ショーンは、ヴィゴの目をじっと見つめた。

「それは、知ってる。あんたは、逃げ出したかっただけで、俺のことを愛してくれているよな」

ヴィゴも、ショーンの手を握り返した。

2人は至近距離で見つめ合った。

「…逃げたかったわけじゃないんだ。最初、ヴィゴとの間に距離を置こうとしたのは、怖かったからなんだ。わかってもらえないかもしれないが、自分のことが怖くて、あんたとの間に距離を置いたんだ」

「怖い?」

ヴィゴは、一生懸命言葉を探している緑の目をじっと見上げた。

「そう、俺は…愛情を持続するのが苦手で…せっかくあんたととても仲良くなれたのに、もっと踏み込んだ関係になったら、多分、俺のせいで、関係が壊れると思って、それで…」

ショーンは、もどかしそうに、精一杯の表現をしようとしていた。

握り締められた手の指を、ショーンの指が何度も何度も撫でていた。

優しく撫でつづける手の暖かさに、大事にしたかったんだという気持ちが、ヴィゴにはちゃんと伝わっていた。

ヴィゴは、感謝を表すために、指の先に唇を寄せ、そっと口付けた。

目を上げて、それで?と、促す。

緑の目が、感謝を表す。

「あの時は、もう、2人の関係が箱の中一杯に詰って溢れ出しそうで、溢れてしまったら、俺は、間違いなく、あんたを傷付けるような行為をしたに違いなくて…だめなんだ。俺は、愛していても、その気持ちを大事にできないんだ。大事にしよう。一人だけを見つめていようと思うのに、愛情を手に入れたと思うと、安心して、つい、目を離してしまうんだ。そうやってよそ事に夢中になっているうちに、だんだんと関係が冷えてきて…相手が俺を見捨てるんだ。…俺は、あんたに見捨てられたくはなかった」

告白をするショーンは、強く絡み合った指ばかりを見ていた。

ヴィゴは、意気地のないショーンが腹立たしかった。

「努力しようとは、思ってくれなかったのか?」

つい、声が尖ってしまった。

「…努力?努力は、いままでもした。でも、ダメだったんだ。今度も、ダメだと思ったよ。あんたと一緒にいるのは、とても楽しいけど、俺は自分が怖くて、あんたと恋人になりたくなかった」

「だから、急に週末に予定を入れて?」

「そう。一人で週末を過ごすのは、とても、つまらなかった」

ショーンは、情けない顔をしてヴィゴに笑いかけた。

こんなに情けない顔をされてしまっては、ヴィゴはショーンを許してやらないわけにいかなかった。

ショーンの目尻が下がってしまっている。

長いこと一緒に暮らした犬を叱ると、犬は、こんな顔をして、ヴィゴを見上げた。

「だから、泳ぎもしないくせに海にも行ってみた?」

ヴィゴは、少しだけ、軽い口調にした。

ショーンが、ほっとした顔になった。

「海…の時は、ヴィゴが本気になっていて、怖かったよ」

ショーンも軽口のつもりのようだった。

下がっている目尻に皺が寄っていた。

「俺は、車の中であんたに怒鳴られて怖かったよ」

ヴィゴは、ショーンに優しく笑い返した。

「それは…」

ヴィゴの言葉に、緑の目が落ち着きを失った。

「それは?」

ヴィゴは、殊更、優しい声を出した。

ここにショーンの核心があると思った。

ヴィゴを突き放したり、おかしな位引き寄せたり、キスを強要したり、キスで代金を支払おうとしたり。

泣いたり、わめいたり。

その全ての行動のわけ。

ヴィゴは、じっとショーンを見つめた。

「…あんたが、俺から離れようとするから…俺は、ずっとあんたの側にいたいと思って距離をおいただけなのに、あんたから、俺との間に距離をおかれるなんて、絶対ごめんだったから」

「海の時、逃がして欲しそうな顔をしてたけど?」

「だから、そういう関係にはなりたくなかったんだ。でも、あんたと離れるのは嫌だったんだ。…オーリ達にあんたを取られるのも嫌だったんだ」

ショーンは、ソファーのクッションを見つめていた。

恥かしいことを言ったと、ヴィゴとは目を合わせたくないようだった。

でも、指は絡み合っている。

ヴィゴは、指で、ショーンの指を撫でた。

「ショーン、そもそも、あんたはそこを誤解してるな。俺は、あんた程、鈍感でも、間抜けでもないから、オーリから告白を受けるなんてことにはならないんだ」

あんたみたいにね。と、ヴィゴは、小さく笑った。

絡んでいる指を愛撫するように組みなおした。

「でも、あんたと、オーリはとても仲がいい」

ショーンは、顔を反らしたままなのに、横目でヴィゴを睨みつけた。

恋人同士にはなれないと思っていたくせに、独占欲は、一人前だった。

ヴィゴは、くすりと笑ってしまった。

「俺は、誰とだって仲がいいよ。そういうことを言うなら、近頃は、リジとよくしゃべるんだ。リジが心配してたぜ?あんたが、オーリに泣かされるんじゃないかって」

随分と年下のイライジャに、見抜かれていたとわかって、ショーンは、苦い顔をして、顔を顰めた。

「リジは、あれで、かなり擦れてるからね。あんたより、よっぽど人間が出来てるんだ。よく観察してるよ。まぁ、あんたが、襲われて泣かされるんじゃないかって、いう心配は、穿ちすぎだったようだったがね」

レイプされるんじゃないかと、心配してたぜ?と、ヴィゴが、冗談交じりで口にすると、ショーンは、オーランドの名誉のために、決してそういう行為はなかったと、はっきりと言った。

「キスされて、告白されただけなんだ。俺が、油断して、つい、シートでうとうとしていて、目が覚めたら、抱きしめられていて…困っているのがわかったんだろう。すぐ、オーリは告白を誤魔化してくれた」

ショーンは、大慌てで並べ立てた。

ヴィゴは、焼きもちを焼きたくなる、というのは、止められない気持ちなのだと、よく、思い知った。

ショーンがオーランドを庇えば庇うほど、腹立たしさがこみ上げてくる。

「あんな若造に、甘えるな」

ヴィゴは、ショーンを叱った。

「…悪いと思ってる」

ショーンは、素直に項垂れた。

ヴィゴは、そっと、指を離して、ショーンの膝を抱き込んだ。

「で、どう?オーランドから、逃げる為に俺の家に駆け込んできて。それは、とうとう、俺とちゃんとキスしてもいいと、思うようになったと、考えてもいい?」

ショーンは、膝を抱くヴィゴの背中に覆い被さった。

何度も息を繰り返す。

焦っているのか、呼吸が浅い。

ショーンが、ヴィゴの頭を抱きこんだ。

耳元で小さく囁く。

「…ヴィゴ。俺は、キスが上手くないんだ。…それでも、いい?」

ヴィゴは、ショーンの膝にキスを繰り返した。

 

そのままでもいいと、ヴィゴが言ったのに、ショーンは、逃げるようにしてバスルームに消えていった。

戻ってきた落ち着かない顔を、抱きしめたかったが、ショーンに礼儀正しく接するため、ヴィゴは自分もバスルームに駆け込んだ。

いつもの半分以下の時間で、寝室に戻る。

ショーンは、めくっていた雑誌を取り落としそうに驚いて、ドアを開け放ったヴィゴを見つめた。

「そんな、息を切らすほど、早く帰ってこなくても…」

「あんたが、また、逃げ出す前に捕まえないといけないと思って」

ヴィゴは、大股で、ショーンに近付いた。

「逃げない…つもりだ」

ショーンが自分の決意を語る。

「じゃ、あんたが、怒り出す前に、ちゃんと事を始めないと」

ヴィゴは、笑いながら両手で、ショーンの肩を抱きしめた。

「…怒ったりしない」

ショーンは、顔を赤らめて、ヴィゴから視線を外した。

「そう?キスしろって、怒ったのは、誰だっけ?」

「キスしろって、怒ってたわけじゃない。キスしないと、側にいてくれない、ヴィゴに怒ってたんだ」

「誰も、キスさせなきゃ、側にいないなんて、言ってないぜ?」

ヴィゴは、ベッドに緩く押し倒しながら、ショーンの唇に唇を重ね合わせた。

ショーンの腕が持ち上がり、ヴィゴの背中を抱きしめる。

唇が、ヴィゴの唇を挟み込む。

「だって…」

「だって、じゃない。ショーン、あんただって、俺に接触したかったんだよ。それが、あんな言い訳をさせたんだ。俺を逃がさないために仕方なく、恋人のキスをさせるって、言い訳で、俺のキスが欲しかったんだ」

ヴィゴは、緑の目をのぞきこみながら、何度も何度も柔らかい粘膜を啄ばんだ。

しまいには、ショーンの唇が赤くなった。

「自信家過ぎないか?」

ショーンは、すっかりヴィゴのキスに翻弄されているくせに、憎まれ口を忘れなかった。

「じゃ、俺を夢中にさせるようなキスをしてみろよ。怠け者め」

ヴィゴは、やはり、キスをリードされたがるショーンの頬を優しく噛むようにして、そのまま待っている唇を塞いだ。

「俺にされるのが好きなのか?」

「あんたのしてくれることは、気持ちがいい」

ショーンはとても素直だった。

ヴィゴがキスを止めると、ショーンの舌が、口の外まで、ヴィゴのことを追ってきた。

「…じゃぁ、もっと、気持ちのいいことをしてもいい?」

「…いい。そのかわり、俺のことを見捨てるなよ」

ヴィゴは、優しくショーンの髪を撫でた。

ショーンの目が、ヴィゴをどうしようもなく煽っていた。

「いちいち、そんな条件付けをするな。あんたは、俺を信じればいいし、俺は、あんたを信じている。ダメになったときは、その時だ。安心しろ。綺麗に別れてはやらないから」

ヴィゴは、縋りつくような目をしたショーンの睫にキスを落した。

 

ヴィゴは、ショーンの着ていたバスローブを剥いでしまって、裸にしてしまった。

少しでも、隠すことが出来る状態は、また、ショーンに逃げる気持ちを思い出させると思った。

ショーンは、じっと見つめるヴィゴの視線の下で、落ち着きなく、身体を隠そうとしていた。

「隠すと、余計に見たくなるぜ?」

ヴィゴは、自分もバスローブを脱ぎ捨てて、ショーンの体に覆い被さった。

ショーンの胸は、大きな音を立てていた。

「緊張してる?」

「されたことは、ないんだ」

「でも、気持ちよくして欲しいんだろう?」

ヴィゴは、抱きしめた背中を優しく撫でた。

ヴィゴが触ると、背中には鳥肌が立った。

思わず、ヴィゴは、吹きだした。

「ショーン。かわいらしいけど、リラックスしてくれ。俺もここ何年か、初めての子なんて、相手にしてないんだ」

首筋にキスを落とし、徐々に、胸へと唇を移動させていく。

せわしなく息を繰り返す、胸の筋肉を、唇で挟み込む。

「…初めての子だぁ?」

「そうだろ?されたことはないって、ショーン、バージンってことだろう?」

「…そういう言い方…」

「大丈夫。大事に大事に愛してやるから。とろとろに蕩けて、もっとして欲しいって思うほど、いい思いさせてやるから、怠け者でいてくれていいぞ?」

ヴィゴは、頭上でショーンが顔を顰めていることは承知していたが、そのまま軽口を続けながら、胸の肉に、キスを続けた。

「怠け者、怠け者って…ヴィゴ、お前、俺を誤解してるぞ」

「そう?気持ちよくしてもらうのが好きで、口を開けてキスを待ってるくせに、自分からして欲しいって言わないやつは、怠け者だろう?」

乳首の周りで、音を立ててキスしていたヴィゴは、急に頭の位置を落とし、窪んだ臍に舌を突っ込んだ。

ショーンが、身体を丸め込んで嫌がる。

「擽ったい?」

「わかってるんなら、するな!」

「ふ〜ん。じゃ、次は、どこにしようか?」

ショーンの体から、少し緊張感が抜け落ちた。

 

ヴィゴは、全く面倒がらずに、ショーンの体を愛撫して回った。

身体の線にあわせ、舌で舐め上げ、舐めおろし、間接の曲がる柔らかい皮膚を唇でそっと挟み、背中の骨を一本一本指でなぞった。

腹や、胸は、舌で触れなかった部分がなかった。

乳首は、固く立ちあがって、潰れなくなるまで、舌で舐ぶったし、腹は、わずかなカーブを描いているふくらみにそって、金髪まで、何度も、言ったり来たりした。

ショーンは、徐々に緊張を解いていった。

直接、欲望に触れてこないヴィゴをもどかしがり、ふらふらと、さ迷うヴィゴの頭を捕らえようとした。

ヴィゴは濡れた唇のまま顔を上げた。

すっかり潤んだ目をして、息を弾ませているショーンを見下ろし、にやりと笑った。

「ショーンは、本当に、してもらうばっかりが、好きだな」

ショーンのペニスが、どうして貰いたがっているかなど、ヴィゴにはわかりきっていた。

そうしてやりたい気持ちも、やまやまだった。

つい、リラックスさせてやろうという気持ちで始めた愛撫に、ショーンがいい反応を返すから、楽しくなっていただけだ。

この嫌味を言い終わったら、ショーンを満足させてやるつもりだった。

しかし、それより前に、ショーンががばりと、身体を起こした。

気の短いショーンが、ヴィゴのからかいに、我慢しきれなくなることを予想しなかったヴィゴの誤算だった。

「ショーン!?」

ヴィゴの声が裏返った。

まだ、ヴィゴだって、直接触っていない部分へ、ショーンは、いきなり顔を寄せてきた。

手で握る前に、口で頬張る。

勝ち誇った顔で、ヴィゴを見上げる。

それが、どんな映像としてヴィゴに見えているのか、わかっていないに違いない。

ヴィゴは、それだけで、ペニスが一回り大きくなった気がした。

「怠け者?」

ショーンは、頬を窄めるようにして、ペニスを吸い上げながら、ヴィゴを見上げた。

「まだ、怠け者って言う?」

「…あんたには、負けるよ」

ヴィゴは、ショーンの背中を撫で、金髪を掴むと、吸い付くショーンを無理やり引き剥がした。

「わかったから。あんたが、勤勉な奴だって、認めるから。もう、止めてくれ。ずっとお預けを食らわされていたあんたに、こんなことされて、とっととイっちまったら、みっともないだろう?今日は、俺に努力させてくれ。あんたに気持ちのいい思いをしてもらいたいんだよ」

不満顔のショーンを両腕で抱きしめ、ヴィゴは、ショーンの唇にキスをした。

唇が尖っていた。

ショーンは不満気だが、すこしばかり得意げでもあった。

「ショーン、あんた、男の見栄ってもん、よく知ってるだろう?」

機嫌を取るように、キスを繰り返すヴィゴに、ショーンは、小さく笑い出した。

くすくすと柔らかな声で笑う。

そして、ヴィゴを抱き返すと、またヴィゴのとって都合のいい怠け者に戻ってくれた。

 

ヴィゴは、ショーンのペニスを散々舐め回し、俺だけかよ!と、不満まで零したショーンを一度イかせた後、続きで、開いたままの足を肩の上に担ぎ上げた。

これで、ショーンの穴がヴィゴの鼻の前にやってきた。

もう、覚悟を決めているのか、ショーンは、太腿を緊張で硬くしているものの、抵抗もせず、恥かしいポーズに耐えていた。

「舐めてもいい?」

「…嫌だって言ったら、止めるか?」

「まず、間違いなく止めないと、思うけど」

ヴィゴは、にやにやと笑いながら、怯えるように力の入っている足をしっかり固定して、穴の周りに舌を這わせた。

皮膚は、先ほどまでペニスを舐めていたヴィゴの唾液や、ペニスから零れ落ちた液体ですでに濡れていた。

皺がよっている部分に舌先を合わせ、抉じ開けるように、内へと押し込んでいく。

「…結構、嫌な感じだ」

ショーンが、困ったような声を出した。

「まぁ、しばらく我慢して」

ヴィゴは行為を続けながら、宥めすかす。

「…我慢できなかったら?」

ショーンは、不安そうだ。

「そんなことにならないから、安心していい」

逃げ出したいともがく足を押さえつけ、ヴィゴは、深く舌を差し込んだ。

舌を尖らせ、抵抗のきつい部分に何度も差し入れる。

ヴィゴの舌の温度と、ショーンの粘膜が同じ温度になるまで、行為を止めなかった。

違和感だけは、乗り越えたのか、ショーンの足から、力が抜けた。

ヴィゴは、片足から手を離して、舌を差し込んでいる部分へと指を入れた。

また、ショーンの体に力が入る。

自分の指を舐めるように、ヴィゴは、指を締め付ける皺の寄った入り口を舐め回した。

唾液を送り込むようにして、締め付けのきつい輪の中で、指を動かす。

「…ヴィゴ、入らないかな?」

ショーンがまた、ぶつぶつ言い始めた。

「俺のは、こんなに細くない」

ヴィゴは、指をぐるりと回した。

「でも…我慢すれば」

「我慢して、なにが楽しいんだ?」

慣れない感じに、不快感が多いのだろう。

ショーンは、しきりに止めてくれるようヴィゴに頼んだ。

「もっと、大きくて、固いものを入れるんだぜ?もう少し、辛抱してろ。我慢したことを、絶対に後悔させないから」

「でも、俺が我慢してことが済むんなら」

「それじゃ、全然セックスする意味がないだろう?あんたは、いろんなことを、考え間違いしてる」

伸び上がって、不安そうな顔を呆れた目でみると、ヴィゴは、丁寧に、丹念に、ショーンの穴の内を弄り回した。

ショーンの襞を指先で、味わう。

どの部分がよくて、どの部分を触られたくないのか、じっくりと観察していく。

こういう努力を放棄しようとは思わない。

ヴィゴが、ゆっくりと奥まで指を進めると、ある部分で、ショーンの体がびくんと反応した。

そこを、優しく撫でてやる。

ショーンの足が小刻みに震えた。

身体を固くしたが、それは、拒絶とは違っていた。

ヴィゴは小さく笑う。

指を抜き出して、ひくつく入り口を舐め、唾液を補充して、また、指を埋める。

「…んん」

わかってしまったショーンのいい部分を掠めるように、優しく触れながら指を抜き差しすると、ショーンが小さな声を漏らした。

ヴィゴは、急がず、指で、穴を押し広げるように、まるく動かす。

すこしだけ、緩んだ穴に、舌も差し込んで、わっかの締め付けを味わう。

「…ん…んうっ」

指先で、その部分だけを擦るように刺激すると、ショーンが身体を丸めるようにして、シーツに縋りついた。

ヴィゴの肩の上にある足の指が反り返った。

 

「ショーン、もう一度、ちょっと我慢…な」

ヴィゴは、締め付ける穴の中へ、もう一本指を押し込んだ。

入り口で、もう、抵抗がある。

しかし、我慢すれば、快感があることを知ったショーンも協力的に力を抜こうとしている。

ヴィゴは、肉を押し分けるようにして、内に指を埋めていきながら、意識して、ショーンのいい部分ばかりを触るようにした。

幸い、ショーンの体は柔軟に快感を受け入れている。

違和感よりも、多くの快感を感じて、指を締め付け、離そうとしない。

何度も抜き差しをくり返し、指が馴染んだところで、ヴィゴは、鼻から、いい声をもらしているショーンに、もっとリラックしてもらうために、からかいの言葉をかけた。

「二本目は、随分上手く飲み込んだじゃないか」

ショーンが顔を赤くする。

ぎゅっと身体に力が入って、ヴィゴの指が痛いほど締め付けられる。

「まだ、早いよ。そうやって、サービスするのは、俺が入れてからにしてくれ」

ショーンは、真っ赤になって、もっと指を強く締め付けた。

 

ショーンを傷付けたくないから、という大義名分のもと、殆ど趣味でショーンを弄くり回していたヴィゴは、仕上げだとばかりに、ショーンの腰を高く上げさせると、舌だけで、穴の中を弄り出した。

指で弄り回され、緩くなった穴は、尖らせ、固くしている舌を拒否することが出来ない。

ヴィゴは、嫌だ、嫌だと繰り返す、ショーンを無視して、顔を前後させて、何度も舌を出し入れした。

穴は、正直に、ヴィゴの舌を噛んできたし、ショーンのペニスだって、大きくなって、またいい感じに粘液を零していた。

柔らかい粘膜を、味わうように、ヴィゴは、舌を差し入れ、内部を舐め回す。

内部は、小さく震えている。

ショーンの心臓の音のように、早くひくつく内部を、ヴィゴは、丁寧に、濡らしていく。

時々、驚かすように、深く、舌を差し込む。

ショーンは、あっと、悲鳴のような声を上げる。

 

ヴィゴは、ショーンの股から顔を上げて、唾液で濡れた口元を拭った。

ショーンの顔が赤くなっていた。

やるせないような表情を浮かべた顔は、いまの行為のもたらした快感を堪能し、もっと欲しがっていた。

ヴィゴは、ショーンの髪をくしゃりと撫でた。

ショーンの柔軟な態度に満足していた。

「それでは、メインディッシュを味わってもらおうかな」

ヴィゴは、濡れそぼった穴の皺に、ペニスの先端を擦りつけた。

ショーンは、迷うような目をしたが、力を抜いてヴィゴのことを待っていた。

「そうしていてくれ」

ヴィゴは、片手で、穴を広げるようにしながら、ゆっくりと、ペニスを押し込んでいった。

額に皺を寄せ始めたショーンの苦痛を計りながら、じわじわと深度を増していく。

「…ヴィゴ…ヴィゴ」

ショーンは縋るように手を伸ばした。

ヴィゴは、指を絡め、強くショーンの手を握った。

残った手で、半分までペニスをくわえ込んだわっかの周りを探り、一本も皺が残っていないかわいそうな部分を撫でてから、ショーンのペニスを握り込んだ。

少しだけ、力を失っているショーンのペニスを、早い速度で擦り上げる。

ゆっくりと、ショーンに埋めるペニスを進めながら、先ほどショーンがよがっていた部分を抉るように、力をこめる。

「…ヴィゴ!」

ショーンは、最初にしては、上出来すぎる反応を返した。

上手く出し入れできるほど、まだペニスが馴染んでいないというのに、その部分を擦られることには、つよい快感を示した。

「ショーン、もう少し、力を抜いてくれ。これじゃ、前にも、後ろにも進めない」

自分のいい部分でヴィゴの先端を締め付けたまま、身体に力を入れ、また、強く感じて、身体に力を入れるショーンに、ヴィゴは、苦笑を漏らした。

「自分ひとりで楽しんでないで、俺にも、あんたをかわいがらせてくれよ」

ヴィゴは多少強引に、その部分から、先端を通過させた。

擦り上げられる快感に、ショーンが、ううっと、うめく。

ヴィゴは、ショーンが待っているのは、わかっていたが、ペニスの質量感にショーンが慣れるまで、じっと動かずに待っていた。

それから焦らすように、ゆっくりと、内部で、抜き差しを始めた。

動かされることには、強い抵抗があるようだったが、ショーンは、いい部分を刺激される快感を知って、従順に身体を開いていた。

ペニスを押し入れるとき、顔を顰めはするものの、完全に嫌だという表情ではなかった。

ヴィゴの手が、ショーンのペニスを擦り上げていたことも、功を奏した。

ショーンの足が、ヴィゴの腰を挟み込み、喉を反らして、いい声を上げた。

肉は、痛いほどヴィゴのペニスを締め上げてくるが、ショーンは、素直にヴィゴを受け入れた。

一番奥までペニスを押し込んで、腰を振ると、ショーンは、甘いため息を落す。

ヴィゴの手がショーンの粘液で濡れている。

ヴィゴは、ショーンの表情をじっと見つめながら、はや過ぎないペースでショーンを追い上げ、精液を吐き出させた。

そして、自分も、身体を震わすショーンを更に追い詰めるように、腰を打ち付け、内に、注ぎ込んだ。

 

「さて、これで、後戻りできなくなった」

ヴィゴは、汗に濡れているショーンの胸にキスをして、悪戯な目で、ショーンの顔を覗き込んだ。

ショーンの足の間からは、ヴィゴが中で出した精液が、零れ出していた。

ショーン自身の精液も、ショーンの白い腹を濡らしていた。

「ショーンは、俺にマーキングされた。もう、俺のもんだ。こんなことをしても、まだ、恋人になれないなんて、言わないよな」

ショーンに思い知らせるため、あえて生でショーンに挿入したヴィゴは、ショーンの頬にキスして回った。

ショーンは、身体の状態に、気持ちの悪そうな顔をしていたが、ヴィゴの顔を引き止め、唇を重ね合わせてきた。

いままでで、一番情熱的なキスをくれる。

「ヴィゴも、努力してくれるか?」

額に汗を浮かべて、ヴィゴよりセックスに前向きに努力をしたショーンが、じっとヴィゴを見つめる。

「俺は、あんたより、よっぽど勤勉だからね。あんたが、ふらふらし始めたら、すぐに叱り付けてやるとも」

ヴィゴは、新しく出来た恋人を抱きしめ、キスを止めなかった。

 

 

 

「出来上がっちゃったのかなぁ…?」

撮影の合間に、にやにやとイライジャがヴィゴを嫌な笑い方で見た。

「なんかさぁ…落ち着いたよね?距離もちょうどいい感じに戻ってるし、王様、ショーンのこと食っちゃったでしょう?」

ヴィゴは、抜いていた剣を鞘に戻し、さぁっと、受け流して、首を傾げて見せた。

「もう、これだから、大人って。…でも、俺の素敵な枕ちゃんは、これからも貸してよね。使用法限定でいいからさ」

イライジャは、フロドのままの表情であどけなく笑って見せた。

 

休憩用のテントでは、ショーンとオーランドが、馬鹿笑いしていた。

周りには、ドミニクと、ビリー、アスティンもいる。

笑い声が、ヴィゴ達にまで聞こえた。

何がおかしいのか、ドミニクと、ビリーは、お互いの身体を叩き合いながら、喜んで笑っている。

撮影が中断されたヴィゴとイライジャは、テントに戻ろうと足を向けた。

ショーンが、笑いながら、ヴィゴに手を振る。

この騒動で、ヴィゴは、ショーンを恋人として得たが、ついでに、多くの障害物も得てしまった。

 

END

 

 

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終わったぁ!!(喜)

長かったです。辛かったです。何がって、エッチがなかなか出来ないことが…(笑)

焼きもちと、初エッチ。リクの内容は、クリアー出来たと、いうことでいいでしょうか??

長々とお付き合いありがとうございました。

リクを下さった南都華さまも、本当にありがとうございました。