OV劇場 ─3─

 

「この間さぁ、雑誌であんたのインタヴューを読んだ」

オーランドとヴィゴが会うのは久しぶりだった。

ヴィゴは、裸の背中をみせて、ベッドにうつ伏せになっていて、オーランドは、枕を背中に敷いた状態で壁に寄りかかっていた。

「あんたさぁ、10年後のこと聞かれて、随分おきれいなこと言ってたじゃん。…そう、今は金持ちだけど、将来は全くわからないみたいなさ。あれ、読んでて思ったんだけど、わからないとか言ってる10年後にも、あんたはヘンリーが自分と一緒にいると信じてるだろう。二人でふらりと旅にでもでて、そこからやり直せばいいとか考えてただろう?」

ヴィゴは、ゆっくりとシーツから顔を上げた。

額に掛かっていた髪をかき上げ、気難しそうな顔をしてオーランドを見上げた。

「それは、今話さないといけないことか?」

正確な内容とは言い難い記事にまで目を通しているオーランドをばかにするような顔をして、手を伸ばして煙草を取った。

オーランドに向かって顎を突き出す。

仕方なくオーランドは、ライターを手に取った。

「そろそろ、子離れってのをしてみない?10年後なんていえば、俺も立派にいい男になっているだろうし、一文なしになって、訪ねていく家の一軒ってのより、一緒に旅をする相手として、選んで欲しいんだけど」

オーランドは、ライターの火を手で囲うようにしながら、ヴィゴの煙草に火をつけた。

「…なかなか、言うようになったな」

ヴィゴは、煙を吐き出した。

「そう思う?そう思うなら、口説かれてほしいんだけど」

ヴィゴは、煙草を指に挟むと、伸び上がって、オーランドにキスをした。

この位でいいか?と、グレーの目がオーランドに向かって雄弁に話し掛けた。

オーランドは、ため息を付いた。

「…あんたさ、絶対に一文なしになんかなるなよ。そんなことになったら、あんたの家を訪ねていったリジが、即座にメールして回るぞ。抵当物件とかなんとか、書かれたあんたの家の写真が、一気に世界中をかけまわるからな」

オーランドは、ヴィゴに向かって真剣に言い聞かせた。

「それはいいな。みんなの家が訪ねやすくなる」

ヴィゴは、肩を竦め、笑うだけだ。

「だからさ、みんなの家を訪ねて回る前に、俺のとこへ来いって言ってんの!そろそろ、俺のこと認めてくれない?セックスさせて貰えるだけの関係から、ステップアップしたいんだ」

「…そんなのがあること、知ってたのか?」

ヴィゴは、目を丸めてオーランドを見た。

オーランドは、ヴィゴを睨んだ。

「悪かったな。やっと気付いたんだ」

ヴィゴは、とても優しい顔をして笑った。

ブルーに近い色になった目を細め、目尻に沢山の皺を寄せた。

オーランドは、ヴィゴの唇から煙草を取り上げ、ヴィゴの上に伸し掛かった。

「子供は、いつか、大人になるんだよ。ヴィゴ。俺もあんたに会った時より、ずっと成長しただろう?ヘンリーだって、あんたとばかりいてくれなくなる。ねぇ、ヴィゴ、世界平和もいいけど、そろそろ俺のことも真面目に考えてくれない?」

ヴィゴは、皺を寄せて笑った目の形を変えないままに、オーランドを見上げた。

「世界平和と、オーリじゃぁ、同列には考え難いな。それに俺はヘンリーを束縛しているつもりは無い。別に、一人で花を売る生活でも困りはしないんだ。そういうのも気楽で悪くない」

オーランドは、無理やりヴィゴの口を塞いだ。

「じゃぁ、そういう生活に耐えれるよう、体力付けとかないとね。ヴィゴ、もう一回しようか。体力作りに協力してあげるよ」

決して捕まえることのできない恋人を腕の中に抱きこんで、オーランドは強く抱きしめた。

ヴィゴは、特に抵抗をしなかった。

「あんたは、気前が良すぎる。その調子で、無一文になったら、必ず最初に俺のところを訪ねろよ。久しぶりに行ってみたかったとかなんとか言って、ショーンのとこなんか、行くんじゃないぞ」

オーランドは、ヴィゴの首へと唇を落とした。

ヴィゴは、口の周りに魅力的な皺を刻んで笑った。

「あっちは、かわいい娘さんがいて、居心地が良さそうじゃないか?」

ヴィゴは、オーランドの髪を優しく撫でるくせに、決して年下の恋人を安心させなかった。

 

END

 

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