FLY BY NIGHT

Released 02/1975


ANTHEM
BEST I CAN
BENEATH BETWEEN BEHIND
BY-TOR AND THE SNOWDOG

FLY BY NIGHT
MAKING MEMORIES
RIVENDELL
IN THE END




アンセム

君の人生においているべき場所とは
君がそこにいたいと思うところだと知るべきだ
全部僕のおかげだなんて
そんなことを言わせてはいけない
前(だけ)を見つづけるんだ
まわりを見たって、何の役にも立たない
頭を高くそびやかせていれば
誰も君を貶めたりはしないだろう

心の聖歌と精神の賛歌
盲いてしまった人への葬送の挽歌
自らが築き上げた世界で新たな驚異を捜し求めた
そんな人たちには、ただ感嘆するばかりだ

自分のために生きるんだ──他の誰のためでもなく
それより価値のある生き方なんて、ありはしない
懇願の手を伸べても、心が血を流しても
結局はより多く(の痛み)を求めて、泣き叫ぶだけだろう

そうだね、みんな君にこう言ってきたんだ。
利己主義はよくないと
それでも、それは僕にとってであって、君にとってじゃない
だから僕は、この歌を書こうと思ったんだ




ベスト・アイ・キャン

今までつらい人生を生きてきた、未来だって同じくらいタフさ
僕が言っていること、わかるだろう?
ぼんやりしている奴、傲慢な奴、空威張りやにカッコつけや
ついて行けないよ

僕は決して一流にはなれないって、そう言ってもかまわないよ
見まわしてごらん、誰が最後に笑うのか、わかるから
僕に向かって演説しないでくれ、だって、おかしすぎるよ
僕を放っておいて、ロックさせてくれ

ロックしたくてたまらない、くだらない話は大嫌いさ
そんなふうだから、僕はこっけいだと思うよ
星(スター)を見つめ、それほど遠くでは手が届かないだろうと思う
だけど、なんとかやってみるつもりさ
ただ、楽しみたいだけなんだ、じらすのは嫌いさ
そんなふうに、僕はお気楽なんだ
長い休息は好きじゃない、
告白するけど、僕は気の短い猫なんだ

できる限りのことをするさ
僕はただ、あるがままの僕なんだ
できる限りのことをするよ
僕は自分がなにものか、知っているさ

ロックンロール!と大声で叫んで、夢の中で億万長者になる
そんなことなら、何度もやってきた
やってみるしかないさ、良き時代が僕を素通りしてしまわないように
それが、僕が得たすべてさ




ビニース・ビットウィーン・ビハインド

二百年前、王の宿敵は敗れ
驚くべき夢が実現した
人跡未踏の荒野は開拓され、あらゆる処女地は踏みこまれた
みなの輝く瞳は、しかし何も見ることはなかった

高貴な生まれの下に
誇り高き言葉の狭間に
美の背後に、亀裂が現われる
かつては頭を高くそびやかし
空に向かって高らかに歌ったというのに
なぜその影は恐怖に頭を垂れるのだろう

都市が繁栄していくさまを、よく見るのだ
また、新たな船がやってくる
地球は絶え間なく成長を続けている坩堝
素晴らしい夢が実現し
新しいものが発明されていく
大いなる聡明な精神よ、しかし決してわかろうとはしない‥‥

鍬は銃にとって変わられ、建物は風雪に色あせて
原理(主義)は裏切られてしまった
夢は廃れてしまった、しかしそれでも希望は広めよう
歴史の負債は、取り返せないから




バイトァとスノードッグ

揺らめく松明に照らされた、ハデスの冥府
ぎらつく光の中、地獄が立ち現われる
バイトァ王子がその洞窟に北極光を当てると
エズの記しが宙に立ち昇る
バイトァは闇の騎士
邪悪なものたちの百人隊長、そして悪魔の王子

三途の川を渡り、ランプの光も届かない闇の中
復讐の女神(ネメシス)が門のところで待ち構えている
スノードッグ、湿った夜の中で熱く輝くその毛並み
黒檀のように黒いその眼が、憎悪をこめて光る
バイトァとスノードッグ
互角の勝負だ、戦いの火蓋は切られた

戦いは終わり、立ちこめた埃も晴れていった
スノードックの弟子たちは弔鐘を打ち鳴らした
夜明けが近づき、喜びの声がこだましていく
戦いに敗れたバイトァは地獄へと退却し
スノードッグは勝ち誇った
上層世界の国々は、再び救われたのだった




夜間飛行

空港には、慌てた顔つきで、小走りに過ぎていく(人々)
通りすぎていく人たちの行進(パレード)
いろいろなところへ行く人々がいる
微笑んだり、ただため息をついたりしながら。
待っている間の時間を過ごすために
もう一本煙草を取り出す
列に並ぼう──39番ゲートに
でも今は、まだその時じゃない

なぜ、やってみようとする?
理由はわかっている
僕の心の中で、今が旅立ちの時だと感じているから
頭をすっきりさせよう、これから新しい人生が待っているんだ
僕はただの手駒になるんじゃなく、王様になりたいんだ

夜の中を飛んでいこう、ここから遠くへ
もう一度、人生を変えるために
夜の中を飛んでいこう、さようなら、愛しい人よ
僕の船はまだ来ないけど、自分の気持ちを偽るなんて、できないよ

月が昇る、考え深そうな目をして
傍らの窓から僕をじっと見返している
怖れは感じない、振りかえらない
胸に宿る空しさとも、もう縁切りだ

新たな一章が始まる
求めてきたものを見つけるんだ
それは毎日変わっていくけれど
季節の変化だって
何処かへ行きたいと思う気持ちの
充分な理由になりえるんだ

静かに、そして物悲しく
僕の思いは不安の色を帯びる
時間は漂い去っていく
故郷を離れ
ただ一人で、やっていくんだ
僕の人生は、今日始まる




メイキング・メモリーズ

できる限り、ご機嫌でいたい時だよ
それは今だ、なにも僕らを止められないよ
できる限り良い暮らしをしたい
僕らの後ろには、残してきた塵しか見えないだろうけれど

ただ微笑み続けながら、毎日前へと進み続ける
故郷のことは、考えないようにしようと努めながら
僕たちはあちこちに旅を続け、腰を落ちつける暇もない
そうして放浪癖を満足させているのさ

僕らは楽しい日々を過ごしてきたよ
これからも、ずっとそうだといいな
未来は過去よりも、なお明るく見えるから
心配することはないって感じてる
悲しく思う理由もない
思い出してみると、ロードの生活も悪くないかもしれない

海からまた輝く海まで
その間にある何百ものスポットを回り
それでも僕らは、すべてのショウをこつこつとこなし続けてきた
その国の街はみんな、歓迎の手を差し伸べてくれた
朝が来て、また次へと移動するまで




リヴェンデール

木の葉から漏れる陽の光が舞い踊り
柔らかい風が、ため息とともに木々をさざめかせる
温かい草むらに横たわり
顔の上に注ぐ太陽の光を感じなさい

小妖精たちは歌い、夜に終わりはない
甘いワインと、くつろぎを与える柔らかい光のもと
ここでは、時間を決して気にすることはない
この魅惑的な魔法の国では

僕は今まで、長い道のりを旅してきた
はるか遠くに来てしまった時
友の微笑を見るのは楽しいものだ
ずっとその面影が、心の中から離れなかった友の

黄金色の光に染まった、近づきつつある夜明けの時から
太陽が去っていく黄昏時まで
すべての季節、すべての過ぎ行く日々が
僕らにとっての、大切な宝物

何かが呼んでいるような気がするだろう
戻りたくなるだろう
霧に包まれた山々が聳え立ち、温かい炎が燃える場所へと
ここは現実世界から逃れることのできる場所
ここには闇の王も追っては来ない
音高く流れる水のほとりの、
心の平安が得られる聖域

新しい日がやってくるのを感じる
闇が退き、光が新しく道を開く
しばらくここに立ち止まりなさい
世界が君を呼び出すまで

それでも僕は感じている
めまいを感じながら立ち続けている
この地こそ、僕が年老いて、最後の日を迎える場所だということを




イン・ジ・エンド

君がどういうつもりなのか、わかっているよ
僕をもっと長いこと引きつけておくだけだ
君が何を感じているのかも、わかっているよ
ただ君をもっと強くさせるだけだってね
君は少しのあいだだけなら、僕を引きつけておけるだろう
君は僕を引きつけ、最後には僕を微笑ませてくれる

わかっている、わかっているよ
ああ、この思いは強まるばかりだ
わかっているって
そうあるしかないんだ

君がやることを、僕もすることができる
君のほうが、もっと上手くできるだけさ
君が泣くように、僕だって泣ける
もっと悲しくなるだけだけれど

君が輝くように、僕も輝ける
それ以上明るくなんて、輝けないほどに
君が考えるように、僕も考えることができる
それで僕の重荷が軽くなるわけじゃないけれど




あくまでも私的解説


ANTHEM

 初期RUSHの代表曲の一つであり、Neilが現在まで(といっても、T4Eの頃までしか知りませんが)一貫して主張し続けている考え── 自分を信じること、人に惑わされず、自分の可能性を信じて進むこと──それをテーマにした、最初の曲だと思います。Anthemは聖歌で、 National Anthemは国歌ですね。AnthemはRUSHのレーベル名でもあり、「2112」に影響を与えたとされる、Ayn Randの小説タイトルでもあります。 いろんな意味で、含蓄のある言葉ですね。

 「僕は個人の可能性を信じているし、独立した人間の素晴らしさを信じている」──そんな意味のことをNeilがインタビューで言って いた記憶があります。(昔のことなので、出典は不明)彼はまた、個人主義の信奉者であるとも言われています。日本はどちらかというと、 まわりにあわせることを美徳とする国なので、(最近は少し変わってきたのではないかな、とも思っていますが)個人主義と言うと、自分勝手 とか一匹狼だと誤解を受ける嫌いもあるのではないかと思いますし、まわりのいうことに振りまわされずに自分の道をいくというのも、 一つ間違うと、周囲にお構いなしに悪の道をひた走り、ということになってしまうので、もう一つ絶対重要な条件がつきます。 「人には迷惑をかけないこと。害をなさないこと」──もう少し踏みこんで言うと、「相手の自由をも認める」ということになります。 もちろん、そのあたりもNeilの主張は含んでいます。
 Neilは人間の性善説を信じているような、そんな印象を受けます。善なる心を信じなければ、自己信頼はできないし、自由主義も 危なっかしい。自由主義も個人主義も、基本的には性善説の上に成り立っているべきものでしょうから。そう言うところが、 「RUSHは楽観主義的なバンド」といわれる所以でしょうか。でもそれゆえに、前向きな力を感じられるのだと思います。



BEST I CAN

 これはどちらかといえば歌詞面でも、ファーストの延長線上にある、オーソドックスなロックだと思います。スターダムを目指して ベストを尽くす、と言う、わかりやすい内容ですし。この曲のクレジットはGeddy単独になっていましたので、彼の詩でしょうね。 Neilが本格的に作詞活動に入る前に、書かれたものかもしれません。



BENEATH BETWEEN BEHIND

 この曲は、後の「A Farewell To Kings」に通じる主題があります。原案というべき形かもしれません。社会の、権力のひずみ、 亀裂──絶頂の中にさえ現われるそのひび割れは、のちに暗黒の時代を、または混沌を招くのかも知れません。それは昔のエピックという だけだなく、今の社会にも通じる、普遍的なテーマではないかと思います。



BY-TOR AND THE SNOWDOG

 RUSH初の組曲です。これに限らず、RUSHの組曲は「Natural Science」以外、みんなファンタジー系ですね。起承転結が表しやすい分、 作りやすいのでしょうか。
 ちなみに、この曲の邦題は「岩山の貂(てん)」ですが、なぜ?と首を傾げるばかりです。snow dogが貂なのでしょうか。 ermineはエゾイタチだから、そこからの連想でしょうか。でも、BY-TORはどこへ行ってしまったの?
 サードアルバムにもいくつかありましたが、あまりにピントはずれな邦題は採用したくない、と言う私個人の独断と偏見により、 この邦題は採用しませんでした。だって、意味わからなくなるもの。
 今は安易に英語をカタカナに置き換えたものが圧倒的ですから、もし最近のリリースだったら、シンプルに「バイトー アンド スノードッグ」 になりそう。私だったら、うーん、「神々の戦い」があるのだから、「黄泉の戦い」とか。うわぁ、それもクサイ! Burrn!の企画で、 「邦題をつけてみよう」と言うのがあったけれど、実際つけるとなると、けっこう難しいものがありますね。

 この曲のインスピレーションについて、RUSH FAQに詳しく書かれています。それをかいつまんで説明しますと、RUSHの照明監督である HOWARD UNGERLADER(この人、84年の来日公演で見た時には、ものすごく堂々とした体格の持ち主でしたけれど、FBNのジャケット写真 では別人のようにスマートです)が、とあるパーティに出かけた時に会った二匹の犬なのだそうです。一匹は誰彼ともなくかみつく ジャーマンシェパード(?)で、HOWARDはその犬にBY-TORというあだ名を付け、(BYTE──かみつくのもじり) もう一匹は雪のように真っ白 だったので、SNOWDOG(まさに雪犬!)と呼んだそうです。その犬たちの追いかけっこが、地獄の王子と番犬(?)の戦いに、発展したので しょう。
 “Sign of Eth”についても、RUSH FAQに詳しく説明されています。"Eth"そのものは、thisとかthatとかの"th"の発音──日本語には ない発音なので、苦手な人も多いです──を表す古語で、そこから連想される言葉が、さらに「悪魔」を連想させるという、二重の連想 ゲームのようなものだそうです。

 この曲のヴォーカルはナレーター的に状況説明と結果だけという感じで、実際のバトルはインストでやっています。感じ、出ています ね。



FLY BY NIGHT

 NeilがRUSHに加入して最初に書いた詩が、これなのだそうです。Neilが加入して二週間後に、RUSHの初全米ツアーがあったわけですが、 (当然、前座&クラブまわりだったそうです)その移動のために空港で待っている時間を、さらには彼自身が18歳の時、野望を抱いて イギリスに渡った、その時の空港での思いを、詩にしたということです。



MAKING MEMORIES

 これはAlexの作詞だそうです。(でもクレジットはLee−Lifeson−Peartになっていた)なんだかZepのアコースティック・ナンバーを思い 起こさせます。RUSHの初全米ツアーは、飛行機の移動もあったことはあったけれど非常に稀で、ほとんど車に乗って、街から町へと移動を 繰り返したのだそうです。その長い移動時間に、Alexが車のシートでアコースティック・ギターを抱え、作ったのがこの曲だとのこと。 たしかに、ロード中です、と言う感じがでている気がします。
 曲中にある「海から海へ」もしくは「海岸線から海岸線まで」と言うのは、アメリカの西海岸と東海岸のことで、全米を駆け巡った ロード生活そのままですね。



RIVENDELL

 「Necromancer」と同じく、J.R.R.Tolkienの「指輪物語」が、この曲のもとになっています。物語中に出てくる妖精の谷、 Rivendellは、「裂け谷」と訳されています。山の奥深く、妖精たちの住まう安息の地「Rivendell」は、 ナズグルに追われたフロドたち一行が命からがら逃げこんだ場所であり、ビルボが余生を過ごす地と決めたこの 場所は、美しく、心安らぐ平穏な場所なのですが、このあたり、原作か映画で、「指輪物語」を知ると、 感じが出ると思います。
 なお、「裂け谷」の解説は、倶楽部YYZのディスコグラフィーに詳しいです。



IN THE END

 この曲も、歌詞はNeilではないですね。シンプルなラヴソングで、ファーストの延長線上にあるような感じです。ファーストより、 洗練はされていますが。
 特に解説すべきことはないのですが、強いてあげるなら、この曲のライヴでは、 間のカウントが「one two three four」か、「one two buckle my shoe」かという違いがあります。後者は、 RUSH FAQによると、マザーグースからの引用だそうです。どちらにしても、スタジオ盤にはカウントは入っていませんが。



アルバムについて

 ドラマーがNeil Peartに交代して、現在の不動のメンバーになっての初アルバムで、事実上これがデビュー作という見方をする人も 大勢います。たしかにファーストとはだいぶ作風が変わり、哲学的な歌詞とか、変拍子の使われ方、組曲の登場など、Rushの基盤とでも 言うべきものがこのアルバムで確立されたと言ってもいいと思います。
 全体的に音は古いし(25年前だから仕方がない)、なんといってもメンバー全員21,2才という若さですから、勢いもあるけれど 未熟なところもあるのはたしかですが、勢いだけではなく、思想や理念といったものが加わって、今に通じるRUSHというバンドの個性の 確立を感じることが出来ます。
 ただ、やはり時間不足のせいなのか、完全なRUSHのカラーに統一されてはまだいなくて、ファーストの延長線上のものと、新路線とが 交じり合い、アルバム全体の統制という点では、いまいち半端なのが惜しい! 聞いた上での違和感は、あまり感じませんけれど。




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