Ghost Rider (Part 4)


ここからは、さらに駆け足で行きます。




Chapter 4 : West To Alaska

 今回はコケることなく、無事アラスカに到着。ここはアメリカ50州のうち、Neilが今まで行ったことのない 唯一の州でした。
 その日はTokに一泊。しかしそこはアメリカ人団体客でごった返し、その騒々しさにNeilは不快感を 覚えます。

 翌日はフェアバンクスへ。そこのディーラーにバイクを預け、整備を頼んで一泊します。アラスカに BMWディーラーはそこだけで、数日前に電話した時には、「シーズンが終わってからでないと、 整備できない」と言われますが、「そのバイクに何年乗っていて、何マイル走った?」と聞かれ、 「3年で40000マイル」と答えたところ、「おお、それでは、あんたは本物のライダーだ」と 認められ、整備を引きうけてもらった経緯があります。

 次の日はフェアバンクスから、マッキンリー山(今はデナリというらしい)を視界に臨みながら、 アンカレッジへ。アンカレッジはアラスカ一の都会で、ちょうど着いたのは土曜日の夜。ホテルのスタッフに、
「バイクにテントや寝袋を積みっぱなしにしないように」と注意されます。
「そんなものを盗んで行く人がいるのか?」と聞いたところ、
「土曜の夜は、なんでも起こり得る」
 その夜は、外で多くの酔っ払いが、遅くまで騒いでいたそうです。

 翌日はアンカレッジからトゥックへ、次の日はトゥックからヘインズへ。ヘインズでプリンス・ルパートまでフェリーに乗るわけですが、 このフェリーの予約は旅に出る前にされていたもの、なので、この日だけは決められていた、予定どおり 来たわけです。
 フェリーの出発待ちをしている間、食堂で他の観光客と話したり、5頭のグリズリーが川で鮭をとって食べている のを目撃したりし、フェリーの中では景色を眺めたり、ジャック・ロンドンの小説を読んで過ごし、翌朝プリンス・ルパートに到着します。

 ところで、フェリーの中でNeilは子犬を連れた女性に道を譲った際、彼女に笑いかけられ、 どぎまぎしたといいます。
「今まで、さほど女性に対して自分が魅力的だなどと思ったことはなかったが、 なんだか今回は、やけに女性たちに笑いかけられる――」
 これは自分がまとっている「悲劇のムード」が 彼女たちの同情心をあおるのではないか、と結論付けたりしています。

 プリンス・ルパートはブリティッシュ・コロンビア州。再びカナダに戻ったNeilの、当面の目的地は バンクーバー。そこに住む弟ダニー一家に会い、しばし滞在するためでした。
 DannyはNeilの3才下の弟で、奥さんのJannet、2歳の息子Max、飼い犬のTaraと暮らしています。
「家族というより友達で、友達よりも家族」と言う関係である弟とその家族は、Neilにとって非常に 安らげる場所。さらに今回は、Jackieの形見である真珠のネックレスとブレスレット(Neilがかつて贈ったもの)をJannetに渡す、 という用もありました。

 まずはPrince RupertからQuesnelへ。そこで一泊するのですが、良いホテルは二部屋しか開いていなくて、 寝室が2つあるスイートルームとハネムーン・スイート。そこでやむなく、安いホテルへ。 「安ければ安いなりに」ですが、ともかくシャワーと天気予報があれば良い、とそこに落ち着きます。

 そして翌日は、QuesnelからVancouverへ。Vancouverが近づいてくるに連れ、ある種の高揚を感じながら 道を進んで行きます。




 

Chapter 5 : First Class Saddletramp

「僕が引用している(自分自身の)記録の中には、不機嫌だったり、厭世的にすら感じられるものも、 あるかもしれないが、それはある種のねたみの感情から来ているものと、理解してもらいたい。それはしばしば、 苦い後味として残るものだから。壊滅的な損失をこうむった後、僕は運命の不公平さを受け入れることが、 なかなかできなかった。なぜ他の人たちは、僕に訪れたような悪意から無傷でいられるのだ、と。
 この「なぜ」と言う疑問は絶え間ない苦痛となって僕を苦しめ、僕の頭脳はその意味を求めて 激しく苦闘した。(これは罰なのか? 裁きなのか? 呪いなのか?) そして他の人が子供たちと いるところや、恋人や伴侶と一緒にいるところ、さらには人生を楽しんでいるように見える、それだけで 僕の心はある種の敵意に突き動かされる。それはたぶん、羨望と非難、そして残酷な不公平感というような ものなのだろう」

 しかし、Neilはこの敵意や羨望は、自分のことを気遣ってくれる親しい人々には当てはまらない、と言っています。 弟Dannyの一家は、その筆頭なのでしょう。

 VancouverのDannyの家に滞在中、Neilは何をして欲しいかと聞かれ、
「(余計なことを考える暇がないくらい)忙しくさせて欲しい」と答えます。 DannyさんもJannetさんもお仕事を持っている身ですが、全面協力してくれ、ハイキングや散歩に行ったり して時を過ごします。空いた時間は、幼い甥Maxと犬のTaraの相手をすることで、気が紛れたのでしょう。

 NeilはDannyの家に6日間滞在し、忙しく楽しく過ごした後、再び出発します。Vancouver市内は混んでいて、 出るのに時間がかかり、Victoria島を経由して、その日はVancouver島の北端の町で、一泊します。 しかしそのホテルは安いだけに、「家具はホリディ・インでお払い箱になったような」代物で、 部屋中妙な匂いがし、ベッドのスプリングはキィキィきしむという有様、食堂にもろくな食べ物はなく、 焼きすぎたステーキを食べる羽目になります。
 とても落ちこんだ気分を感じますが、それはそのホテルのせいだけでなく、"post-visitor syndorome" なのだと、気づきます。

「僕はその夜、とても落ちこんでいたが、それは長い1日の走行の果てに与えられた、がっかりするような褒賞 (訳注:ホテルの施設など)のせいばかりでもなかった。これは、『ポスト・ビジター・シンドローム』だ。 それを最初に体験したのは、ロンドンでだった。あそこに滞在していた6ヶ月の間、ジャッキーと僕のもとには、友人や家族といった、親切な訪問者たちが引きも切らずに訪れ、数日間滞在していった。彼らが 僕らと共にいてくれる時には、僕らは楽しく、また、気も紛れ、気分が高揚して、まだ状態も良くなるかもしれない、という 気にもなる。そのあと訪問者たちは、あまりにも早く、家族が待つ家に帰ってしまい、僕らは二人きりで取り残される。 二つの悲しむ魂は、お互いに愛するものを失った嘆きや流浪の身の上を超越することができず、 誰か他者の気分を高めてやることなど、決してできはしなかった。
 今回、僕はダニーとジャネット、マックスとタラの温かい家庭を後にしてきた。彼らはこれからもそこで忙しくも充実した人生を 営みつづけ、僕はそこを去って・・そう、再びハイウェイに戻ってきたのだ。

 翌朝、僕は南に向かう道をたどっていた。日の出と共に霧は収まり、ピンクと紫の縞模様の雲の下から、 涼しげに太陽が昇っていく。ずっと南に行くに連れ、再び交通量は多くなっていった。その日の終わりまで、 僕は他の車をやり過ごし、間を潜り抜け、追い抜くことに忙殺されていたような気がする。
 一度、年配の夫婦の側を、スピードを上げて追い抜いた後、二人の会話を想像して微笑を浮かべた。 男は僕に腹を立て、女性の方は、そんな不平屋のおじいちゃんになりなさんな、と言うだろう、と。 その後、突然ある考えが浮かんだ。『僕自身はもう、気難しいお祖父ちゃんには、決してなれない』 ――そう思ったら、涙が込み上げてきた」


   その日はTofinoに滞在しますが、そこのホテルは前夜とは違い、立地も良く(海のそば)、サービスも行き届き、 部屋は豪華で心地よく、レストランは秀逸。そこで、NeilはGayという女性が自分のことを気にしていた、 とDannyに言われたことを思い出します。GayはDannyとの共通の友人で、自転車旅行をしていた頃の ツーリスト仲間でした。
 NeilはGayに手紙を書きます。それは9月16日Tofinoから、Hopeに一泊して、18日にNelsonに 着くまでの旅行報告も兼ねていて、自分がなぜこの旅に出たのかも、簡単に触れられています。 そして17日のHopeでの手紙文の中で、シャトー・レイク・ルイーズに予約を入れようとした、 ずっとそこに泊まりたかったから、でも運悪く予約が取れなかったので、バンフ・スプリングスに予約を入れた。 と書いています。

 そして、悪路を東に向かい、観光客のぴかぴかのバイクや車に混じって、泥のはねたバイクを引っさげ、 フェリーに乗って、バンフまで行きますが、今やバンフはすっかり観光の町と化していて、バンフ・スプリングス ・ホテルはツアー客でごった返しています。ホテルの食堂で、Neilはホテルを占拠した日本人観光客の 一団と、彼らにあわせて演奏される生音楽に(スキヤキ――『上をむいて歩こう』ですね――や、日本の歌謡曲に) 思わず笑ってしまったと言います。

 Neilはバンフ・スプリングスに2泊する予定でしたが、すっかり気がそがれ、一泊で切り上げて、 その近くの町に住む画家、Dan Hudson(Neilの家に飾ってあるお気に入りの絵を書いた画家で、RushのRetrospective のジャケットカヴァーを依頼した人だそうです)に電話をしたところ、家に招待されたので、彼とガールフレンドLaurie が住む家に一泊します。
 そして二人と共に、バンフ国立公園のなかをハイキングし、芸術や人生談義を交わし Danが作る料理を食べて楽しく過ごした後、翌日は彼が勧めてくれたPrince Of Wales ホテルに泊まり、 同じく彼が教えてくれたカナディアン・ロッキーの穴場をいくつかハイキングしてみようとします。 DanとLaurieといったハイキングで、ツーリングと同じくらい、ハイキングも気晴らしになるとわかったからでした。

 翌日の午前中は、湖の観光船に乗り、パーク・レンジャーの説明を聞きながら、遊覧します。ボートの中から 岸に熊がいるのを見つけ、レンジャーはこのあたりには熊がたくさんいる、と言います。
 熊をよけるには どうすればいいか、午後にハイキングを予定していたNeilはとりわけ注意して聞いていると、 まず第1に、えさをやらないこと、第2に、できるだけ離れていること、驚かさないこと、そしてできる限り一人でハイキングしないこと、 (こちらの存在を知らせるために)音を立てていくこと――
 そこで、Neilは考えます。一人で行かない というのは無理だ。となると、歌を歌って行こう。自分の歌を聞いた時の人の反応から考えると、 熊も怯がるにちがいない、と。

   そこでシナトラなどのスタンダードを大声で歌いながらハイキングをするのですが、それが功を奏してか(?) 熊には会わずにすみました。かわりに、30くらいの女性とその母親に声をかけられ、再びどぎまぎさせられます。 そして、これもまた自分のまとっているらしい『悲劇の空気』のせいかな、と思うのです。

 無事にハイキングを終えてホテルに帰り、自分の持ち物を整理している時、あまりの散らかりぶりに 不意に腹を立てて、物に向かって叫びます。「散らかるのは、やめろ――みんな、家に連れて帰ってやる!」 そうして、自分の行動にはっと気づき、今度は大声で笑ってしまいます。僕は感情のコントロールを失っている、と。 (losing it――家を失った、という掛詞だと思います)

 その夜は、食事の後、部屋で飲むのは止め、バーに降りて行きます。そこで比較的穏やかに楽しく、他のお客やマスターと話しをしつつ飲み、 部屋に帰って寝るのですが、夜中の3時に、不思議な物音で目覚めます。
 それはかもめの鳴き声のようで、 窓のすぐ外から、繰り返し聞こえてきます。Neilは驚き、無気味に思いながら、灯りをつけると、 窓のすぐ外にフクロウがとまって、鳴いていたのでした。
「それは僕に、驚きと原初的な恐れを感じさせた」
 やがてフクロウは飛び去ります。Neilは「I heard the Owl Call My Name」という小説では、 そこではフクロウの呼び声は、それを聞いたものの死が迫っている前兆を意味する、ということを 思いだし、ぞっとしったあと、気を取り直してつぶやきます。
「おかしなことも、あるものだ――」





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