あくまでも私的解説
ANTHEM
初期RUSHの代表曲の一つであり、Neilが現在まで(といっても、T4Eの頃までしか知りませんが)一貫して主張し続けている考え──
自分を信じること、人に惑わされず、自分の可能性を信じて進むこと──それをテーマにした、最初の曲だと思います。Anthemは聖歌で、
National Anthemは国歌ですね。AnthemはRUSHのレーベル名でもあり、「2112」に影響を与えたとされる、Ayn Randの小説タイトルでもあります。
いろんな意味で、含蓄のある言葉ですね。
「僕は個人の可能性を信じているし、独立した人間の素晴らしさを信じている」──そんな意味のことをNeilがインタビューで言って
いた記憶があります。(昔のことなので、出典は不明)彼はまた、個人主義の信奉者であるとも言われています。日本はどちらかというと、
まわりにあわせることを美徳とする国なので、(最近は少し変わってきたのではないかな、とも思っていますが)個人主義と言うと、自分勝手
とか一匹狼だと誤解を受ける嫌いもあるのではないかと思いますし、まわりのいうことに振りまわされずに自分の道をいくというのも、
一つ間違うと、周囲にお構いなしに悪の道をひた走り、ということになってしまうので、もう一つ絶対重要な条件がつきます。
「人には迷惑をかけないこと。害をなさないこと」──もう少し踏みこんで言うと、「相手の自由をも認める」ということになります。
もちろん、そのあたりもNeilの主張は含んでいます。
Neilは人間の性善説を信じているような、そんな印象を受けます。善なる心を信じなければ、自己信頼はできないし、自由主義も
危なっかしい。自由主義も個人主義も、基本的には性善説の上に成り立っているべきものでしょうから。そう言うところが、
「RUSHは楽観主義的なバンド」といわれる所以でしょうか。でもそれゆえに、前向きな力を感じられるのだと思います。
BEST I CAN
これはどちらかといえば歌詞面でも、ファーストの延長線上にある、オーソドックスなロックだと思います。スターダムを目指して
ベストを尽くす、と言う、わかりやすい内容ですし。この曲のクレジットはGeddy単独になっていましたので、彼の詩でしょうね。
Neilが本格的に作詞活動に入る前に、書かれたものかもしれません。
BENEATH BETWEEN BEHIND
この曲は、後の「A Farewell To Kings」に通じる主題があります。原案というべき形かもしれません。社会の、権力のひずみ、
亀裂──絶頂の中にさえ現われるそのひび割れは、のちに暗黒の時代を、または混沌を招くのかも知れません。それは昔のエピックという
だけだなく、今の社会にも通じる、普遍的なテーマではないかと思います。
BY-TOR AND THE SNOWDOG
RUSH初の組曲です。これに限らず、RUSHの組曲は「Natural Science」以外、みんなファンタジー系ですね。起承転結が表しやすい分、
作りやすいのでしょうか。
ちなみに、この曲の邦題は「岩山の貂(てん)」ですが、なぜ?と首を傾げるばかりです。snow dogが貂なのでしょうか。
ermineはエゾイタチだから、そこからの連想でしょうか。でも、BY-TORはどこへ行ってしまったの?
サードアルバムにもいくつかありましたが、あまりにピントはずれな邦題は採用したくない、と言う私個人の独断と偏見により、
この邦題は採用しませんでした。だって、意味わからなくなるもの。
今は安易に英語をカタカナに置き換えたものが圧倒的ですから、もし最近のリリースだったら、シンプルに「バイトー アンド スノードッグ」
になりそう。私だったら、うーん、「神々の戦い」があるのだから、「黄泉の戦い」とか。うわぁ、それもクサイ! Burrn!の企画で、
「邦題をつけてみよう」と言うのがあったけれど、実際つけるとなると、けっこう難しいものがありますね。
この曲のインスピレーションについて、RUSH FAQに詳しく書かれています。それをかいつまんで説明しますと、RUSHの照明監督である
HOWARD UNGERLADER(この人、84年の来日公演で見た時には、ものすごく堂々とした体格の持ち主でしたけれど、FBNのジャケット写真
では別人のようにスマートです)が、とあるパーティに出かけた時に会った二匹の犬なのだそうです。一匹は誰彼ともなくかみつく
ジャーマンシェパード(?)で、HOWARDはその犬にBY-TORというあだ名を付け、(BYTE──かみつくのもじり) もう一匹は雪のように真っ白
だったので、SNOWDOG(まさに雪犬!)と呼んだそうです。その犬たちの追いかけっこが、地獄の王子と番犬(?)の戦いに、発展したので
しょう。
“Sign of Eth”についても、RUSH FAQに詳しく説明されています。"Eth"そのものは、thisとかthatとかの"th"の発音──日本語には
ない発音なので、苦手な人も多いです──を表す古語で、そこから連想される言葉が、さらに「悪魔」を連想させるという、二重の連想
ゲームのようなものだそうです。
この曲のヴォーカルはナレーター的に状況説明と結果だけという感じで、実際のバトルはインストでやっています。感じ、出ています
ね。
FLY BY NIGHT
NeilがRUSHに加入して最初に書いた詩が、これなのだそうです。Neilが加入して二週間後に、RUSHの初全米ツアーがあったわけですが、
(当然、前座&クラブまわりだったそうです)その移動のために空港で待っている時間を、さらには彼自身が18歳の時、野望を抱いて
イギリスに渡った、その時の空港での思いを、詩にしたということです。
MAKING MEMORIES
これはAlexの作詞だそうです。(でもクレジットはLee−Lifeson−Peartになっていた)なんだかZepのアコースティック・ナンバーを思い
起こさせます。RUSHの初全米ツアーは、飛行機の移動もあったことはあったけれど非常に稀で、ほとんど車に乗って、街から町へと移動を
繰り返したのだそうです。その長い移動時間に、Alexが車のシートでアコースティック・ギターを抱え、作ったのがこの曲だとのこと。
たしかに、ロード中です、と言う感じがでている気がします。
曲中にある「海から海へ」もしくは「海岸線から海岸線まで」と言うのは、アメリカの西海岸と東海岸のことで、全米を駆け巡った
ロード生活そのままですね。
RIVENDELL
「Necromancer」と同じく、J.R.R.Tolkienの「指輪物語」が、この曲のもとになっています。物語中に出てくる妖精の谷、
Rivendellは、「裂け谷」と訳されています。山の奥深く、妖精たちの住まう安息の地「Rivendell」は、
ナズグルに追われたフロドたち一行が命からがら逃げこんだ場所であり、ビルボが余生を過ごす地と決めたこの
場所は、美しく、心安らぐ平穏な場所なのですが、このあたり、原作か映画で、「指輪物語」を知ると、
感じが出ると思います。
なお、「裂け谷」の解説は、倶楽部YYZのディスコグラフィーに詳しいです。
IN THE END
この曲も、歌詞はNeilではないですね。シンプルなラヴソングで、ファーストの延長線上にあるような感じです。ファーストより、
洗練はされていますが。
特に解説すべきことはないのですが、強いてあげるなら、この曲のライヴでは、
間のカウントが「one two three four」か、「one two buckle my shoe」かという違いがあります。後者は、
RUSH FAQによると、マザーグースからの引用だそうです。どちらにしても、スタジオ盤にはカウントは入っていませんが。
アルバムについて
ドラマーがNeil Peartに交代して、現在の不動のメンバーになっての初アルバムで、事実上これがデビュー作という見方をする人も
大勢います。たしかにファーストとはだいぶ作風が変わり、哲学的な歌詞とか、変拍子の使われ方、組曲の登場など、Rushの基盤とでも
言うべきものがこのアルバムで確立されたと言ってもいいと思います。
全体的に音は古いし(25年前だから仕方がない)、なんといってもメンバー全員21,2才という若さですから、勢いもあるけれど
未熟なところもあるのはたしかですが、勢いだけではなく、思想や理念といったものが加わって、今に通じるRUSHというバンドの個性の
確立を感じることが出来ます。
ただ、やはり時間不足のせいなのか、完全なRUSHのカラーに統一されてはまだいなくて、ファーストの延長線上のものと、新路線とが
交じり合い、アルバム全体の統制という点では、いまいち半端なのが惜しい! 聞いた上での違和感は、あまり感じませんけれど。
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