道の途中 10
ショーンは、オーランドをじっと見ていた。
恐ろしく冷たい視線は全くオーランドから離れなかった。
オーランドは、背中に冷や汗が伝っていくのを感じた。
こんなにも怒っているショーンを見るのは、初めてだった。
「オーランド・ブルーム」
ショーンは、オーランドの名前をフルネームで呼んだ。
それは、自己紹介をした時以来、初めてのことだった。
オーランドは、胸が苦しくなる気がした。
「ショーン、あの…ごめん。…ごめん」
オーランドは、とりとめもなく、謝罪を繰り返した。謝っていないと逃げ出したくなりそうだった。
ショーンは、首を横に振った。
断固とした振り方だった。
オーランドは、ショーンの足元に縋りつく自分を一瞬のうちに想像した。
現実は、それすらも、恐くて出来ずにいた。
「オーランド、なんで、自分が謝っているのか、自覚しているか?」
ショーンは、後ろ手に手錠をかけられたままだったが、威厳のある大人だった。
オーランドは、視線を合わせられず、自分の足元をみた。
ショーンに何度も踏まれ、靴は、泥まみれだった。
顔を下げたオーランドに、ショーンは、鞭を当てるような鋭い声で名前を呼んだ。
それでも顔を上げないオーランドに、その声は、何度も鞭を当てた。
「オーランド」
「ごめんなさい!!」
オーランドは、大きな声で叫んだ。
叫ばないと自分に負けそうだった。
「ごめんなさい!ヴィゴがショーンに悪戯をするからって、見張りを頼まれて。それで、俺、軽い気持ちで…こんなことになるなんて、全く考えてなくて。…ショーンにちゃんと俺がいることだって、言おうと思ったんだ。でも、ヴィゴが…うんん。ヴィゴのせいじゃない。俺が、ショーンの話すことが聞きたくて、黙ってたんだ。ごめん。本当に、ごめん!!」
オーランドは、全身から搾り出すように、必死で叫んだ。
「ショーンのことを騙したかったとか、そういうのじゃないんだ。本当に!本当に!最初からこうなるようにヴィゴと考えてたとかは、全然なくて、言い出せなくて…違う。俺がいるって言わなかっただけなんだけど、でも、なんていうか、その、えっと、ショーンに恥をかかせたかったとか、そういうのじゃなくて…あの、ごめん。本当に、ごめん。ごめんなさい。ちょっと、びっくりさせるだけのつもりで。あの…お願い。お願いだから、俺のこと嫌いにならないで!!!」
オーランドは、ショーンのことを縋りつくような目でみた。
許してもらいたくて、ただ、必死になって叫んだ。
ショーンは、言い募るオーランドに、驚いて僅かに身を引き、オーランドには、わからなかったようだが、つりあがっていた目元をかすかに緩めた。
「ごめんなさい。お願い。お願い。俺のこと、嫌いにならないで…」
オーランドは、鼻の奥が熱くなってくるのを感じた。
叫んでいたら、涙声になっていた。
興奮して、涙が目尻に盛り上がっていた。オーランドは、ぐいっと、涙をぬぐった。
ショーンは、オーランドをじっと見つめた。
オーランドの、普段、血色のいいはずの唇が色をなくしていた。
目は、怯えるように、視線が定まっていなかった。
そんな顔は珍しかった。
いつものオーランドはそこまでマイナス方向へは向かっていなかった。
ショーンは、その顔にかすかな満足感を覚えた。
首をしゃくって、オーランドに近付くように態度で示した。
オーランドは、まるで罰を受ける子供のように項垂れて、ショーンの近くへと足を運んだ。
ショーンの側まで来ながら、そこで動けなくなっていた。
ショーンは、オーランドに背中を向けた。
手首を繋いでいる手錠を見せて、それをガチャガチャと言わせた。
「外せ」
オーランドは、ぜんまいが巻かれたように、手に握っていた鍵でぎくしゃくとショーンの手錠を外した。
ロープの瘤を緩めながら、腰が引けていた。
殴られることを覚悟していた。
ショーンは、ロープの緩むのを感じながら、威嚇するように、指を鳴らした。
拳を作るショーンの指に、オーランドは、目を背けたさそうにした。
「オーリ」
「…はい」
ロープの解けたショーンは、今、正に張り飛ばされるつもりのオーランドの胸元を掴んだ。
オーランドは、椅子に座ったままのショーンの足元に崩れ落ちた。
緊張で、身体ががちがちになっていた。
見上げる目は、泣き出しそうに潤んで、事実、さっき泣いたせいで赤くなっていた。
ショーンは、オーランドに顔を近づけた。
オーランドは、唇を噛み、近付く恐怖にじっと耐えようとしていた。
ショーンは、オーランドの胸元をもう一度引き上げた。
オーランドは、なすがままだった。
ショーンの膝の上にのりあげるようにして、じっと制裁を待っていた。
「顔は…やめて…ほしい」
完全に殴られると思っているオーランドは、役者としての根性を見せて、瞑りそうに震えている睫を精一杯開けると、ショーンに免罪を求めた。
「他のところなら、気が済むまで殴ってくれていい。でも…お願いだから、顔だけはやめて」
黒い瞳が、不安げに揺れながら、じっとショーンを見つめていた。
歯を食いしばっているのが、なんともかわいらしかった。
「…それから…それが済んだら、また、俺のこと好きだって言ってほしい…」
オーランドは、ぎゅっと音がしそうな程、思いつめた顔をして目をつむった。
殴られることを、覚悟していた。
オーランドの言葉に、ショーンの心に、熱いものが灯った。
ショーンは、いじらしいことを言うオーランドの唇にかじりつくようなキスをした。
最初、唇が触れると、オーランドは息を呑んだ。
身体がびくりと硬くなり、それから、ゆっくりと弛緩していった。
体温が溶け合うほど、時間がたつと、オーランドは、ゆるく口を開いて、舌をのばそうとした。
ショーンは、その舌をきつめに噛んだ。
オーランドが悲鳴をあげた。
口を押さえて、ショーンから飛び退った。
「ショーン!!」
「今日のお前は、もう、上がりだったな。先に家に帰って待ってろ」
ショーンは、かばんを探り、自分の家の鍵を取り出すと、オーランドに投げた。
「許されたなんて思うなよ。だが、今は時間がないから、これだけで解放してやる」
オーランドは、慌てて鍵を受け止めた。
「ショーン?」
オーランドは、どうしていいのかわからず、ショーンの名前を呼んだ。
ショーンは、オーランドのとまどいに取り合わなかった。
「家で大人しく待っていろ。終わったらすぐ帰る。鍵をコピーするんじゃないぞ。わかってるな。今、そんなことをしでかしたら、お前は明日、撮影に行けないものと思え」
どすどすと音を立ててショーンは、トレーラーから出て行った。
オーランドは茫然と去っていくショーンの後ろ姿を見送った。
簡単に食事を済ませ、ショーンの家に辿り付いたオーランドは、大人しくリビングでショーンを待つべきだと考えたのだが、暑さに耐え切れず、そうそうにクーラーのついた寝室へと退避した。
馴染んでしまった、ベッドに転がり、クーラーの風を受けながら、ぼんやりと今日のことを回想していると、これから訪れる恐怖よりも、今日あった幸せが胸に湧き上がってきた。
トレーラーの中に、ヴィゴしかいないと思っていたショーンは、オーランドが好きだと告白していた。
信じられないほど嬉しかった。
オーランドの陽気で感情的な部分が、いいと言った。
可愛いとも、言った。
どれも、ショーンの口から、オーランドには聞かされていないことばかりだった。
オーランドは、口元が緩むのを止めることができなかった。
誰に見つかるわけでもないのに、自分で口元を覆って、にやつく顔を隠した。
ショーンが自分を嫌っているとは、セックスすることに同意してくれるくらいだから、思ってはいなかったが、どうして、その気になってくれたのか、オーランドには謎だった。
押しに弱いのかと、思っていた。
だから、怒涛のように告白したオーランドの勢いに飲み込まれて頷いたのかと思っていた。
だったら、このまま何が何でも丸め込まなくては、と、心に決めていた。
しかし、ショーンだって、オーランドのことが好きだったのだ。
オーランドは押し寄せてくる幸福感に、胸が熱くなる思いだった。
ショーンは、オーランドに嫌われたくないと思っていた。
オーランドが我慢していることをわかってくれていた。
オーランドが考える、拘束しあうような愛情を二人の間に持ちたいという気持ちを、ショーンが理解してくれているとは、いまいち信じられなかったが、それでも、ショーンは、なにかをオーランドが我慢しているということには気づいてくれていた。
オーランドは、嬉しかった。
なんとなく、ショーンの考えるオーランドの我慢というのは、ピントをずれて考えていそうで、不安はあったが、それは、今、この幸せに水を差すほどのことじゃなかった。
オーランドは、顔がにやつくのを止めることができなかった。
オーランドがいることに気付いたショーンは、真剣に怒っていた。
何度も蹴られたし、頭突きも食らわされた。
あんな恐い顔をみたのは、はじめてだった。
でも、キスしてくれた。
かなり痛く噛まれたが、それでも、キスだ。
居たたまれないような照れのなかで、怒り狂っていたはずなのに、キスしてくれた。
もう、オーランドと続ける気がないなら、あんなことは、しない。
オーランドは、気分良く、ベッドでごろごろしていた。
ショーンが遅い。
オーランドは、ベッドで横になりながら、手持ち無沙汰に部屋を見回した。
この家に来てから、身についたおかしな習慣が、オーランドの身体をベッドから立ち上がらせた。
ため息をつくと、床に落ちているショーンの服を拾って、オーランドは、洗濯機を回しにいった。
ショーンは、足音も高く、部屋の中に入ってきた。
馬鹿みたいだと思いながら、乾燥機から乾いた洗濯ものを取り出していたオーランドは、そのまま放り出して、ショーンのもとに駆けつけた。
「ショーン!!」
「なにを陽気になってるんだ?」
抱きつかんばかりにショーンを迎え入れたオーランドに、ショーンは、思い切り顔を顰めた。
近付こうとするオーランドを威嚇するように、床を足で踏み鳴らした。
「さっきまでの殊勝な態度はどうした?ん?」
ショーンは、肩からかばんを下ろし、すっかりくつろいでいるオーランドを足元から舐め上げるように冷たい視線で睨みつけていった。
「誰が、お前を許したって言った?」
オーランドは、すっかり舞い上がっていた気持ちを引き締めて、潔く頭を下げた。
「ごめんなさい。あんなことをするつもりはなかったんだけど、でも、ああなっちゃったのは、事実だし、ショーンがめちゃくちゃ気分を害したことも、本当だから、謝る。本当に、ごめんなさい」
ショーンは、オーランドに背中を向けて、キッチンに手を洗いに行った。
バスルームまで行かない辺りが、ショーンだった。
手を洗い、口を濯ぐと、冷蔵庫を開けて、ビールを取り出した。
残念なことに、オーランドの分は出てこなかった。
ショーンは、まだ、怒っていた。
ショーンは、気分を害すると、こういう些細な嫌がらせをした。
アリスちゃんと呼んだときなんて、てきめんだった。昼食のパスタが、オーランドの分だけ用意されないのだ。小さなことだが、結構、堪える。
「ショーン」
オーランドは甘えるような声で、ショーンを呼んだ。
ショーンは、オーランドから距離を置いて、冷蔵庫にもたれたまま、ビールのプルトップを開けた。
ごくごくと美味そうに飲んだ。
口元を拭い、掬い上げるような視線で、オーランドを見た。
「俺は、まだ、怒ってる。それを忘れるな。でも、ここで話すのは、嫌だ。寝室に行く。お前、ちゃんとクーラーをつけておいただろうな」
ショーンは、オーランドの仕事振りを点検するように、オーランドに向かって指を突きつけた。
オーランドは、ショーンの勝手な言い分に呆れ、力の抜けた笑いを浮かべると、こっくりと頷いた。
「よし」
ショーンは、オーランドの前をすり抜けて寝室に向かった。
オーランドの目の前を素知らぬ振りで通った。
「ついでに、洗濯もしといた。ねぇ、もう、許してよ」
ショーンの背中がドアの中に隠れてしまう前に、オーランドも背中に覆い被さるようにして、後を追った。
ショーンは、扉を開けたまま、部屋に入った。
オーランドの進入を許していた。
それなのに、ショーンは、オーランドにベッドへの立ち入りを禁止した。
この狭い部屋の中で、そこを立ち入り禁止にされたら、オーランドのいる場所なんて、ないも同然だった。オーランドは、ドアを背にもたれて立っていた。
ショーンは、オーランドを無視してテレビをつけた。
「あのさぁ」
さすがに30分も無視されると、オーランドも頭にきた。
繰り返し、謝っている。
なにも、バラエティで笑うことはない。
「あのさぁ。ショーン」
オーランドの声のトーンが変わって、ショーンは、オーランドに目を向けた。
まだ、口元がへの字に曲がっていた。
「どうしたら、許してくれるの?」
「それが許してほしい奴の態度か?」
「もう、何回謝ったか、わかんないよ」
両腕を広げて、大袈裟にジェスチャーすると、オーランドは、ドアから背を離し、ショーンに近付いた。
ショーンは、くしゃくしゃにしたシーツのなかで、顎を突き出すようにしてオーランドを威嚇した。
今にも中指を突き出しそうな態度だった。
「ショーン、言わせて貰うけどね、ショーンも俺に謝るべきだ」
オーランドは、下手にでていてもさっぱり埒が開かず、とうとう声を荒げた。
ショーンは、眉を寄せ、不機嫌な顔をした。
「だってね、ショーン、あんた、自分でヴィゴに何を約束したのか、覚えてる?」
「ん?」
寄せた眉のまま、ショーンはすこし考え込む振りをした。
まるで思いつかないのか、顔は不機嫌なままだった。
ショーンの自覚のなさに、オーランドの苛立ちはますます募った。
「ショーン、あんたさ、あんたも、反省すべき」
オーランドは、ショーンを押しのけて、自分もベッドに座りこんだ。
立ち入り禁止にしたはずのベッドに入ってくるオーランドを、ショーンは、シーツの皺に埋まって睨みつけた。
オーランドは、眉を寄せたショーンの顔を両手で挟んだ。
「覚えがないとはいわせないからね。今度の週末、誰と一緒に過ごすって?」
オーランドが睨みをきかせると、ショーンの目が泳いだ。
オーランドは殊更ショーンの目を覗き込んだ。
頬を掴む手に力をこめて、逃がさなかった。
「誰と過ごすって?ねぇ、ショーン。言ってみなよ。ものすごく、簡単に返事をしてたよね」
「俺が誰と週末を過ごそうが、俺の自由だろうが」
「へー、自由。恋人が一緒に過ごすことを楽しみしてるってのに、自由?恋人を放っておいて、ショーンは、お友達のところに、行っちゃうんだ」
「お前とは、もう、2回も一緒に週末を過ごしただろ?」
「2回だけでしょ?2回もなんて、言わない!」
ショーンは、顔を掴んで離さないオーランドの手に爪を立てた。
オーランドは、睨みつけているショーンの骨に食い込むほど、指に力をこめると、金の頭を激しく振った。
「この!浮気者!!」
「誰が!!」
「ショーン、あんただよ。ヴィゴなんて、膝に乗っけてるんじゃないよ!」
「あれは、勝手に乗ってきたんだろうが!」
「ヴィゴの吸ってた煙草を吸った!」
「知るかよ。俺は目隠しされてたんだ」
「何度もキスされてた!」
「ああ!!もう。そういううるさいことを言うな!」
ショーンは、手を伸ばして、オーランドのことを突き飛ばした。
「誰が怒ってると思ってるんだ!」
オーランドは、ベッドから落ちそうになったが、辛うじて堪え、這い上がると、ショーンの胸倉を掴んだ。
「ショーン、あんた、俺に嫌われたくないんだろ?」
「それは、お前だろ?嫌いにならないでって、泣いてたじゃないか」
ショーンも、オーランドの胸倉を掴んだ。
両方して少しでも優位に立とうと、膝立ちになった。
殆ど目線は同じ位置で、相手を見下ろすというところまではいかなかった。
ショーンが、その状態から、膝を伸ばして、オーランドを蹴り上げた。
オーランドは、驚いた。前につんのめりかけた。
痛みが、オーランドの尻から太腿にかけて襲ったが、オーランドは堪えて、ショーンに伸し掛かった。
ショーンは抵抗して、オーランドの顔を引っかこうとした。
「顔は、止めろ!あんただって、そうされたら困るだろ?」
「だったら、お前こそ、俺に触るな!」
オーランドは、暴れる両腕をなんとかかいくぐって、ショーンの上に乗り上げると、腹に膝をめり込ませ、肩を両手で押さえ込んだ。
「オーリ…お前!」
ショーンは、オーランドを睨みつけた。
「お前、全然、謝ってる奴の態度じゃないぞ!」
「もう、何回も謝っただろう!」
「だからって、俺を押さえつけるな!」
「ショーン、俺が何を我慢しているか、聞きたいだろ?」
オーランドは、腹を押さえつけられて、苦しそうに仰け反る顎をぺろりと舐めた。
ショーンは、オーランドの腕を指の跡がつくほど、きつく握った。
身体を返そうと、タイミングを狙っていた。
オーランドは、逃げることばかりに夢中のショーンの肩を強く押さえつけた。
「こら、聞けよ。おっさん。俺の悩みが聞きたいだろってんだ」
ショーンは、ぎりぎりと音がしそうな程、歯を食いしばって、噛み付くような目をしてオーランドを睨んだ。
オーランドは、腹に食い込ませている膝にますます体重をかけた。
ショーンは、膝を立てて、少しでも体重を逃がそうとした。
「聞きたくないね。こんな礼儀をしらない奴なんて願い下げだ」
「礼儀を知らないのは、あんただ。あんたは、恋愛のルールを守ろうともしない」
ショーンは、拳を握ると、オーランドの腹めがけて振り上げた。
容赦がなかった。
オーランドは、うめいた。
ショーンの上に崩れ落ちた。
「顔は、やめてやったぞ?」
自分の上に落ちてきたオーランドを受け止め、ショーンは、意地の悪い顔をして笑った。
「酷い…酷すぎ。今日食べたもの…もどしそう」
オーランドは、ショーンの体の上で、痛む腹を抱えて丸くなった。
ショーンは、オーランドを自分の上から落そうとする振りをした。
「戻すんだったら、ベッドから下りてくれ」
「…もう、あんた、酷すぎ」
オーランドが泣きそうな声を出すと、ショーンの手が、オーランドの背中を撫でた。
身体の上にオーランドを抱き込むと、腰の辺りを腕で抱きとめ、残った手で、背中を緩く撫でていった。
「もっと、優しくして」
オーランドが弱々しい声で言うと、ショーンは、オーランドの額にごつんと額を当てた。
「反省って、言葉を知らないな」
「それは、あんたもだ」
オーランドは、すぐ近くにあるショーンの唇に、啄ばむようなキスをした。
ショーンの唇が笑いの形になった。
「痛むか?」
「そりゃあ、もう」
ショーンの手が、オーランドの腹を撫でた。
手の平は暖かく、痛む部分には、ちょうど良かった。
「手が出るのが、早いよ。ショーン」
オーランドは、緑の目をのぞきこむようにして情けない声で言った。
「お前だって、そうだろうが」
「俺は、殴ってない」
「そうだったか?」
「蹴ってもないね」
オーランドが主張すると、ショーンは、嘯くような顔をした。
「そんなことされるようなことをするオーリが悪い」
「ああ、もう、本当に、ちっとも反省してない」
オーランドは、腹の痛みが治まると、ショーンの顔を捕まえて、顔じゅうにキスの雨を降らせた。
容赦なくキスを降らせた。
「どうしよう。もう、強烈にかわいい」
嫌がって逃げようとするショーンを捕まえ、オーランドは、唇がはれ上がっても不思議じゃいほど、顔にキスをしてまわった。
「最初に、思ってた人と全然違ったけど、本当に、かわいい、大好き!」
「オーリ、お前、趣味が悪いな」
ショーンは、オーランドを馬鹿にするように笑った。
「そりゃ、もう、だって、ショーンが大好きなんだもん」
ショーンは、顔を顰めた。
出来た皺にオーランドは飽きもせず、キスをした。
ショーンは、最後に呆れて、自分もキスを返してきた。
うるさい声で笑っているテレビを消して、オーランドは、ショーンの服を脱がしにかかった。
ショーンは、面倒くさそうにしながらも、オーランドに協力した。
「よくやる気になるな」
「ここで、やらなきゃ、どうするのさ。ケンカしたら、エッチで仲直り、これ、世界中で共通する法則だと思うな」
「…まぁ、そうかもしれないけど…」
オーランドより余程、この法則を活用していそうなショーンは、顔に苦笑を浮かべた。
「でも、俺、この前みたいに、丸め込まれたりしないからね。ショーンが俺のこと好きだってわかって自信もっちゃったからね、いいことは言わせてもらう」
オーランドは、膝立ちになっているショーンの額に伸び上がってキスをしながら、金の頭を抱きこんだ。
「この頭に、ちゃんとわかってもらわないとね。どれだけ、俺があんたのことが好きなのか」
オーランドは、唇でショーンの髪を噛む真似をした。
「食べちゃいたいくらい、好き。絶対、誰にも渡したくない」
「恐いな、オーリ」
ショーンは抱きこまれた顔がちょうど触れるオーランドの首にキスをした。
笑っていた。
「冗談じゃないってことをわかってくれてるかな?」
オーランドは、ショーンの耳を噛んだ。
ショーンも笑いながら、オーランドの肩を噛み返した。
「ショーンは、うるさいって言うけど、俺、本気で、ショーンのことを独占したいんだ」
「してるだろ?こんなことするのは、お前だけだ」
ショーンは、オーランドの裸の腰を抱きこんだ。
「違うんだよ。ショーンは、ちょっと誤解してる」
ペニスを擦り付けようとするショーンを制して、オーランドは、じっとショーンのことを見詰めた。
「わかるかな?ショーンには、こういう感情が理解できないのかな。指の先1ミリまで、相手のことを自分のものにしたいって感情。理解できる?」
「息苦しいな」
ショーンは、生真面目な顔をしたオーランドを見つめ返した。
「相手の息ができなくなるまで、抱き締めたくなる気持ちってショーンは味わったことがない?」
オーランドは、その目に教え込むようにゆっくりと話した。
「それって、全然愛情を感じないぞ?」
ショーンは、じっと見つめるオーランドから、視線を反らしたそうにした。
オーランドは、見つめる瞳に威圧感をこめ、それを許しはしなかった。
「愛してるんだよ。愛してるから、他の何も見て欲しくなくなるんだ」
ショーンは、目の上を手で覆った。
ついでに、ため息もついた。
全身が拒否反応を示していた。
「…そのセリフは、何度か聞かされたことがある」
見えるように残された口元が、いいにくそうに、何度か小さな息を吐き出した。
赤い舌が、唇を舐めた。
「オーリの言いたいこと、実は、わかってる」
ショーンは、何度も唇を舐めた。
「…悪い…けど、俺、そういうのは、ダメなんだ。泣かないで欲しいんだだが、そういうのは、実は、気持ちが悪い」
言い終わると、ショーンは、目を覆ったまま、顔を反らした。
オーランドは、小さなため息を漏らした。
「泣かないよ。そんなことだろうと思ってた。だって、ショーン、この間だって、ちっとも俺が怒ってるのに、取り合ってくれなかったし。…こういうこと、聞かされるのも、気持ち悪い?」
ショーンは、小さく頷いた。
「俺が、こうゆう気持ちでショーンの事、好きなのは嫌?」
ショーンは、横に首を振った。
「俺のことは、好き?」
頷いた。
「俺は、あんたのこと、大好きだよ。ヴィゴとも誰ともしゃべって欲しくないくらい、好き」
「だから…そういうのは」
やっと、ショーンの目が現れた。
「…苦手なんだ」
「わかってるって。でも、言っとかないと。黙ってると、ショーン、俺が我慢してるのは、あんたに突っ込むことだって誤解してそうなんだもん」
「……そうなんだろう?俺が嫌がったから」
ああ、やっぱりと、オーランドは、呆れて後ろに倒れこみそうになった。
「あんた、ちゃんと協力してくれたじゃん」
「でも、あれからしないじゃないか。それとも、あんまり良くなかった?」
オーランドは、ショーンの不安そうな目を抱きこんで、情けないような気分で、キスして回った。
やっぱり、そうかという気持ちと、なんでこんな風に誤解してるんだと、情けない気持ちだった。
「気持ちよかったって。ああ、もう、ほんと、ちゃんと、しゃべろうね。俺たち。お互い気を回しすぎで、空回りばかりしてる」
ショーンは、きょきょとと、目を動かした。
まるで、信じていない目だった。
「気持ちよかった。これは、保証する。ただ、あんたが辛そうだったから、遠慮してただけ。あれは、俺ばっかり気持ちいいだけじゃん。そうしなくっても、十分気持ちよくなれるんだし、いいじゃん。若者の気遣いをちゃんと汲み取ってよ」
「面倒くさいからとかじゃなく?」
まだ、疑っていた。
「面倒?面倒ってなに?大好きなあんたを、触りまくれるチャンスを、どうして面倒だって思うのさ?」
ショーンは、やっと納得したのか、一つ長く息を吐き出した。
オーランドは、やっぱりショーンが本気で誤解していたんだと、やはり、情けなくなった。
「ねぇ、誤解が解けたようだから、もう一度言わせてもらうけどね、俺、普通に嫉妬深いだけだから。俺に言わせてもらえば、ショーンが異常に拘束されるのを嫌がってるだけなんだからね」
ショーンは、困ったような顔をした。
オーランドの腰を引き寄せて、身体で誤魔化そうとしているのがありありとわかる動きをしようとした。
オーランドは、自分も腰を擦り付けてやりながら、ショーンの腰に回した手で、尻をつねった。
「困ったことになると、こうやって誤魔化そうとするのは、ショーンの悪い癖だ」
オーランドは、ぐいっとショーンの腰を引き寄せて、2人の隙間を全く無くした。
「拘束されたくない。って気持ちもわかるよ。でも、ヴィゴや、地元の仲間より、もっと親密にならなくちゃいけない人間がいること、わかってるんだろ?」
ショーンの唇が文句を言う前に、オーランドは、キスで口止めした。
「愛情は、確かめ合わないと、ダメなんだよ?そうしてないと、いきなりなくなっててビックリすることになる」
「…だって、お前、俺のこと好きなんだろ?」
「そうだよ。でも、そこにあるからって、蔑ろにしていいものじゃない」
「蔑ろにしてるわけじゃない…俺だって、好き…だけど…」
オーランドは、逃げていきそうになるショーンの体を強く拘束した。
「身体はね。こうやって、抱き締めちゃえば、自分のだって、確信できるけど、心は、わかんないでしょ。だから、まめに気持ちを曝け出してあげないと、相手が不安になっちゃうの」
オーランドは、続けた。
「ショーンは、多分、愛情を一度示してもらえば、安心できるってタイプなんだろうけど、普通の人は、愛情を何度も確かめたくなるもんなんだよ。いつも、かき集めてるんだよ。ショーンみたいに、超然とはしていられないんだ」
理解できないように、首を傾げるショーンに、話しているうちに、オーランドは、なんだか悲しくなってきた。
ああ、また一人でつっぱしってると思いながら、ショーンのことをかき抱いた。
「俺、めちゃくちゃ、ショーンのこと、好き。ショーンが嫌でも、ショーンのこと俺だけのものにしたい」
ショーンが身じろぎした。
オーランドは、引き寄せていた腕の拘束を緩め、ショーンの首筋に吸い付いた。
「全身にオーランドって書き込みたい」
ショーンは、悲しいような困った顔をした。
「書き込むといいことがあるのか?」
オーランドは、自分の唇が痛むほど、ショーンの首筋を吸い上げた。
「安心できるの!わかんなくても、ショーンは我慢しな」
オーランドは、次々に、ショーンの首筋にキスマークを残していった。
「…すごい迷惑なんだが」
ショーンは、3箇所までは、我慢したが、それ以上しようとするオーランドの頭を掴んで、そこから離した。
「お前、明日から、俺にどんな格好してろっていうんだ?」
「俺のこと好きなんだろ?」
「好きだと、こんな暑い季節に、首元まで隠せる服をきていなきゃいけないってのか?」
オーランドは、ショーンに乗り上げ、今度は、胸にキスマークを残していった。
「一回、全身で拘束されてる感覚を味わえばいいんだ」
オーランドは、キスを止めなかった。
胸に赤い跡が増えていった。
「絶対、それは、迷惑以外のなにものでもないな」
それでも、ショーンは、一箇所あれば、あとは同じだとでもいいたいのか、胸に出来上がるキスマークについては邪魔しようとはしなかった。
ショーンは、バスルームから戻って、オーランドに呆れさせるセリフを吐いた。
これから、セックスしようという恋人にいうセリフではない。
『乾燥機の洗濯物、しまうのか、入れっぱなしにするのか、どっちかにしろ』
ショーンは、怒ったような顔でオーランドにそう言った。
洗濯をしてもらってありがとうを言うどころか、やりかけたままのオーランドの仕事に顔を顰めた。
オーランドが乾燥機から出さなければ、そこから直接出して、着て行ってしまうくせに、おかしなところで、几帳面さを発揮した。
そもそもバスルームに行くのだって、オーランドは、別にいいと、言ったのに、ショーンが、そんなことはダメだと、強固に主張したのだ。
ショーンの信念は、オーランドの理解を超えていた。
ショーンは、オーランドがセックスにおいて遠慮するのを、気分が悪いと退けた。
オーランドが挿入なんてしないでもいいと言うのを、そんな風に遠慮されるくらいならセックスしたくない言ったのだ。
自分が遠慮される対象になることが、落ち着かないらしい。
そのくらいなら、翌日、腰痛と筋肉痛に悩まされる方をとるらしい。
オーランドは、それを、ショーンの愛情だと強引に分類した。
「本当に、いいの?」
「だから、しない方が嫌だって言ってるだろう?」
オーランドを裸のままで待たせて、自分はシャワーも浴びてきたらしいショーンは、すっかり綺麗になった顔で、オーランドに頬を寄せた。
「セックスさせてもらったからって、俺、もう、我慢したりしないよ?」
オーランドは、太腿を撫でるショーンの手に抵抗しながら、オーランドは、キスマークのついた首筋に腕を回した。
「わかってる?前は、すっかり誤魔化されちゃったけど、もう、誤魔化される気はないからね。ショーンが俺のこと好きだってわかったんだから、俺、いくらショーンに、嫌がられても、ショーンのことを独占するよ」
「せめて、仕事中は、やめろよ」
ショーンは、オーランドの腰を抱きこんだ。
まだ、どこか、オーランドのことを誤魔化せるとでも思っていそうな強引さだった。
「ヴィゴとあんなに接触しないって約束するんだったら、譲歩する」
オーランドは、首に回していた手で、肩から腰を撫で下ろした。
そのままショーンの柔らかい尻の肉をつかんだ。
「週末の約束を撤回して」
ショーンは、顔を顰めた。
オーランドは、尻に指を食い込ませて、左右に開いた。
「こんなことさせる相手がいるのに、週末がフリーになるわけないって、そろそろ、覚えなよ」
ショーンは、鼻を鳴らして抗議しながら、オーランドの唇に吸い付いた。
「俺は、そういう風に拘束されるのは、嫌いなんだ」
「嫉妬深い相手も嫌いだしね」
オーランドは、尻の肉を両手に収めて、丸く揉んだ。
「でも、あんたが付き合うことにした相手は、普通に、嫉妬深くて、普通に、相手を拘束したがる俺なんだよ」
「それなんだがな…オーリ。お前…なんで、俺のこと、好きなんだ?」
ショーンは、オーランドの目をのぞき込んだ。
「はぁ?」
オーランドは、驚いた。
「お前、一度も説明したことないぞ?すくなくとも俺は聞いてない」
「そう?そうだっけ?」
「どうしてセックスする気になったんだ?って聞いたら、好きだから、って言って、好きだって理由については、一度も説明を受けてない」
オーランドは、確かにそうだったかもしれないと、思った。
思ったが、説明する気にはさらさらなれなかった。
ショーンは、すこし、心配そうな不安そうな目でオーランドを見ていた。
こんな目でオーランドに注目してくれるならば、そうそう簡単にに種明かしすることなんて出来なかった。
愛情を出し惜しみするつもりはない。
それならば、ショーンがもう要らないというほど、差し出すつもりだった。でも、その愛情を構成する要素を隠すのなんて、ささいな意地悪じゃないか。
オーランドは、何か言いたげなショーンの唇にチュッとキスをした。
ショーンが、オーランドを離し難く思える日が来るまで、しばらく秘密があったほうがいい。
オーランドは、ショーンの足を開き、ショーンによって用意されたゴムとジェルと使って、指を内部に埋めていった。
ショーンは、オーランドが答えを与えなかったことに、顔を顰めていたが、オーランドの行為を邪魔しようとはしなかった。
「大丈夫?」
「平気だ」
「じゃ、腕を俺の首に回してくれない?なんか、そういうのって、気分がでるでしょ?」
オーランドは、ショーンの唇にキスをしながらおねだりをした。
ショーンは、足を広げたまま、オーランドの首に素直に腕を回した。
オーランドが、満足して頷くと、いきなりその腕が、首をしめた。
「調子に乗るな。オーリ」
ぐいっと、オーランドの首がしまった。
ショーンは、怒ったような照れた顔をしていた。
「もう!ちょっと、ショーン、する気あるの?」
オーランドは、お返しに、ショーンの中の指を強引に、奥までねじ込んだ。
緩んでいないそこは、まだ一本だというのに、そうとう抵抗した。
ショーンは、ううっとうめいた。
「ほら、お互い慣れてるわけじゃないんだしさ、協力しあおうよ」
ショーンは、何か言いたげな目でオーランドを見た。
「なに?」
「なんか、オーリのほうが、偉そうじゃないか?」
「そんなことないでしょ。俺がショーンにお願いして、やらせてもらってるんだし」
「いや、お前、トレーラー以来、絶対に態度がでかい」
ショーンは、オーランドの顎を噛んだ。
オーランドは、何度も、甘噛みしてくるショーンを抱き締めた。
「ねぇ、ショーン。お願いがあるんだけど…俺、態度はでかいつもりはないんだけど、別のところが大きくなっててさ。それで、できれば、先に進ませてもらえると、ものすごくありがたいというか」
オーランドは、苦笑しながら、首をしめているショーンの手を取って、自分のペニスを触らせた。
そこは、とっくに大きくなっていて、ショーンだって、太腿に当たっていて知っているはずだった。
「ねぇ?できれば、ショーンに優しくしてもらえると、とってありがたいなぁって」
すっかりお願いする姿勢のオーランドに、ショーンは、満足げに笑った。
掌でオーランドのペニスを包み込んだ。
やわらかな感触だった。
オーランドは、ショーンの中に入れたままになっている指をゆっくりと抜き差しし始めた。
中は、簡単にはオーランドを動かせてはくれなかったが、すこしずつ、オーランドを受け入れていった。
「教えてね。ショーンが遠慮するなって言ってくれたから、俺、遠慮しないけど、自分ばっかり楽しみたいわけじゃないんだ。ショーンの気持ちいいところ、ちゃんと、言ってくれないとダメだからね」
ショーンは、丁寧に、オーランドの要求に応えた。
ショーンは、前回に比べると格段にリラックスして、オーランドを受け入れた。
前回、怪我を負うようなことにならなかったということが、オーランドに対する信用度を高めていたのかもしれない。
ことあるごとに差し出すオーランドの愛情が、ショーンの気持ちを解していたのかもしれない。
大きく足を広げた状態で、背中を見せて、ショーンは、早い息を漏らしていた。
シーツを掴んではいたが、シーツに縋りついてはいなかった。
身体の真中を大きく開かれ、オーランドを飲み込んで、息苦しそうにしていたが、どこにも拒絶はありはしなかった。
それどころか、オーランドを受け入れようと、もっと身体を開こうとしていた。
オーランドは、窪んだ腰骨の辺りに指をかけて、ショーンのことを緩く揺すっていた。
ショーンのペニスは、オーランドが手を離しても、力を失うことはなかった。
前回に比べたら、格段の進歩だ。
「大丈夫?」
「…お前、それ以外しゃべれないのか?」
ペニスを入れるときから、大丈夫?痛くない?を繰り返すオーランドに、とうとうショーンは、文句を言った。
「もうすこし、バリエーションはないのか?もう、それは、飽きたぞ」
まだ、肩の辺りに緊張感を残しているくせに、ショーンは、振り返ってオーランドに顎を突き出した。
「だって、心配じゃん」
オーランドは、ショーンの背中にキスをした。
「お前こそ、いいのか?そんなに遠慮しなくていいぞ?」
ショーンは、くすりと笑った。
「そう簡単に、挑発しないで。ものすごく、ショーンのなか、気持ちいいんだよ」
オーランドは、加減を忘れないようにしながら、深めに突き入れてショーンの中を味わった。
ショーンの背中が反り返ったが、ショーンは、何度も息を吐き出して、衝撃をやり過ごした。
「ショーンこそ、本当に大丈夫なの?気持ち悪いって言ってたのは平気?」
「身体んなかに、でかいもの飲み込まされてるんだ。気持ち悪くて当然だろ。でも、生ぬるく遠慮されてる方がもっと、気持ちが悪い」
ショーンは、自分から腰を揺すった。
小さく動かされる腰は、中にいるオーランドに、とても気持ちのいい感覚を与えた。
オーランドは、慌ててショーンの腰を止めた。
「ちょっと!そんなにサービスしてくれなくていいから」
ショーンは、オーランドの手を振り切るように腰を動かした。
「いい声だして、煽ってやるなんてこと、できないからな。まぁ、せめてこのくらい。ほら、とっとといい思いしろよ」
ショーンは体を硬くしているくせに、自分からペニスが抜き差しされるように大きく腰を動かした。
「ショーン…もう、信じられない」
その光景は、オーランドにとって我慢のできるものではなかった。
大きく開かれたショーンの足の間に、自分のペニスが何度も飲み込まれていくのだ。
「後で文句言わないでよ」
オーランドは、抱え込んだショーンの腰を自分に引き寄せた。
ショーンの言う通り、遠慮せずに何度も腰を叩きつけてて、天国をみさせてもらった。
結局、ショーンは、文句を言った。
「凝り過ぎ。長過ぎ」
すこしでもショーンに気持ちよくなってもらおうと努力したオーランドの模索は、全てショーンのこの言葉で粉々になった。
オーランドは、ショーンの腰を揉んでいた。
挿入は、やっていい。というより、やれ!という命令だったような気がするのだが、ショーンは、酷い目にあったというように、オーランドに腰を揉ませていた。
勿論、ただでさえ、甘いことが好きなのに、事後になると、もう、奴隷状態のオーランドは、ショーンの言う通り、ショーンの言うがままにマッサージしていた。
「ねぇ、ショーン」
「んー?」
半ば眠りかけているショーンは、返事をするのも面倒臭そうに、顔を伏せたままだった。
「あのさぁ、アリスの本にさ、俺にも、サインしてくれないかなぁ」
「んー」
ショーンは、夢うつつの状態で返事をしていた。
金色の髪がリラックスした頬にかかっていた。
「ねぇ、ショーン、週末の約束さぁ、やっぱり、ちゃんと断ってよ?」
「んー」
眠りかけている相手に、しても空しい約束だとわかっていても、オーランドは口にしていた。
ショーンの返事は、やはり、いい加減だった。
「ショーン、俺のこと好きだよね」
「んー」
電話のベルが鳴った。
オーランドに身体を撫でられながら、殆ど眠ってしまっていたショーンがその音で目を開けた。
あくびをしながら、受話器を取った。
「あ?ヴィゴ?」
ショーンは、もう一度あくびをした。
ほとんど寝ぼけているような声だったが、特に、ヴィゴからの電話を奇異に思っているようではなかった。
「どうして?ああ、大丈夫。仲直りしたよ。ああ。別に殴ったりしなかったぜ?ああ。そう、うん」
オーランドは、思い切り顔を顰めて、話し込むショーンを見下ろした。
常識的な範疇で、電話をかけてきていい時間は、とっくに過ぎていた。
今は、もう真夜中で、友達が恋人に割り込むには遅すぎる時間だった。
悪戯のあと、仕事で顔を合わせているヴィゴと、ショーンは、仲直りだって済ませているはずだ。
ショーンは、オーランドに腰を揉ませたまま、腹ばいになって楽しそうにヴィゴと話していた。
「うん?ああ、そうだな。それも楽しいかもしれない。うん。いいな。そうだな。ああ、そうしよう」
ショーンは、嬉しそうに相槌を打っていた。
いつまで、話すつもりなのか、オーランドは、いぶかしみながらショーンの腰を揉んでいた。
「ん?そう、いや、電話じゃない。うん。家に来させておいたんだ。ああ。そう。今、いるよ」
いい加減長いことしゃべってから、ショーンは、ちらりとオーランドを振り返った。
「代わるのか?ああ。いいぞ。うん。」
ショーンは、オーランドに向かって、受話器を渡した。
もう一度あくびをして、オーランドの膝に頭を乗せると、オーランドに話せと促した。
オーランドは、しぶしぶ受話器を耳に当てた。
「よう。オーリ」
ヴィゴは、ハイテンションだった。なにか夢中になれることを見つけてしまって、今晩は徹夜をするつもりなのかもしれない。
「なんで、こんな夜中にご機嫌なのさ」
オーランドは、見えない相手を睨むように、眉を寄せて、空を睨んだ。
「お前は、不機嫌?」
「別に?」
ショーンは、オーランドの太腿に、唇を押し当てるキスをして、頭を持たせかけていた。
こんな状態で不機嫌だったら、いつ上機嫌になればいいのかわからない。
「ショーンに許してもらった?」
「おかげさまで。すっかり仲直りした。ヴィゴは許してもらったの?」
「勿論。俺とショーンの仲で、ずっと冷戦なんてありえない」
ヴィゴは、にやにやと笑っているに違いない。
肩に電話を挟んで、立っているヴィゴが目に浮かぶようだった。
「ところでさ、オーリ。今週末は、ショーンを俺に返せよ」
「なんでさ。俺と一緒に過ごしてくれる約束をしてくれたよ?」
「今、確認したら、先に約束したんだから、俺が優先だって言ってたぞ?」
オーランドは、思い切り眉を寄せた。
自分の膝に頭を乗せるショーンを見下ろした。
ショーンは、すやすやと眠っていた。
狸寝入りとは、見えなかった。
「本当?」
やはりショーンは、ちっともオーランドを理解しようとしていなかった。
「ああ、勿論。お前も招待してやろうか?オーリ」
からかうようなヴィゴの声を聞きながら、オーランドは、天使のような顔をして眠っている中年をたたき起こすべきかどうか、悩んだ。
END
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最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
こんなに長い話を書いたのは初めてで、自分でも力不足は自覚しています。
ここまでお付き合いくださったあなたが、天使に見えます。
自分自身、読み返すのが、苦しくなるような出来栄えです。
でも、とにかく一生懸命書きました。
本当に、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
あの…花ちゃんがちょっと、かわいそうすぎ。っていう意見がありまして…それで、ちょっとだけ、幸せな話をおまけにかいてみました。
本当に、短い話です。
もし、気力が残っていらっしゃいましたら、どうか読んでください。