Part 7 of the Sacred Mother's Ring - A Path to the Light

終章  つながりゆく環(4)




「あなたたちは、本当に仲良しね。昔から……?」
 問いかけるエマラインに、アリストルは頷いていた。
「昔からそうだよ。ぼくたちは最初から、男女のコンビだったから。ぼくは彼女がアルディーナだった頃から、ずっと愛してきたんだ。最初の十何回は、振られてばっかりだったけれど」
「ええ? 振った覚えって、ないわよ」
「でも、君はいつも他の人を好きになるんだよね」
「まあ、そうだったわね。でも、初期のころだけでしょ?」
「そうだけどね。でも本当に、君には振り回されたよ」
「振り回した覚えもないんだけれど」
「君はいつも無自覚なんだよね。だから女王さまなんだ」
「だから起源子のミドルネームがレーヌになっちゃったんじゃない、あなたが余計なことを思うから。一応男の子にならなきゃならなかったのに、しょっぱなからそれって、ねえ。幸いあの時のお母さん、アグレイアさんがフランス語にはまってた時期だったから、フランス語表記にしてくれただけ、まだ良かったけど。下手したら、アーディス・クイーンになるところだったわ。そんなの、芸名にもできないわよ。わたしはあなたの女王様じゃないし。いつまでもミストレスって呼ぶのもやめてって言っているのに、やめてくれないし」
「でも、ぼくにそうさせているのは、君なんだよ」
 アリストルは妹の剣幕に少し困ったような表情を浮かべ、肩をすくめていた。
「なんだか本当に面白い関係だね、君たちは」
 アレイルは思わず肩をすくめ、そんな感想を述べた。
「うん。でもぼくはそういう関係、嫌いじゃないよ。彼女に振り回されるのも、慣れているから」アリストルはちょっと笑い、父母に向き直った。
「パパとママも、良いパートナーになれると思うよ。基本は男同士だから、今みたいな関係はそうないかもしれないけど」
「うん。大丈夫。もういいパートナーだもん、二人は」
 アディルアは微笑むと、一歩前に進み出た。
「わたしたちは最後にパパとママの子供に生まれてきて、とても幸せだった。短い間だったけれど、とても感謝してるの。この七年、幸せなファミリーの中に生まれて、みんなの愛情の中で育って、本当に曇りのない幸福を感じていられたから。光の時代とは違う種類の、でも完全な幸福よ。起源子の人生では、わたし六歳のころまでは闇の試練が多くて、でも、この人生ではその分、すごく満たされたって思うの。それにパパとママと、リンツおにいちゃん、シェリーおねえちゃん、ミルトおにいちゃん、エミリアお姉ちゃん、アレンお兄ちゃん、セルスお兄ちゃん、ローディア、ジャック小父さん、ヘレナ小母さん、アーサー、ロリィ、パリス。四千年前にこの星で出会った親しい人たちにも、また会えたし。全員じゃないのが、残念だけど」
「誰が誰なんだろう……」アレイルは思わず呟いた。
「うーん、パパやママたちの段階だと、前の人生って、たとえキーライフでも、はっきりとは覚えてないから、誰が誰って言っても、わかりづらいと思う。でも約束どおり、みんな家族になれたわ、また」
『四千年の時が過ぎたら、また家族になろう』
 かすかな記憶の中の言葉が、アレイルの脳裏を掠めた。こっちの世界ではない、遠い、そして実体のない記憶。
『僕も、おまえの家族に参加するのか?』自分はそう聞いた。
『選ばれた四人だから』彼はそう答えていた。本来の姿に戻る前に。
「アデレード、ロザモンド、ティアラ……エステル」
 微かな記憶の彼方から浮かんでくる名前、それは“彼”に属するものだ。最後の名前は、深く自分にも係わり合いがあったが。
「うん。みんな兄弟になったわ。だからちょっと変則的って言ったんだけど。わたしとアリストのほかの、四人。エミリアお姉ちゃん、アレンお兄ちゃん、セルスお兄ちゃん、ローディア」
「そうなんだ……」アレイルは頷き、次いでもう一つ浮かんできた、新たな名前を口に出す。そう、それはエマライン――かつてのアールとも関係の深い名前。
「オーロラは……?」
「シェリーおねえちゃん」
「そうなのね……」
 漠然とした記憶の彼方から浮かぶ知識とともに、エマラインも頷く。
「それに、懐かしいバンドの仲間たち。パパもだけど、ジャックとヘレナとアーサー」
「そうなのか……」微かな驚きとともに、アレイルは頷く。
「だから、みんな仲良くしてね。わたしたちがいなくなった後も」
 アディルアは首を傾げて笑い、両親に向かって手を差し出した。
「わたしたち、もう行かなければならないわ。聖太母神の元へ。光の路を創るために。そうしたら、アクウィーティアから地球への、十三回目の環つなぎも完成する。わたしたちの使命も終わる。路を作ったら、わたしたちはそこで待ってるの。地球人が新たな光の子供になって、路を通って、合流してくるまで。闇に落ちちゃう人以外の、すべての地球人が合流してくるまでは、わたしたちもまだ、聖太母神と一体にはなれないの。御子として、その側にいて、地球の行く末を見ている。二億年以上の時間を。先達の御子たちのように、時には、ちょっと干渉するし、悪戯もするし、手助けもする。御子は自分たちの後継と、同胞の、後継へのパイロットとなった人たちのことを、ずっと見ているから。そしてグラントパージを起こし、そこに救いの手を差し伸べる。わたしたちの場合は、それだけ時間と距離があるから大変だけれど、でも、それだけ力も強くなっているから、大丈夫。でも最初の一億二千万年くらいは、ただ見ているだけの時が多いと思う。今までみたいに。最初の人が合流してくるまでは、まだアリストとわたしの意識だけだから、わたしたちの意識を保っているし。ただ、いる世界が変わるだけだから。わたしたちは、みんなのことを見ながら、そこで遊んでいるわ、二人で。だからね、悲しまないで、パパ、ママ。今まで、ありがとう」
「うん。ありがとう、パパ、ママ」アリストルも父母を見あげ、手を伸べた。
 アレイルとエマラインが差し出された二人の小さな手を取った時、宇宙の幻は消えていた。足元に丸く広がる、柔らかい草むら。幅の狭い、白い砂浜。広がる青空と、金色に輝く大木。その木陰に、四人は立っていた。
 眠っていた子供たちが、同時に目覚めた。エミリア、アレン、セルスは不思議そうに立ち上がり、「眠っていたの?」と呟く。アリストルは三人を見、手をとった。目が合うと、彼らは何事もなかったように、双子たちの方にやってくる。彼らにとって、眠っている時間は、楽しく遊んだ記憶に置き換えられたようだった。末っ子のクローディア・ロゼッタももじもじと身体を動かし、眠りから覚めた声を上げた。エマラインはクローディアを抱き上げた。
「眠くなっちゃった」アディルアは口に手を添えて、小さくあくびした。
「ぼくも」アリステルも、半ば目を閉じそうになっている。
 二人は周りに集まってきた家族を見上げた。アディルアが、にっこり笑って言う。
「パパ、ママ、エミリアお姉ちゃん、アレンお兄ちゃん、セルスお兄ちゃん、ローディア。今まで、ありがとう。わたしたちがいなくなっても、仲良く暮らしていってね」
「ぼくの言いたいこと、みんなアディルが言っちゃったから、同じ。ありがとう」
 アリストルもそう言い、回りを見回したあと、父母に再び視線を移した。
「パパ、ママ、お願いがあるんだ。ぼくたちが空に帰るまで、ここにいさせて」
「いいわよ……」
 エマラインはこみ上げてくるものを飲み下しながら、頷いた。
「よかったぁ」
 二人は安心したように笑った。そして、どうにも睡魔に我慢できなくなったように、目を閉じ、お互いに寄り添うように、木に寄りかかった。そして二、三度頭をこっくりこっくりさせているようだったが、やがてそのまま、すうっと眠ってしまったようだ。
 アレイルは草の上にバスタオルを敷き、その上に二人を並べて寝かせてやった。その身体の上から、毛布をかけて。一家はその周りに集まり、二人を見守った。
「もう起きないのね、二人とも……」
 エミリアが泣きながら、そう呟いた。
「でも、さよならなんて、言いたくない……」
 アレンとセルスも姉の言葉に頷き、目を拭いながら父母に問いかけた。
「ねえ……アリストが言ってたように……二人が空に帰るまで、ここにいるの? 空に帰るって……あの……もう最後、ってことだよね」
「ああ」アレイルは眠る双子を見下ろしながら、頷いた。
「お医者様に連れて行っても、もう間に合わないのよね」
 エミリアの問いかけに、アレイルとエマラインは、無言で頷いた。
「それなら、あたしたち、ずっとここにいても良いわ。それがアディルとアリストの願いなのだったら」
 姉の言葉に、アレンとセルスも無言で頷いている。
 アレイルは手を伸ばし、三人の頭を次々となでた。
「おまえたちの気持ちは、二人も嬉しいと思うだろうね」

 時はゆっくりと過ぎていった。やがて太陽は対岸に沈み、燃えるような夕焼けの光も、ゆっくりと薄紫色の黄昏の中に溶けていく。空は深い藍色になり、星がいくつか瞬き始めた。その空へ、輝く小さな星の光が地上から立ち上ったように、細い光が二人の身体から、すうっと立ち上っていった。アディルアから上がっていく金色を帯びた光と、アリストルから上がっていく、銀色がかった光――二つの光が絡み合うように、空へと上っていき、やがて星々の間に消えていった。
 残された人々は、じっと空を見上げていた。誰もが、二人は空に帰った――逝ってしまったことを悟った。アレイルは二人の鼓動を確かめようとしたが、それは便宜上の問題に過ぎなかった。一同は一時間ほど、もう命が抜けてしまった二人の身体を取り囲み、座っていた。子供たちは泣いていた。エマラインも涙があふれてくるのを止められず、アレイルも大きな塊が喉を塞ぐのを感じた。彼らの魂、彼らの本体に畏怖し、彼らが話した事実の重さに衝撃を受けはしたが、それでもアディルアとアリストルは紛れもなくアレイルとエマラインの子供であり、愛しい存在であることに変わりはないのだ。

 深い宵闇が訪れた時、一家はグリーンズデイルの家に二人の亡骸をつれて帰ろうと、立ち上がった。世界連邦が元の姿になった時、それまでは市庁舎の地下施設で元素に分解され、街の外に撒かれていた死者たちは、元素の粉に分解される前段階、数センチ角の色のついたキューブとなり、市外の共同墓地に埋葬されるようになっていた。幅五十センチ奥行き七十センチほどの小さな区画に名前を刻んだ墓碑が建てられ、花が植えられる。光学写真を飾り、その前に花を飾る人もいた。アレイルの妹ルーシアと父デヴィッド・ウェイン、エマラインの兄エドワードもそうだった。アディルアとアリストルも同じように、共同墓地に葬ろうと。
 アレイルはアディルアの身体を抱き上げた。まだ小さい、やっと一メートル二十センチほどの、その年頃にしても小柄で軽いその身体の、微かな重みを感じたのは一瞬だった。彼はあっと声を上げた。娘の身体はさらさらとした小さな輝く無数の粒子となって、空気に消えていったのだった。着ていた白いブラウスとピンクのスカート、髪に結んでいたピンクのリボンと小さな青い花が主を失い、ひらひらと地面に落ちていった。驚きながらも、アレイルは思った。これと同じ光景を、かつて見たことがある。遠い遠い昔に――この娘になる前に。彼は頭を振り、続いてアリストルの身体を抱き上げた。娘よりほんの少しだけ大きいその身体も、やはりその重みを感じたのは一瞬だった。息子もまた洋服だけを残して、空気に消えていったのだった。
 漆黒の空には、幾多の星が輝いていた。遅い月が、ゆっくりと昇ってくる。アレイルとエマラインは空を見上げたあと、アディルアとアリストルが着ていた洋服を丁寧にたたみ、木の下に置いた。その時、月の光を浴びて、木の枝がきらりと光るのを、アレイルは見つけた。彼は手を伸ばし、届かないので、樹の幹に登って、光っているものをつかんだ。木を登ることは、昔、世界連邦の暗黒時代で逃避行を続けた時、避難先の南の島で自給自足の生活を送っている時に、覚えていた。
 再び地面に下り、手を広げてみると、それは透明な石を飾ったペンダントだった。手の上で、その透明な石から、小さな白い光が放たれた。それは、石の内部から発した光のように見えた。それは一度光っただけで、後はただ月の光を反射し、きらきらと輝いているだけだった。エマラインが手にすると、それはもう一度光った。だが、興味をおぼえた他の子供たちが触れても、光りはしなかった。
「誰かが、この枝にかけたんだろう。遠い昔に」
 アレイルはそのペンダントを、たたんだ服の上に置いた。ペンダントに関する記憶は消えていたが、アディルアとアリストルの墓標にはふさわしいものだという、その思いだけは残っていた。
「見ているって……言っていたわね。だから、わたしたちを見ていてね……アディル、アリスト……これからも」
 エマラインは洋服の上に置かれたペンダントを見、次いで空を見上げた。子供たちは洋服とペンダントの墓標に手を合わせ、次いで同じように空を見上げている。クローディア・ロゼッタはむずがりもせず、大きな目を見開いて、じっと月の光に輝くペンダントを見ていた。静かな波の音と、風にこすれあう樹の葉の音だけが聞こえてくる。

 アレイルの脳裏に、かすかな記憶の断片が掠めた。宇宙空間を行く子供たち。かすかな光を放ち、光の路を行く――。
『彼らは成長しきって純化された自己の姿なんだよ。これが個人としての進化の究極さ。どんな魂もここまでなるには、相当の時間がかかるんだ』
 自分がかつて見たものは、先達の民、アクウィーティアの人々が、彼らの先達、水先案内人である人たちが開いた光の路を通って、聖太母神と呼ばれる、宇宙の秩序を司るという、大いなる意識の中へと吸収されていくところだったのだろう。光の子供たちが向かう先は、宇宙の神聖なる母のもとなのだ。子供の姿は、純化を意味するのか。それとも、最後にはアディルアとアリストルのように、子供のまま空に帰るのだろうか。そして今、新たな路が開かれたのだ。地球の民たちのために。でも自分たちは、その路を行くことは出来ない。エマラインと二人、新たな路を開かなければならないのだ。それも、はるか彼方、太古の昔にすでに開かれた路を。
 奇妙な感覚が襲ってきた。エマラインの目を見ると、彼女もまた同じ思いを共有しているようだった。彼女の瞳は深い紫に変化し、かすかに震えている。アレイルは手を伸ばし、彼女の手を握り締めた。
「僕がついているよ」彼はもう一度言った。
「ありがとう……」エマラインもそう繰り返した。
 恐れていても仕方がない。それは遠い未来の話だ。彼らにあるのは、今この人生。そして二人は今、我が子を二人同時に失くした。この喪失を抱え、しかし残された家族で助け合い、精一杯残りの人生を過ごしていかなければ。キーライフの終わりに知らされるその知識は、しかし、この最後の時だけは例外だ。最終ステージ、『パイロットの旅立ち』の時が、最後の答えが明かされ、すべてが明らかになる時。それは後継の二人の寿命には関係なく、もたらされる。自分たちにはまだ、この先の人生があるのだ。

 その時、アレイルの脳裏に鮮やかなヴィジョンが降りてきた。グリーンズデイルの市外地区に建つ我が家の広間で、大勢の人たちが集まり、笑いさざめいていた。その中心にいるのは、七十歳を超えた自分たち。エマラインの髪は色が薄くなり、その顔には若干しわができたが、それでもまだ、どこかに少女めいたものを残している。アレイルの髪はほぼ銀色に近くなり、やはり少ししわができ、口ひげを生やしていた。
 周りに集まっているのは、四人の子供たちと、その家族。エミリアとミルト、そして彼らの四人の子供たち――二九歳の娘、二七歳と二四歳の息子、二二歳の末娘。上の二人はすでに結婚していて、その伴侶たちと、小さな子供たちを連れている。アレンとセルスも四十代の落ち着いた中年男性となり、それぞれの妻を連れている。アレンの子供たちは三人、十九歳の息子と、十六歳と十四歳の娘。セルスには四人、十七、十四歳の息子、十一と九才の娘。クローディア・ロゼッタも今のエマラインくらいの年頃になり、優しそうな夫と、七歳の娘、五歳と二歳の小さな男の子を連れている。彼らは自分たちの、五十回目の結婚記念日――かつて金婚式と呼ばれたその日を、祝っているのだ。
 セルスの末娘とクローディアの三人の子、それにエミリアとミルトの三人の小さな孫たちが代表で、自分たちにプレゼントを渡していた。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、五十回目の結婚記念日、おめでとう」と、可愛い声を揃えながら。
 そのプレゼントは、かごに入った小さな子犬。ペットを飼う風習は四八世紀から四、五世紀の間に復活したが、その後世の中が荒れた時、『もう少し良い時代になったら、また復活させよう』と、繁殖をやめ、犬三百匹八十五種、猫二百三十匹五十一種の受精卵を凍結保存した。それは今から十年ほどたった頃に、再び復活する予定だった。
 ふわふわした白い毛に覆われ、つぶらな瞳のその犬は、尻尾を振りながら自分たちを見ていた。
「あら、かわいい!」
 エマラインは声を上げ、笑顔を浮かべてその頭を撫でている。
「おお! 二人の生活も悪くないだろうが、これで寂しくなくていいな」
 一緒に着ていたリンツも笑い、傍らでシェリーも
「うちも飼わない? 二人よりいいわ」と、微笑んでいる。彼らの三人の子供たちも――これから生まれる予定の末娘を含め、それぞれがもう家庭をもって独立していたのだ。アーサーの一家も、年老いたヘレナもそこにいた。ジャックは前年に亡くなったらしいが、彼らとの付き合いも、かなり前に復活していたのだ。
 幸福な人々の楽しげな声が、さざなみのように揺れていた。リビングのキャビネットには、まだ七歳のままのアディルアとアリストルの光学写真が、最後の誕生会の時に撮った、にこやかなあどけない笑顔の二人の写真が飾られ、ピンクのトルコ桔梗とユリをさした花瓶がその横に置いてある。庭には、かなり大きく成長した二本の光の木が、家を見守るように立っていた。

『でも幸福な未来なら、知りたくない? 今から幸せになれるわ――』
 誰かが、そんなことを言っていたっけ、遠い過去に。本当にそのとおりだ。その彼女、かつての自分にはいとおしい存在だったその人には、今はまだ会えていないが、きっとまた会うのだろう、孫の一人として――エミリアとミルトの末娘、お祖父ちゃんっ子のモニカ――先のヴィジョンでは二二歳の娘になっていたが、今から十数年後に、また会える。そんな予感も感じた。
 アレイルは傍らの妻を見やった。エマラインもまた、その思いとヴィジョンを共感しているようだった。二人は顔を見合わせた。悲しみと寂しさと、それでも残された幸福――二人はともに、小さく吐息をついた。
「帰ろうか」
 アレイルは家族を振り返り、促した。エマラインも頷いた。
「でもあの子たちのお誕生日と、それからこの日には、ここに来ましょう。毎年」
「そうだね」アレイルは同意し、三人の子供たちも賛成の声を上げていた。
 空には無数の星が輝いていた。

【 完 】




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