OS劇場 ─4─

 

「不思議な生き物を見たんだ」

そう言って、ショーンは絵を描き始めた。

それを覗き込んだトロイの撮影メンバーは、首を捻った。

「これは…確かに、不思議な生き物だな」

マルタ島の照りつける太陽に、額の汗を拭きながら、ブラッドは青い目を細めた。

ショーンは、そうだろう?と、何度も頷きながら、絵の続きを描いていく。

「…そうね…なにかしら、これ…」

同じくらい背中に汗をかいているダイアンは、ショーンを傷付ける言葉を口にするわけにいかず、じっと手元を見つめつづけた。

ショーンが描き出していっているものは、4つ足で、頭には角に似たどうやら耳があり、背中にもしかして羽根?と、思わせる突起物がついていた。

「こんな不思議な生き物は見たことがないな。ここの特別な生き物か?」

ブラットは、とても好意的にショーンの絵に対して評価を下した。

もっとはっきりと、地球上のどこでも見たことがないと言っても差し支えなかった。

そこに、ひょいっと、足取りも軽くオーランドが顔を出した。

「なに?これ?」

ショーンの背中に覆い被さるように顔を覗かせ、手元の絵を見ると、ショーンの手からボールペンを取り上げた。

「これは、こう。で、これをこうして…」

オーランドによって次々に描き足されていく線が増え、そこには、犬に似たものが現れた。

どうして、犬の背中に突起物がついているのかは謎だったが、見知った生き物になった紙の上の不可思議な物体に、メンバーは、なんとなく、ほっとした思いだった。

誰も何だかわからなかった、ショーンの描いた絵を、犬だと分かったオーランドに、皆は2人の間にあるつながりの深さを思い知った。

そういえば、2人はこの前にも大作で共演していた。

「本当に、ショーンは、絵が下手なんだから!」

口をへの字に曲げるショーンを置いて、オーランドはまた、不意に去っていった。

オーランドが描き足したショーンの絵をじっと見ていたエリックが、すこし遠慮しながらも、ショーンの手からボールペンを受け取った。

背中についていた突起物を、はっきりとした形にし、オーランドが犬の形にしたものを犬種まで分かるほど、特徴を捉えて描き足した。

「ああ!確かにいた!」

「そうそう。最初は、びっくりしたけど、可愛かったわね」

ブラットと、ダイアンは、やっとショーンが見たという不思議な生き物の正体がわかった。

それは、確かに撮影所にいた。

 

きゃんきゃんという小型犬らしいかわいらしい声とともに、ショーンの背中にポメラニアンが覆い被さった。

真っ黒の目をして、小さな口を開き、精一杯大きな声で吼えていた。

ショーンは、振り返って、ポメラニアンと、顔を付き合わせた。

目を丸くしていた。

ポメラニアンは、ここの暑さに汗疹にならぬようにと短く毛の刈られていた。

それでもかわいらしく天使の羽を模したハーネスをつけていた。

ポメラニアンを飼い主のスタッフから攫ってきたオーランドは、にやりと口元を緩めた。

「おや、あんたたち、よく似てるじゃん。キュートなとこがそっくり」

吼えるポメラニアンごと、オーランドは、ショーンを抱きしめ、髭面の頬にキスをした。

「誰かに何かを説明しようと思ったら、ショーンの場合、絵は止めたほうがいいと思うな。これが、分かるようになるには、そうとう愛がないと無理だからね」

押しつぶされたポメラニアンが逃げ出し、ブラットの足もとを駆け抜けていった。

エリックが慌てて手を伸ばして、ハーネスを掴んだ。

なんだかんだと揉めながら、いつも側にいる2人の姿に、ダイアンは呆れた声を出した。

「暑いわよね?あんただって、暑いから、毛を刈られちゃってるんだもんね。私、時々、あの距離で話をしている2人を見てると、自分ばかりが暑いのかと不安になることがあるわ」

ダイアンは、エリックの腕に抱かれた柴の小犬のようなポメラニアンの頭を撫でながら、ショーンの背中に覆い被さったまま離れようとしないオーランドを眺めた。

ショーンが顔を顰めて口を開いた。

「お前、あの犬がどういう種類の犬かわかるか?一体あれは、なんていう犬なんだ?」

きゃんきゃんとポメラニアンが抗議をした。

「…犬だとは、分かっていたのか…」

決して犬だと見えなかったショーンの絵を思い、ブラッドは、小さく呟いた。

 

END

 

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