VO劇場 ─2─

 

「ヴィゴ。ヴィゴ。そんなに手に書いたら、だんだん、腕の上のほうまでいっちゃって、そのうち自分じゃ見えなくなるんじゃない?」

オーランドは、もう、十分に芸術的な作品に仕上がっている、ヴィゴの手をみながら、呆れた声をだした。

なのに、ヴィゴは、まだ、ペンを握って、何かをメモしようとしている。

「せめて、小さな字でかくとか、掌に書くとか」

「メモ帳に書くとか?」

ヴィゴは、笑って言葉を奪った。

しかし、オーランドの忠告をありがたく拝聴しながらも、忘れないうちにと、ペンで人体メモにいそしんでいる。

「ねぇ、どうかな。これから、俺と出かけるってのに、じゃがいもとか。砂糖一袋なんてぱっちり人から見えてて、俺がこんなにキメてるってのに、そういうのって、マナー違反じゃないの?」

オーランドは、カジュアルなスーツ姿で、ソファーにたらしなく座って出かけるのを待っていた。

そして、ヴィゴがシャツを袖までめくりあげ、次々に単語を書き込んでいくのを見ている。

いや、見ているしかできない。

これから、ちょっとおしゃれなレストランに出かけようと話が纏まっていようが、いや、たとえば、公式の場へ、出かけることがきまっていても、ヴィゴは、彼の合理性にしたがって、人体メモをやめたりしない。

つまり、オーランドは、あきらめるしかない。

「あんまり、たくさん書くことがあるなら、俺の手も貸したげようか」

オーランドは、ヴィゴのメモが肘まで行ったのをみて、自分の手をひらひらとさせた。

「書いてもいいのか?」

ヴィゴがペンと片手に近づいて、オーランドは、本当に呆れて、どうぞと、腕をさしだした。

ヴィゴは、大きく文字を書き込んでいく。

「I′m in LOVE to viggo」(ヴィゴと恋愛中)

オーランドは慌てて手を引いた。

文字は、誰からも、はっきりと見える。

「俺の手は、おまえに腹一杯食わせるためのメニューで一杯だからな」

ヴィゴは、満足そうにうなずくと、ペンにキャップをした。

そのまま、何でもないように背中を向けてペンをしまいにいく。

確実に、一枚上手の恋人に、オーランドは真っ赤になって、顔をしかめた。

 

                                                                      END

 

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