OS劇場 ─5─

 

額から滴るほど汗をかいてレストランへと飛び込んできたオーランドに驚き、ショーンは思わず腰をあげた。

灼熱のマルタ島でも、普通にしていたら、こんなに汗をかかない。

サービスに付こうとするウェーターに手を振り、オーランドは足早にショーンへと近づいてきた。

「…ごめん。遅くなった。間に合うかと思ったんだけど、渋滞に引っかかっちゃった」

後ろから付いてきたウェーターが椅子を引いた。

オーランドが、ほっとしたように腰掛ける。

「撮影が押したのか?それなら、連絡をくれれば…」

「まぁ、撮影が押したのは、確かなんだけどね。その時点ではあんたに連絡がつかなかったから、他の用事をぎゅうぎゅうに詰め込んでみた」

オーランドは、額の汗を拭いながら、ショーンを見て笑った。

手の甲にファンデーションがついていた。

「シャワーを浴びてない?」

「浴びてる時間なんかなかったの」

オーランドは、行儀悪く、サーブされたタオルで顔を拭った。

ショーンは、呆れながら椅子に腰を下ろした。

さっぱりとした顔になったオーランドの黒い目が、意地悪く笑った。

「…ショーン、俺、間に合いそうにないって分かった時点で、何度か携帯に連絡したんだけど…全然通じなかったんだけどさ、何でかな?」

ショーンは、困った顔をした。

「ずっと、通話中だった」

オーランドは、更に意地の悪いことを言った。

「……知ってるだろう?」

「何を?ショーンが、今日の試合を見られないって、地元の仲間に散々電話で嘆いてたのも、VTRを録ってくれるよう、頼み込んでたのも知ってたけど…携帯で試合の実況中継して貰う気だったのまでは、知らなかったな」

ショーンは、すこし唇を尖らせた。

「知ってるじゃないか…」

「後から聞いたんだよ。あんた、槍を持ったまま、片手に携帯で雄たけびを上げたそうじゃないか。今日最大のトピックスとして、俺のとこまで流れてきた。まぁ、絶対にやると思ってたけど」

オーランドは、前菜にフォークを刺しながらにやにやとした。

「ゴールでも決まった?」

オーランドの言葉に、ショーンは、嬉しさを隠しきれていない苦い顔をして頷いた。

オーランドは、声を上げて笑った。

それから、満足そうにショーンを見た。

とても愛しそうな顔だ。

「今日は、遅れなくてもあんたに連絡するつもりだったんだ。あんたの前科から言って、試合時間中は間違いなく携帯で仲間と連絡を取ってると思ったからね。今日の電話にすぐ出るようだったら、あんたの持ってる携帯が、一台じゃないってわかるってもんだろう?」

ショーンは、茫然としたようにオーランドの顔を見た。

食べようと口の側まで持ってきていたチーズも、宙に浮いたままだ。

「どうした?俺に呆れた?」

「…呆れた」

ショーンは、幸せそうな顔のオーランドを睨んだ。

「こんな遠くのレストランを予約して、デートまでするのに、まだ、何が不満なんだ」

「この後、あんたの最高の顔を見せてもらうんだとしても、10時間もしないうちに、また別の場所じゃん。そうすると、あんたは、また別の人と仲良くしてて…そういえば、最近ブラッドと仲良くしてるんだって?」

オーランドの目が恨みがましくショーンを見た。

オーランドお得意の見当外れな焼きもちに、ショーンは、フォークを置いて、自分の唇を撫でた。

もう、すっかり、こういうのには慣れた。

髪をかき上げ、肩を竦めると、オーランドを優しい目で見た。

「オーリ、そういう独占欲は、俺たちのためにならないって、何回教えたら覚える?わがままも大概にしないと、しばらくデートはお預けだからな」

「…痛っ!」

オーランドは、テーブルの下でショーンへと摺り寄せた足を踏まれて、顔を顰めた。

「どうする?俺の携帯の履歴でも調べるか?」

ショーンは、にやにやと笑った。

「そんなことしたら、VTRを観るのに調度いい時間ができて、ラッキーだって思うんだろう?」

オーランドは、唇を尖らせた。

ショーンは、自分から足を絡めて、優しく笑った。

「そんなことないさ。今日だって、お前が来るのが遅いから、一緒にいられる時間が少なくなるなぁと、がっかりしてたとこなんだ」

ショーンの目が、性悪に笑っていた。

全く、思っていない顔だ。

オーランドだって、こういう扱いに、もう、慣れた。

オーランドは、ベッドに行ったら覚えていろよ。気合を入れてショーンに笑った。

何も知らないウェーターがとても優雅な仕草で、テーブルに新しい皿をサーブした。

 

END

 

 

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