VO劇場 ─1─
「なぁ、オーリ、この本」
ヴィゴは、困った顔をして、電話の前で立っていた。
「あっ、ごめん、ちょっとメモがなくって」
オーランドは、ヴィゴの持つ本のタイトルを見て、ばつの悪い顔をする。
「いや、いいんだ。オーリに上げた本だし、どうしようと、オーリの好きにすればいいんだから、いいんだけど・・・ね。ただ、ここにメモするのは、ちょっと・・・」
「ごめんってば、ちょうど、電話をうけてたとき、書くものがなくて」
「いいんだよ。オーリの愛情はよくわかってるから」
ヴィゴが手にしているのは、彼が出版した詩集だ。
オーランドのために、特別に書き下ろした一篇も、手書きで書き足されている。
オーランドは、自分の過失を素直に認めた。
「ヴィゴ」
オーランドは眉を下げてしまった大人の恋人の機嫌をとるため、彼の側まで行って、唇をつきだした。
ヴィゴがキスしている間に、本を手から奪って、ソファーへと放る。
「ヴィゴ、ごめんね」
「いや、いいよ。ただ、あれじゃ、あのナンバーが人にばれるんじゃないかと心配しただけだ」
「え?」
オーランドは、あの本にメモした内容を忘れてしまっていた。
たしか、そう。そうだ。あの本に、ヴィゴの携帯ナンバーを記録して、すぐ、自分のにメモリーしたから、なにかをメモしたことだけしか、覚えてなかった。
オーランドは、キスしながらソファーに視線を送った。
開き癖のついたページは、ヴィゴの顔写真が載っていて、そこに、ばっちり大きな字でナンバーが記されている。
「ヴィゴ、ごめんね」
オーランドは、今度は謝る意味だけ変えて、同じ言葉を口にすると、機嫌の直っている唇へと何度かキスを送った。
END