DREAMLINE
「我々は追われて心休まる」と言う対訳も、正解だと思います。At homeと言うのは、
家にいるように穏やかな気分になるということで、それが逃げている時、つまり何かに追われている時だけ、
と言うのは矛盾を含む言葉ですが、鋭い真実だと思います。
もう一つ、「限られた時間の間だけしか、不死でいられない」(直訳)というのも、
一つのフレーズの中に矛盾した対の言葉を含む、しかし鋭い真実だと思います。
私たちは生きている時、死ぬことなんて普通意識しません。人生は永遠に続くような感覚だったりします。
でも、実際は不死ではない。彼らの場合、この『不死の感覚』と言うのは
我々よりもっと突き抜けているかもしれませんが、(感情の高揚が強いほど、
不死感覚というのは強まるのではないかと思うので。個人的意見ですが) 基本的には同じ、
私たちはみな、時間制限付きの存在でしかないのです。
その私たちの人生を動かす原動力が、それぞれの持つ夢、なのかもしれません。
BRAVADO
冒頭の一句は、ギリシャ神話のイカロス──父とともに、鳥の羽を集めた翼を背中につけて飛び、迷宮から脱出したけれど、空を飛ぶ
楽しさに夢中になって太陽に近づきすぎ、羽根をくっつけたニカワが溶けて墜落したという、あの話からとったものだそうです。
“But will not count the cost”の訳ですが、たしかに対訳の通り「先の見通しはつけない」と言う成句なのですが、同時に
「悪いことを、すべてあらかじめ想定しておく」と言う意味でもあるそうです。それで、「犠牲は払うけれど、最初からそのつもり
でいたくはない」と言う意味にもとれるのですが、同時に、代償は払うけれど、その自分の払った犠牲に対してこだわりたくはない、
と言う意味にもとれます。
タイトルの“bravado”は、『空威張り、強がり』と言う意味です。
ROLL THE BONES
この曲に関しては、Neil自身がライナーで解説しています。タイトルは『転がる骨はさび付かない』──
つまり良く働くということで、さらにBONESにサイコロの意味も持たせて(動物の骨でできていることが多いから。
ジャケットのサイコロも、その意味でしょう、たぶん)、運命とはサイコロを転がすゲームのようなもの、偶発的なものだ、
でも良く働けば、勝つ確率をアップできる、と言う意味らしいです。
運命は神様や守護天使の導きで決まるのか、それともサイコロを振るようにすべては偶然の所業なのか、
運命の神というものが本当にあったとしても、神は意図して個々人の運命を決めているのか、
それともルーレットを回すようにランダムにやっているのか、信じる人によっていろいろな説がありますが、
少なくともこの時点でのNeilは、後者のようです。
FACE UP
FACE UPは、カードを表向けるという意味と、顔を上げるという意味の、両方の掛け言葉だと思います。
『ワイルドカード』──Neilも書いていたように、これがキーワードですね。
これはUNOで使うものだと思いますが、ワイルドカードというのは、場に出ている色でなく、
自分の好きな色を指定できるカードです。それによって、ゲームの展開が変わり、自分の有利に進めることも可能になるわけです。
「人生にワイルドカードが配られることがある」と言うのは、自分自身で決断をすべき時期ということでしょう。
THE BIG WHEEL
Big Wheelには、「大立者」「大物」と言う意味があり、この場合、「大物が世界を回す」と言う感じと、
「運命の輪」──タロットカードにある、ゆがんだ時計のような、あのイメージ――が回転する、という
かけ言葉になっているのだと思います。で、Big wheelになりたいんだけれど、運命の輪は気まぐれなので、なかなか思うように任せない
、それが世の中だ、というような感じかと。
HERESY
東西の冷戦終結をNeilの視点で描いた詞です。 多くの人は冷戦が解けたこと、
東側の人々が自由になったことを喜びましたが、Neilは怒ったわけですね。
『間違いだったとしたら、その間違いは誰が償ってくれるのか』と。ピュアな人です。
でも生意気なことを言えば、歴史とは間違いの連続であり、何の償いもされないことのほうが、珍しくないわけです。でも、
それだからといって、それがあたりまえと切り捨てていいわけではなく、彼のように怒る人がいなければ、歴史は果てしなく
同じことの繰り返しになり、教訓は学ばれず、進歩もしないわけでしょう。
そう言う点では、決して『異端』(heresyの意味)ではないと、個人的には思います。
GHOST OF A CHANCE
これ、ラヴソングですね。でも当然“I love you baby!”ではないわけで(ファーストはともかく、今のRUSHにそれはないだろう)、
とっても理知的で現実的なラヴソングという気がします。
でも、ここにも運命を信じない人がいるんですね。運命は信じないけれど、チャンスの影は信じる、と。
GHOSTというのは直訳すると幽霊ですが、この場合は目に見えない『機会』というものの影(本体が目に見えない分、逆に影が見える)、
直感の揺らめき、と言うような感じだろうと思います。
NEUROTICA
タイトル通り、いかにも神経症的な歌詞だな、と第一印象で思いました。
できるだけ日本語に変換しようとしたので、よけい変な詞になってしまったかもしれません。
深読みすれば、現実とか運命に翻弄されてしまうと、本当に神経ぐちゃぐちゃになってしまうけれど、
結局運命は偶発的なもので、現実は自分がそれをどう受け止めるかの産物なのだから、しっかりしなきゃダメ、
と言うふうに、受け止められます。
これ、本人たちもあまり気に入っていない(というか、アレンジをいじりすぎて、わけわからなくなったらしい)
そうですが、私はけっこう好きです。まったく、余談ですけれど。
YOU BET YOUR LIFE
そして、人生と運命に対するNeilの哲学は、ここに終結するのですね。
運命とは偶発的なゲームなら、人生は大いなる賭けなのだ、と。なんになるか、それがベットで、
それに対して勝つか負けるか、掛け率はイーヴン、と。
ただ、どんなものになっても本当にイーヴンかというと、実際は自分の向き不向きとか、
回りの状況とかによって、掛率は変動するのではないかと思うのですが。(個人的意見) それに、タイトルトラックで言っているように、
それに向かって一生懸命努力することも、確率を良くする条件の一つではないかと思います。
賭けというのは競馬などのように、率が良くなればなるほど、実際勝てる確率も上がるわけですが、時には大穴が勝って万馬券が
出たりするように、人生の賭けにも『絶対』はないのでしょう。
(もっとも、私は競馬をやったことはありません。ダ〇スタは、やっていますが)
アルバムについて
前作『PRESTO』と同じく、ルパート・ハインが共同プロデュースしています。路線としては前作の延長線上ながら、よりダイナミズムが
増した印象です。本人たちは、もうちょっとハードなサウンドにしたかったらしく、このアルバムの仕上がりは、少々おとなしすぎると
思ったようです。でもこれはこれで、独特の雰囲気があります。
まったく個人的な話で恐縮ですが、このアルバム、最初の頃は印象がやや薄かったのです。というのも、ちょうど本作が出た頃、私は
最初の子供が生まれたばかりで、小さい音量で聞き流すしか出来なかったという初期環境が、たたっていたのかもしれません。でも、後に
じっくり聞き返すことが出来るようになってみると、やっぱり良いアルバムだなぁ、と再確認しました。
ちなみにこのアルバムが、今のところRush最後のプラチナアルバムです。(不況のせいなのか。がんばれ!)
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