6昼寝のつもりが、目が覚めたら夜だったという話題の時の小話。

 

配役等の説明

白雪姫の童話です。
いろいろ無理がありますが、あまりお気になさらずに・・・(苦笑)

森の中に響く泣き声に、アラゴルンは、馬を止めました。
辺りを見回すと、木陰に、小さな種族であるホビットが集まっています。
彼らは、一様に、顔を顰めて、涙を流していではありませんか。
「どうしたのだ?」
アラゴルンは、小さなホビットに声をかけました。
巻き毛も愛らしいホビットは、しゃくりあげ、なかなか口の利けない様子です。
「落ち着きなさい。私にできることなら、手助けしよう」
優しくアラゴルンは声をかけました。
青い目をしたホビットが、アラゴルンを見上げました。
小さな唇が震えています。
「私達の、姫が・・・姫が・・・」
ホビットの指差す方向には、ガラスの棺が置かれていました。
中には、金の髪をした人が横たわっているのが見えました。
「お亡くなりになったのか?」
「いえ、悪い魔女に、魔法のりんごを食べさせられ、永遠の眠りに付かされたのです。真実姫を愛してくださる王子のキスで目が覚めると・・・」
アラゴルンは、ガラスの棺へと近づきました。
中で眠るのは、白い甲冑に身を包んだ美しい金髪の男です。
「姫?おい、これが、姫か?」
アラゴルンは、近づいた棺の中で眠っている人を見て驚きました。
「はい。美しい方でしょう?」
「・・・美しいということは、認めてもいいが、髭も生えているし・・・なぁ、おい、私は、この顔に見覚えがあるんだが・・」
棺の中で眠るのは、ボロミアでした。
アラゴルンは、自分がどこにいて、何をやっているのか、ずいぶんと嫌な気持ちになりました。
アラゴルンの側へと近づいていたホビットが、アラゴルンを睨みました。
「そういうことを言うなら、あんたは、俺たちにだって見覚えがあるはずだろう?」
「そうだよ。俺は、あんたの名前だって、言えるぞ。ストライダー」
アラゴルンは、顔を顰めました。
悪い夢でも見ているようです。
どこかで聞いたことがあるような話にあわせ、またもや、強引に涙を流し始めたホビットたちは、口々に、文句を言います。
「せっかく、王子役を割り振ってやったってのに」
「ほんと、どこにこんな薄汚い王子がいると思ってるのさ」
「せめて、ちゃんと物語通りに話を進めてよ!」
ホビットたちに急き立てられ、アラゴルンは、すやすやと眠っているボロミアの側へと膝を付きました。
眠っているボロミアの滑らかな頬はばら色で、ピンクの唇から、小さく寝息を立てています。
アラゴルンは、柔らかな頬を撫でました。
「・・・いろいろ、問題はあるようだが、とにかく、キスすれば、いいんだな」
アラゴルンは、ボロミアの薄く開けられた口へとそっと唇を寄せました。
金色のまつげが、小さく動きました。
緑の目が、アラゴルンを見ます。
「おはよう。ボロミア」
アラゴルンは、甘くささやきかけました。
緑の目が、いきなり機嫌悪く顰められました。
眠り呪縛から解けたはずの人は、アラゴルンの胸倉を掴み、殴りかかりました。
「人が、寝ているのに、邪魔するな!」
アラゴルンは、殴り飛ばされ、尻餅をつきました。
ホビットたちは、涙を流して喜んでいます。

 

「なんだ。アラゴルンもやられたんだ。それ、ボロミアによく似てるけど、ショーンっていう人らしいよ」
金の髪を揺らしたエルフが現れました。
殴られた頬に、目を大きく開け、驚きを隠せないアラゴルンに苦笑しています。
「俺も、ホビットにひっかけられて思いっきり殴られた。冷やそうと思って、ちょっと沢に行ってる隙に、あんたもやられたって、わけだ」
アラゴルンが見上げたエルフは、優美な顔の片側だけを派手に腫らしていました。
「わけがわからないでしょう?でも、気が済むまで、寝かしといてあげてからじゃないと、事情は聞けないと思うな。ずいぶん、ボロミアとは、性格が違うみたいだし」
ボロミアとそっくりの顔をした、美しい男は、また、棺の中で、眠っていました。
いたずらの成功に涙まで流して喜んでいるホビットたちのなか、堂々とした態度です。
アラゴルンは、呆然と口を開きました。
「・・・ホビットは、お前を引っ掛けた嬉しさで、泣いていたというわけか」
エルフは、少し顔を顰めました。
「まぁ、あんたより、俺の方が、ずっと王子としての気品を兼ね備えているからね。まず、俺から、いたずらを仕掛けるってのは、正しい選択だったと思うけどね」
エルフは驚きのあまり、尻餅をついた状態から立ち上がれずにいるアラゴルンに、にやりと笑いました。
「それに、あんたもひっかかったんだから、俺ばっかりがまぬけってわけじゃない」
左の頬を腫らした男が二人、ガラスの棺で眠る美しい人を見ました。
ショーン姫は、出来るならば、永遠にでも眠っていたいとでも言いたげに、気持ちよさそうに、昼寝を続けていました。

おわり〜。

 

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