VO劇場 ─4─
「ヴィーゴ。ヴィーゴ」
ヴィゴの家の周りに、大きなオーランドの声が響いた。
声は、山の木々に吸い込まれるばかりで、返事は返ってこない。
「ヴィーゴ。ヴィーゴ。ヴィーゴ」
オーランドは、さらに大きな声を出した。
朝の空気が冷たい。
「オーリ。人を犬のように呼ぶのはやめてくれ」
枯れ枝を踏んで、顔をしかめたヴィゴが木の間から姿を現した。
「いるんなら、すぐ返事をしなよ」
オーリは、何度も呼ばされたせいで、けんか腰になっている。
「いると思ったから、呼んでたんだろ?」
「別に。発声練習してただけだけど?」
ヴィゴは、くるりと背中を向けた。
オーリは、追いかけて背中に蹴りをいれる。
「腹がすいてんだけど」
「勝手に冷蔵庫のものを食え」
ヴィゴは、蹴られた背中をさすりながら、オーランドに家の方角を指差す。
オーランドは、うなった。
「オーリ、ハウス!」
「ヴィゴ、ひでぇ、人をペット扱いか?」
「最初にそうしたのは、お前だろう?」
「あんたが、勝手にそう受け止めただけだろうが・・・」
ぶつぶつ文句をいうオーリの横を、ヴィゴはすり抜けて家へと向かった。
「やりぃ!やっぱ、朝飯作ってくれんの?」
ヴィゴの顔がしかめ面のままだろうが、オーリは、尻尾を振ってヴィゴの後をついていく。
しかし、ダイニングの床に、ミルクと、ドックフードが並べて置かれたとき、オーリの顔に青筋がたった。
「ヴィゴ!なんで、ドックフード!」
「この間、絵が気に入って買ったんだ」
「そうじゃなくて!」
「人を野良犬扱いしただろ?」
「誰が!そんなこと、こだわんなよ。ちょっと節をつけて呼んだだけだろ」
「じゃ、オーリが今度は犬になる?」
オーリは、朝のダイニングで、お預けをされた犬になった。
目の前には、おいしそうな人間用の朝食が床に!おかれている。
「オーリは、かわいいワンちゃんだねぇ」
目じりを下げて頭を撫でるヴィゴの手に、オーリは、じっと耐えていた。
絶対に噛み付いてやる。
朝食さえすめば、オーリは闘犬になってやる予定だった。
END