OS劇場 ─6─
「ショーン…」
オーランドは、濡れた髪のまま、ベッドに腰掛けるショーンの太腿の上に自分の膝を乗せた。
きちんと拭いていない髪から水滴が垂れる。
ショーンの顔を濡らす。
ショーンは、少し顔を顰めたが、柔らかく笑って、オーランドの頬を撫でた。
「オーリ、ちゃんと、拭いてこないとダメだろう?」
声が優しい。
オーランドの頬に唇を寄せ、そっとキスをする。
笑顔だ。
オーランドは、思わず、怪訝な顔になった。
ショーンは、絶対に嫌がると思った。
即刻、バスルームに戻るよう命令されて、髪をきちんと拭いてくるまで戻ってくるなと言われると思った。
ショーンは、緩くオーランドを抱きしめる。
膝に乗っているというのに、嫌な顔一つしない。
「…ショーン?」
「うん?」
ショーンが、顔を傾け、オーランドに口付ける。
柔らかな唇の感触を味わいながら、オーランドは、ますます居心地が悪くなった。
いつもと違いすぎる。
こういうのは、もっとオーランドが努力を重ねた後にしかやってこないご褒美だ。
「…ショーン?どうかした?来週の約束がダメになった?」
「なんで?」
ショーンは、キスを繰り返す。
「じゃ、明日のランチ、一緒に食べられないとか?」
「そんなことないよ」
ショーンが、優しい顔のまま否定する。
キスを続ける。
唇に、首に、肩に。
ショーンは、オーランドのバスローブを脱がし始めた。
オーランドは、違いすぎるショーンの態度に、簡単にはその誘いに乗ることができなかった。
「ショーン、はっきり言って。何?なんなの?どんなことがあったの?俺に何を告白しないといけないの?」
ショーンが、にっこりと微笑む。
オーランドは、恐くなって、眉の間に情けないような皺を寄せた。
十分なタメの後。
「俺が告白しなくちゃならないことなんてないな」
ショーンは、オーランドを抱きしめたまま、にやりと笑った。
オーランドは、緊張のあまり止めていた息を吐き出した。
「…だが、優しくする理由を秘密のせいだと思うオーリには、告白することが沢山ありそうだな?」
ショーンの目が意地悪くオーランドを見た。
緩く抱きしめていた腕も、オーランドを拘束する輪っかとなった。
オーランドは、至近距離のショーンから逃げられなかった。
「いつも、優しいもんな。お前」
ショーンが笑う。
オーランドは何がバレたのかと、思わず唇を噛んだ。
今日のショーンは優しすぎた。
裏があるに決まっていた。
「…この間、時間に遅れたのが、撮影のせいじゃなかったって聞いた?でも、しょうがなかったんだよ。女優二人に掴まっちゃ、簡単に抜け出せない」
オーランドは、まず、許してもらえそうな事から告白した。
ショーンが首を横に振った。
これではなかったようだが、とくに怒った様子ではない。
「…じゃぁ、もしかして、明後日のオフに海に行く話がバレた?」
「…へぇ、また、ボード?この間、怪我をしかけたばかりだろう」
ショーンが、オーランドを睨んだ。
「大丈夫だって!」
オーランドは、バレずにすんだかもしれない隠し事を自ら口にしてしまったことを後悔した。
だが、ショーンはすでに睨んでいる。
後の祭りだ。
その上、ボードのネタも違うのだ。
ショーンの表情がそう言っていた。
「……じゃぁ、もしかして……この間俺が勝手に録画した爪の折ってなかったビデオテープ。あれに、ショーン、大事な試合のビデオ撮ってたとか…?」
おそる、おそるオーランドは、一番聞きたくなかったことを、聞いた。
3日前、ショーンの上がりを待つ間、オーランドは先にショーンのホテルに来ていた。
その間に、ちょっとした親切心を起こしたつもりだった。
特別秘密にしたかったわけはない。
だが、勝手にしたことだけに、もし、そうだったら、恐いと思ってはいた。
だから、言い出せずにいた。
ショーンが恐ろしく均等に唇を上げてにっこりと笑った。
オーランドは、目を覆って、後ろに仰け反った。
だが、すぐ、ショーンに向き直った。
「ごめん!ごめん!ごめん!ラベルもなかったし、最初に巻き戻ってたし、新しそうだったから、生テープだと思ったんだ。ごめん。ごめんなさい。怒んないで。ちゃんと誰かにテープダビングさせてもらえるよう頼むから!」
怒鳴られると思っていたオーランドは、必死になってショーンにしがみついた。
ショーンは、びっくりするほど優しくオーランドを抱きしめた。
「怒ってない。オーリ。アレには、オーリが観たがってた番組を録画しておいただけだ。だた、今日見せてやろうと思ったら、違うのがはいってたから、びっくりしただけだ」
オーランドは、ショーンの言葉に驚いた。
「まさか、オーリが俺のために、ガーデニング番組を録画してくれるとは思わなかったから、びっくりしたよ」
ショーンは、オーランドの額にキスをした。
「ただ、感謝を伝えたくて、ちょっと優しくしてやろうと思っただけなのに、オーリは色々と俺に隠し事があるんだな」
緑の目が、オーランドの黒を覗き込んだ。
すこし叱るような、だが、優しい目だ。
オーランドは大きくため息をついた。
「……寿命が縮まった」
「お前が素直に俺の気持ちを受け取らないからだろ」
「だって、ショーン…あんたいつも自分がどんな態度だと…。ああ、でもよかった。サッカーがらみだと、ショーンに殺されかねないから、本気でどうしようかと思ったよ」
オーランドは、やっとショーンの唇に自分からキスをした。
ショーンが笑いの形に口を開く。
その中にオーランドは舌を滑り込ませる。
「ほんと、よかった。やっぱ、こういうのがいいね。ショーンともっと甘い感じにいちゃいちゃしたいと思ってたけど、こっちの方が落ち着く。俺、ほんとは、努力家だったんだなぁ。その気のないショーンをその気にさせるってのに、生きがいを感じるよ」
オーランドは、擦り寄せる頬から逃げようともがいているショーンを捕まえ、何度も頬擦りした。
「大好きだよ。ショーン。俺のためにビデオ録ってくれてありがとう。今日は、サービスしちゃうからね」
ショーンは、迷惑だと、オーランドを押し退けた。
しかし、オーランドは負けない。めげない。
「ショーン。本当は好きなくせに」
オーランドの頭がショーンによって叩かれた。
だが、そんなことは、キスの途中のオーランドには関係のないことなのだ。
END