VO劇場 ─5─
「オーリ…まだ、怒ってるってわけか?」
「まぁね。あと十年くらいは怒ってる気だけど?」
「なんと、気の長い…」
「おかげ様で人生の残りも長いからね」
買い物に出た町の雑貨店で、オーランドは、無表情に籠の中へとものを放り込んでいた。
どんな意図で選ばれているのか、見当がつかないが、ヴィゴの家にも、オーランドの家にも洗濯バサミはちゃんとあり、予備も必要ない。
ハサミもいらないし、シャンプーもこう何本もいれては重いだけだ。
「犬はいないんだが…」
「そう?俺、何時だかあんたんちでドックフードをご馳走になったことがあったから、大事なお客様用に、常備しておく必要があるのかと思ってたよ」
オーランドは、重いドックフードの袋を棚に帰すことはしない。
「そうそう」
かさばる除湿材を籠の上に積み重ねる。
もう、カートは一杯だ。
「こんなに買ったら、車に積みきれないだろう」
「大丈夫。帰りはあんた一人だから」
「はぁ?」
ヴィゴは、大人しくカートを引いていた手を止める。
機嫌を直して欲しいからこそ、オーランドのわがままを聞き入れていたのだ。オーランドが一緒にいられないというのなら、こんな買い物をする気などさらさらない。
本当は、歯ブラシを1本買うだけでよかったのだ。
「一人でいることに慣れたら?」
「慣れてるよ」
「そう、じゃぁ、来週末の話も平気だね」
笑顔を顔に張りつけて振り返ったオーランドが「平気だね」と、わざとらしく繰り返す。
「…それは、どうかな?」
「あっ、そ」
オーランドは、山積みになった除湿材の上に、バランスよくティッシュのボックスを積み重ねた。
ちょっとしたタワーの完成だ。
「来週は、ショーンと旅行に行く。もうこれは、決定だ。あんたにもお土産を買ってきてやるから、ぐずぐず言わずに、送り出すこと。あんただって、ショーンと旅行に行って楽しかったって言ってたじゃん。何が問題?」
「多分、俺の気持ちの問題」
「そうだろうね。現実的じゃない問題だ」
オーランドは、もう一つ、ティッシュのボックスを載せる。
こうなってくるとバランス感覚のよさにうっとりする。
側を通る町の人々が、二人がちょっとした有名人であることもあって、じろじろと不恰好なタワーを見上げていく。
視線に耐え切れず、ヴィゴはカートの山を崩さないよう注意しながら、レジへと向かった。
レジのご婦人が目を見開く。
「車まで運びましょうか?」
「いいえ。連れがいますから」
関係の無い顔で、店を出ようとしているオーランドを呼び止め、半分の荷物を持たす。
「俺は、馬鹿か?」
「…多分、そうだね」
駐車場で、ヴィゴは、荷物を座席とトランクへ無理やり詰め込み、助手席にはオーランドを詰め込む。
「でも、行って欲しくない。旅行なら、今度俺と行こう」
「…あんたといると景色なんか目に入らないから嫌だ」
オーランドが目元を赤くして、顔をそらした。
「…オーリ…」
人目があるから、二人はそっと手を握る。
「あんたが好きだよ。でも、旅行には行く。いいね。この位の自由は当然だ」
ヴィゴは、オーランドの意思の固さに仕方なく笑った。
そもそも、堅物で、信頼できる友人相手に、焼きもちを焼くような必要だってない。
「歯ブラシを買い忘れた」
「…あんた、本物のばかだね」
オーランドは大笑いした。
二人は、必要のない大量の買い物を積んだ車を降りて、もう一度雑貨店に戻った。
END
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