OV劇場 ─2─

 

「ねぇ、ねぇ。ヴィゴ」

ヴィゴの家ですっかりくつろいでいるオーランドは、ソファーの上で寝転んで本を読んでいたヴィゴの上に覆い被さり、彼の肩へと顎を乗せた。

「…重いな。かなり重い」

「愛の重さなんじゃない?」

全体重をヴィゴの上へとかけているオーランドは、丁寧に足までヴィゴの足の上に置いている。

「腹がすかない?」

「さっきまですいてたんだが、今は胃が圧迫されて全然食欲が湧かないな」

「ふーん」

オーランドは殊更ヴィゴの胃の辺りに体重をかける。

ヴィゴは持っていた本を手放し、ソファーの上でぐえっと声を漏らした。

「大丈夫?パパ?最近体力がなくなったんじゃない?」

「ギブアップだ。オーリ、パスタを作ってやるから」

「パスタだけ?」

「スープ」

「美容のためにサラダもどう?」

「わかった。腹一杯になるまで食べさせてやるから、上から退いてくれ。お前最近、ほんとに重いぞ」

「筋肉つけてるからね。エロエロな中年に負けないためには、身体鍛えないと」

「誰が、エロエロ中年だ」

「自覚ないの?」

オーランドの身体の下から抜け出したヴィゴは、放り出した本を拾い、そのまま持ってキッチンへと姿を消した。

昨日から読み始めたミステリーが、結構おもしろくって、ヴィゴがはまっているのをオーランドは知っている。夕べも、まるでオーランドのためだけの、かなり淡白なセックスのあと、部屋を抜け出したヴィゴがソファーの上で、本を開いていたのも目撃した

実はかなり面白くない。

あんまり腹がたって眠れなくて、ヴィゴが随分遅くなってからベットに戻り、本を手放した後、最後からページをめくって、犯人を確かめたくらいだ。

多分、今もキッチンに急かしにいかないと、ランチにありつけるのなんか、軽く一時間はかかるだろう。

もう大分たつのに、キッチンからは、お湯の沸いた音しかしなくて、オーランドは、ソファーから立ち上がった。

「しかたがない適当なものをいただくことにしよう」

はやり、煮え立つ大きな鍋の前で、ヴィゴは本を開いている。

「火、消すよ」

「あっ…オーリ」

さすがに夢中になっていたことが恥ずかしいのか、ヴィゴが慌てて本を置く。

「もう、俺、腹ぺこでさ」

「インスタントにするか?それとも、レンジディナー?」

「もうちょっと、美味いものない?」

「果物なら、りんごとか」

「うーん。もっと、なんか」

「チョコレートならあるぞ」

「それ、メシ?」

「…さぁ?」

まだ、本の続きが気になるらしいヴィゴは、オーランドと会話しながらも、ちらちらと視線を本へと送っている。

オーランドは、さすがに呆れた。

「ヴィゴ、犯人が、知りたい?」

「…知ってるのか?」

「うん」

「言う気か?」

「どうしようかなぁ」

「…意地が悪いな」

「まぁねぇ。いろいろ不足してるもんがあるから、いらいらしてるしねぇ」

「口を噤んでもらう代償は?」

「ヴィゴ」

俺?と、ヴィゴは自分の胸を指差した。オーランドは、にやにや笑いながら、腕を広げて近づくように促す。

「最近体力がないんだが…」

「でも、パパエロくって、頭からがぶがぶ食べちゃいたい感じだから」

「メシは?」

「メシはヴィゴのこと腹いっぱい食べてから」

 

確かにオーランドはヴィゴを腹いっぱい食べさせてもらった。しかし、セックスの後、すかさず本を取り出したヴィゴに、仕方なく一人でキッチンを漁っている。

「もっと、簡単に食べられるもの、用意しとけよな」

ヴィゴの言っていたレンジディナーもインスタントも、実際には棚の中になく、オーランドはりんごにかぶりついていた。

茹で過ぎたパスタはできたが、缶きりがみつからないから、ソースだってかけられない。

「犯人は、じじいだ。もう、ヴィゴさっさと読み終われよ!」

約束した以上にたっぷりヴィゴを食べてしまったので、じっと待つしかないオーランドだった。

 

                                                 END

 

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