Part 2 of the Sacred Mother's Ring - the 11 Years’ Sprint

二年目(17)




 翌日、お昼前に待ち合わせをして、カフェテリアで一緒にランチ、それから水族館に行って、そのあと早めのディナー。
「そういえばジャスティン、このあいだ言っていたトラブルは解決したの?」
 夕食の時、ステラはそう聞いてきた。
「ああ、かなり進展したよ。もう一息で解決しそうだ」
 僕が答えると、ステラは顔をほころばせた。
「ああ、よかった。なんとなく、そんな感じはしていたの。今日のジャスティンは、本当に楽しそうですもの。このあいだまでは、時々とても心配そうな顔をしていて、気になっていたの。本当によかったわ。あなたに元気が出て」
「ありがとう。君のおかげだよ、ステラ」僕は片目をつぶってみせた。
「あら、どうして? わたしはなにもしていないわ」
「いや、君がヒントをくれたんだ」
「そうなの? よくわからないけれど」
 ステラは不思議そうな表情で、首をかしげている。
「でも僕はこれから、たぶんクリスマス近くまで、スタジオにこもらなければならないんだ。次のアルバムを作らなければならないから」
「ああ、そうなのよね。お仕事が順調なのは良いけれど、わたしはまた寂しくなるわ」
「やっぱり、仕事は順調じゃないほうが良い?」
「いえ……仕事は順調で、離れ離れにならないのが一番嬉しいんだけれど、それは、今は無理なのなら……あなたのことを考えるなら、順調であってほしいわ」
「ありがとう、ステラ!」
 僕は感激のあまり、恋人を抱き寄せようと手を伸ばした。
「グラスが倒れちゃうわ、ジャスティン」
 ステラは頬を染めながら、はにかんだように笑う。
「ああ、出発を明日にしてもらえばよかったな」
 僕は一瞬、本気でそう思った。
「わたしも、もっとあなたと一緒にいたいけれど、今日はもう帰らなければならないの。今日はパパとママの結婚記念日だから。八時からホテルのディナーを予約しているのよ」
 ステラは少し残念そうな表情ながら、笑顔で首を振る。
「そう。でもパパとママの結婚記念日なら、二人っきりでお祝いをしたいんじゃないのかい?」
「いいえ。二人とも、わたしがいなければ、完全ではないと言うのよ。だから毎年三人でお祝いしているわ」
「へえ、そうなんだ」
 僕だったら子供抜きにしたいが。僕の両親は毎年結婚記念日というと、二人だけで食事やお芝居に出かけているし──そうは思ったけれど、口には出さなかった。
「君のご両親だと、そろそろ銀婚式かい? まだ早いかな?」
「いいえ、もうとうに過ぎたわ。今年で三一年目ではなかったかしら」
「へえ。僕の親は、四年前くらいに銀婚式だったよ」
「そう。うちのほうが、あなたのご両親より長いのね。では、あなたのお兄さまは……ハネムーンベビーなの?」
「ハネムーンじゃないけれど、すぐに授かったんじゃないかな。結婚して一年後に、兄さんが生まれているから」
「わたしは、パパとママが結婚して十二年目に生まれたの」
 ステラはフルーツサラダの最後の一切れをフォークに刺しながら言った。あまりお腹がすいていないからと、サラダとコーヒーしか頼まなかったのは、これから二度目のディナーが控えていたからか。
「ずいぶん遅い子持ちなんだね」
「いろいろ努力したらしいの。でも、もうほとんど子供は無理だと、あきらめていたらしいわ。しかたがないから夫婦二人で暮らそうと思っていたら、わたしが授かったそうよ」
「そうなんだ。でもそういうことも、時々あるらしいね。諦めることで、逆にプレッシャーが取れるのかもしれないけれど。うちのバンドでも、ミックのうちがそうで、彼も結婚十一年目で生まれた、一人っ子なんだよ。だから両親に大事にされてきたらしいよ」
 頷きながら、ステラの両親が娘を溺愛する理由の一端が、わかったような気がした。彼らにとって、ステラはまさに掌中の珠、奇跡の子供だったのだろう。
「それに君のご両親は、貴族の末裔なんだよね」
 皮肉は一切抜きにして、僕は言った。
「パパのご先祖はプロイセンの貴族で、ママはアイルランドの貴族の末裔。たしかにそれが二人のプライドだし、誇りでもあるようだけれど。だからパパとママは、パーレンバークという英語読みではなくて、フォン・パーレンブルクというドイツ語読みで呼ばれたいようだし。英語読みだと、ヴォン・パーレンバークね。称号にうるさいの。でも、わたしは、あまり血筋なんて興味はないわ。元貴族の誇りなんて、持ってはいないから」
「じゃあ、パーレンバーク氏、いや、フォン・パーレンブルク氏はドイツ系なんだね」
 夢の中のシルヴィアさんと現実のステラがダブったこともあり、もし僕がヨハン神父の生まれ変わりなら、ステラはシルヴィアさんの生まれ変わりなのでは――そんな考えが、ちらっとよぎった。だとしたら、僕らは前世からの契り、運命の恋人か。でも前世では結局、結ばれなかったんだな──。いや、なんてバカな妄想だ! 僕は思わず苦笑し、ちょっと怪訝そうに見ているステラに向かって、微笑みかけた。
「じゃあ、そろそろ出ようか、ステラ。もう六時だ。一回うちに帰って、着替える時間が要るんだろう?」
「ええ。今日は楽しかったわ、本当に」ステラはにっこり笑って立ちあがる。
「送っていくよ」
「あら、でも時間は大丈夫? 七時に集合なのでしょう? 一回アパートメントのお部屋に戻って、荷物を持ってから、行かなくてはならないのでしょう?」
「平気さ、多少遅刻しても」
 僕は軽く目配せをし、ステラは再び微笑む。
 僕は二十分ほど遅れて、マネージメントのオフィスに着いた。

 練習所に着いたのは十時近かったので、その夜は軽く打ち合わせだけをし、それぞれの部屋に引きとって休んだ。五月下旬から五週間、ローレンスさんと一緒に寝起きしていた部屋に、僕は一人で帰ってきている。ベッドが一つなくなった分、部屋が広くなった感じがするが、調度はほとんど変わっていない。着替えを入れる小さな木のタンス、木の机と椅子、布張りの安楽椅子。クリーム色とオレンジのチェック模様のカーテン、緑の濃淡ストライプのカバーがかかった寝具。寝具がほわっと膨らんでいるのは、一足先に来てくれたロブのお母さん、通称ビッグママが、陽に当てておいてくれたおかげだろう。
 集中練習に使っていたころと同じように、一階が厨房と食堂、シャワールーム、ラウンジ、大き目のホールが一つに、控え室のような小さな部屋が三つある。二階の個室は廊下を挟んで全部で八室あり、僕は東側、端から三番目の部屋だ。一番端の角部屋はビッグママが使っている。その隣がエアリィの部屋で、それから僕の部屋、その隣がロビン。西側は角がロブとレオナ夫妻、その隣がジョージ、僕の向かいがミック、最後の一室は空いている。
 部屋の広さや調度は各部屋ほとんど同じだが、カバーやカーテンの色調はそれぞれの好みを聞いて、マネージメント側でわざわざあつらえてくれたらしく、各部屋で違う。ロビンの部屋はカーテンが薄緑でベッドカバーがベージュ、小さな水玉模様が飛んだ、かなりかわいらしいデザインだ。ジョージはモノトーンにアクセント的に原色を混ぜる色使いが好きで、白黒ストライプに赤や黄色のアクセントが飛んだ、かなりはっきりした模様のカーテンとカバーに統一している。ミックはラベンダー色のジャガード織りカーテン、ベージュと茶色のチェックのカバーだ。エアリィの部屋も本人に無断で、ちょっと覗いてみた。更紗ではなくギンガムチェックだったけれど、水色濃淡に統一されたカバーやカーテンが、なんとなくあのマインズデール教会の小部屋を思い起こさせる。僕はドアを閉め、一日も早くこの部屋の主が帰って来てくれることを願いながら、自室に引き取った。
 太陽と風をたっぷり当てた寝具は、乾いた陽だまりの匂いがした。ステラも、もう今ごろは記念日の晩餐を終え、家で眠っているだろう。また当分会えなくなることは、僕も寂しい。

「あら、おはよう、ジャスティン君。あなたが今朝は一番乗りよ」
 食堂に下りていくと、ビッグママ、ことエレノア・ビュフォード夫人が、にこやかな笑顔で迎えてくれた。ロブのお母さんだから、もう六十才くらいの年配だろう。くるくると渦を巻いた短い髪は茶色に半分くらい銀色が混じり、少し下まぶたの膨らんだ柔和な目も茶色だ。鼻は小さめで少し鷲鼻、唇は薄い。あまり贅肉のなさそうな身体に、何種類かのエプロンをとっかえひっかえかけて動き回っている彼女を、僕らはいつのまにかそう呼ぶようになった。決して、大柄だという意味ではない。彼女は、どちらかといえば細い。“偉大な”という感じに近いだろう。
 ビッグママはバイキング式に大皿に盛られた料理が並んでいるテーブルのそばに立ち、ニコニコと笑って言葉を継ぐ。
「いえ、正確には三番ね。ロブとレオナが、もう起きているから。レオナはさっきトロントに戻っていったわ。仕事を片付けに。彼女が今度ここに来るのは、三日後らしいわよ。ロブは部屋にいるけれど、あの子も明日はトロントへ戻るらしいわ。その次の日の午前中に、ここへまた来るって言っているけれど。あの子たちも行ったり来たりで忙しいけれど、それが仕事ですものね」
「おはようございます」
 僕は微笑して挨拶をし、朝はいつもそれほど食欲がないので、カゴに大盛りになったパンを二つ皿に取り、バターの包みも一つとった。ボウルに盛られたトスサラダを自分用の皿に取り分け、カップにコーヒーを注ぎ、ナイフとフォークを取って、テーブルに向かう。
「卵料理は何が良いの?」
 ビッグママが聞いてくれるので、僕は答えた。
「今日はスクランブルにしてください」
「ソーセージは何本?」
「二本ください」
 まもなく彼女がそれを、お皿ごと持って来てくれる。集中練習の始まりからずっと、ビッグママはこうして、僕らの食事の世話や掃除洗濯などをやってくれていた。
「連れ合いも亡くなったし、娘はメキシコヘ嫁いで、息子も嫁も仕事でちっとも家に寄り付かないから、こうしているほうが楽しいわ」と、にこやかに言ってくれる彼女の好意に、すっかり甘えている次第だ。
「でも、母さんにお給料を出すわけにはいかないよ。押しかけボランティアなんだからね」
 ロブは苦笑していたが、マネージメントでは、彼女にお礼を出すことに決めたようだ。それは当然だろう。
 まもなくミック、ロビン、最後にジョージが起きてきた。僕が食堂へ降りてから一時間後くらいに全員の朝食がすみ、朝のブレイクは終わりだ。
「じゃあ、そろそろ……」
「うん。やるか」
 僕らは頷きあい、テーブルから立ち上がる。
「お昼は一時半からよ! お腹がすいたら、クッキーがテーブルにあるわ!」
 食堂から出て行く僕らに、ビッグママが呼びかけた。

 ホールには、もう機材が運び込んであった。僕らはそれぞれの楽器をセットアップし、みなで顔を見合わせてのち、マイクスタンドも立ててミキサーにつないだ。今は四人だけでも、僕らは五人のバンドなのだ。そしてそれぞれのラインを、部屋の隅に置いたパソコンに入力し、ハードディスクに録音できるようにする。
「じゃあ、はじめようか」
 ミックが僕らを見回し、そう口火を切った。
「そうだね。それじゃ、手始めにフリージャムをやろう」
 僕はギターを肩にかけ、チューニングすると、ネックのすべり具合を確かめた。
「OK、キーは?」
「最初はAかな、とりあえず」
「よし、じゃあ、やるぞ!」
 ジョージがカウントを打ち鳴らし始めた。
 ミックとロビン、ジョージは、練習期間最後の二週間はずっと合同練習だったらしいけれど、僕はその間異国の地を旅し、そのあとはエアリィの失踪騒動で、演奏どころではなかった。考えてみたら、集中練習を始めてから他のメンバーと一緒に演奏するのは、これが初めてだ。
 音を合わせてみて、僕は思わず『おお!』と、叫びたくなった。それほどまでに劇的な変化が、みんなの音にあらわれている。なんとタイトで力強く、揺るぎない安定感に満ちたサウンドだろう。なんという生き生きとした躍動感だろう。僕自身もまるで魔法にかかったように、すらすらと音が出せる。これほどのサウンドが、ビートが、グルーヴが、そしてメロディが。僕はまるで何かに衝かれたように、演奏を続けた。他の三人も、止める気配はない。音に身を任せながら、一時間くらい、いや、もっと弾き続けただろうか。
 セッションが終わると同時に、僕は深いため息と感動の声を漏らした。
「すごいな。みんな、すごいよ……」と。
「すごいのはおまえだぜ、ジャスティン!」
 ジョージがドラムセットを飛び越え、やって来て僕の肩を叩いた。
「本当に、最高だよ!」ロビンは顔を紅潮させ、僕に抱きついてくる。
「みんなのほうこそ、すごいよ。最高だ!」僕は思わず二人に手を回した。
「成果としては最高だね、二ヶ月でここまで出来るなんて」
 ミックの言葉は冷静だが、その声は押さえきれない興奮を宿していた。
「ああ、この調子なら、きっといいアイデアも湧きそうだよ。あとは……」
 僕は主のいないまま立っているマイクスタンドを見やった。口には出さなかったが、みんなも僕の言いたいことはわかっているようだし、また同じ思いを感じているようでもあった。ここまで進歩できたのだ。ここまで達成できたのだ。それゆえよけいに、マイナス1の不完全さがもどかしい。僕らがバンドとしてどこまでやれるか、自らの進歩をどこまで反映させて、音楽に取り込んでいけるか、それは五人フルになってみないと、完全にはわからないのだから。

 そうして一週間あまりが過ぎた。最初の三日間はフリージャム、四日目にやっと曲らしきものがまとまった。翌日それを練り上げ、それから三日かけて、もう一曲、都合二曲のインストナンバーが完成した。二つとも純然たるインストではなく、歌が入ることを前提としたアレンジと構成だ。ここでもまた、不完全。四人のままでは、作業はいつまでたっても完成しないということだ。この不達成感はフラストレーションとなり、日がたつにつれ、だんだん創作欲へのブレーキとなりつつあった。言葉にこそ出さないが、他の三人も同じような気持ちを抱いていることが、なんとなく感じられた。
 日がたつにつれ、もう一つの懸念も少しずつ大きくなっていく。ランカスター草原で会った時、エアリィは時間をくれと言ったが、それはまさか一ヶ月、いや、数ヶ月単位のものじゃないだろうな、と。それほど長くはかからないと言ったものの、彼の中での『長い間』というのは、どのくらいなのか、具体的にはわからないのだから。さらに、もう一つの心配も消せない。あの時のエアリィは、明らかに普通の状態ではなかった。その時に言った言葉に、どれだけの信頼性があるのか。『僕は狂ってはいない』という言葉も含めて。あの時、正気と狂気のエッジにいた彼を、こちら側に引き戻せたと思ったが、それだけでは、まだ十分ではなかったのかもしれない――考えたくないことだが、一週間がたつ頃には、再びそんな懸念も、頭をもたげ始めてしまっていた。

 作業をはじめて十日目、僕は十時ごろ食堂へ降りていった。
「あら、おはよう、ジャスティン君。今日はあなたが一番お寝坊さんよ」
 ビッグママが僕の顔を見て、ちょっと笑いながら声をかけてきた。
「もっとも、みんな今日は遅かったわね。一番早くて、ミック君の九時よ。最近、みんな朝がだんだん遅くなってきているのね」
「ええ。なんだか最近疲れてきて……いや、だれてきているのかもしれないですね」
 僕は苦笑し、朝食のトレーを持ってテーブルについた。
「これは禁句のようだから、言わなかったけれど、やっぱり全員がそろわないと、お仕事も思うように、はかどらないのかしら」
 ビッグママはポーチドエッグの皿を持ってきてくれながら、問いかける。
「そう……まさにそのとおりなんですけれど……」僕は再び苦笑して頷いた。
「アーディス君は、すぐには来られない事情があるの?」
「母さん、彼らには彼らの事情があるんだから、あまり詮索しないでくれよ」
 まだ食堂でコーヒーを飲んでいたロブが、そう抗議の声を上げた。
「それはわかっていますよ、ロブ。だからこそ、今まで黙っていたんじゃないの。でもねえ、ずっと不思議には思っていたのよ。練習期間の予定が一週間も早く終わるし、今やっているのは、次の作品の準備、でしょう? でも、ずっと四人だけで。わたしはアーディス君には、もう二ヶ月近く会っていないわ。ジャスティン君や講師さんたちと、旅行に出かけてから。三週間以上前に旅行から戻ってきた時、ここへ来たのもジャスティン君だけだったし。わたしは悪いと思って、あなたたちのお話は聞かなかったけれど……でもみんな、とても動揺しているように感じてしまったのよ。あの子はどうしてしまったの? 元気なの?」
「いや……たぶん、元気じゃない」ロブは少し顔をしかめ、首を振った。
「母さんに詳しい事情は説明できないんだが……エアリィは旅行先で体調を崩したらしい。たぶん、メンタルにも影響が出ている。だから治るまで、合流できないんだ」
 何も詳しいことは知らないし、僕らの事情に深く巻きこむべきではないビッグママには、それが一番妥当な説明だろうと、僕も思った。一般的な見解で言えば、現実もそれに近いのかもしれない。
「まあ、やっぱりそうだったの? アーディス君がここにいた時は、ものすごく無理をさせられているみたいで、とても心配していたのよ。六月半ばすぎくらいまでは、本当にひどかったわ。最初の一日二日から先は、食堂にも食べに来なくて、心配して部屋に行ったら、ベッドにぐったり寝ていて、『ごめん……少し寝かせて』って。声も一時期、ものすごく掠れていたし。食べないと力がつかないわよって言っても、『固形物は吐くから無理』って言うの。だからわたしは毎食スムージーを作って、部屋まで持っていってあげていたのよ。起きたら、飲んでねって。いくら特訓でも、ここまでしなくてもいいのに。身体を壊したら、なんにもならないと思ってしまったわ。わたしが講師さんに口を出すわけにはいかないから、黙っているしかなかったけれど。最後の何日かはいくぶん元気そうで、良かったと思っていたのに。ここでジャスティン君も含めて三人でおしゃべりした時には、ああ、最初に会った時のこの子にやっと戻ったわねって、とても嬉しかったのよ。でもそのまま長旅は、やっぱり負担が大きかったのではなかったのかしら」
「負担が大きかった。それはたしかにそうだな。限界以上に追いつめすぎた。僕がもう少し早く、それに気づいてやれたらよかったんだが……」
 ロブはため息とともに頷いていた。

 その日は朝食が終わっても、なんとなく腰が重く、ロブが定期報告のためマネージメント事務所に戻っていってからも、僕らはコーヒーを飲みながら食堂にいつづけていた。お互いに話をするわけでもなく、ロビンと僕は本を読み、ジョージは携帯ゲームをし、ミックはスマートフォンをいじっている。その間にビッグママは朝食の片付けと洗濯を終わり、お昼の支度にかかろうとして、まだ食堂にいる僕らを見つけたようだ。彼女は少し驚いたような顔をし、それから一瞬ためらったようなそぶりを見せた後、コーヒーポットとカップを持って、僕らのテーブルにやってきた。
「お昼の支度をする前に、ちょっと休憩しようかしら。ご一緒していい?」
「ええ、もちろん」あまりないことだけに少し驚いたが、僕らはお互いに顔を見合わせ、それから微笑して、彼女を迎え入れた。
 ビッグママは僕たちみなにコーヒーのおかわりを勧めた後、自分のカップにも注ぎ、角砂糖を三個とミルクをたっぷり入れて飲んだ。それから二杯目を注ぎ、また砂糖とミルクを入れると、スプーンでかき混ぜながら、話しかけてきた。
「あなたたちは知っているかしら。ロブはね、ああ見えてもトロント大学を出て、ロイヤルカナダ銀行へ勤めていたのよ」
「へえ、ロブって銀行マンだったんですか?」
 僕は思わず声を上げた。そういえば最初に会った時も、なんとなく勤め人的なまじめさはあったが、そんなかたい分野からの転職だとは思わなかった。
「ええ、そうなの。でもロブはね、ティーンエイジャーの頃から、ロック音楽が大好きだったの。十三才の誕生日にエレキギターを父親にねだって買ってもらって、十五の頃から、バンドも組んでいたわ。夢中になっていてね。大学へ進学した後も、チャンスがあったらプロになりたいと、活動を続けていたの。でも、大学二年の頃だったかしら。アルバイト中にあの子は手を怪我して……いえ、四針ほど縫ったけれど、二度とギターが弾けなくなるような、ひどい怪我ではなかったから、それが直接の原因ではないとは思うわ。でも、しばらくバンドをお休みしている間に、他の人が入ってしまったのよ。あの子のピンチヒッターとして出てもらった人が、ロブより上手だったらしくて。それで、あの子は悟ったらしいの。自分には、プロとしてやっていける才能はなかったのだって。それでしばらく元気がなかったけれど、気をとりなおして勉強をして、優等で大学を出て銀行へ勤めて。そのままだったら、あの子も堅実な銀行マンとして働いていたでしょうね」
「そうなんですか。でも、どうして銀行から音楽事務所に転職することになったのですか?」
 ミックがそう聞いている。
「勤め先で、レオナのお兄さんに会ったのよ。その人は今、会計士さんとして独立しているけれど、そのころは同じ銀行の上司だったの。ロブはその人にずいぶん可愛がってもらって、それで親しくなるうちに、その人の妹さん、レオナが有名な音楽事務所に勤めているって知ったの。それで、ロブの病気がまた始まってしまったのね。あの子の音楽への情熱は消えていなかった。いえ、たぶん自分で出来ないぶん、ずっとくすぶっていたんでしょうね。アーティストにはなれなくとも、大好きな音楽に関わっていく道は、まだあったじゃないかって。内緒であの子はレオナに口利きを頼み、音楽事務所の面接を受けて、銀行を辞めてしまったのよ。あの時ほど、驚いたことはなかったわね。主人はその一年ほど前に亡くなっていたけれど、もし生きていたら、きっと卒倒していたわよ。それにもし主人がいたならば、あの人は決してそういう生き方は認めない人だったから、ロブは勘当になっていたかもしれないわ。わたしも、最初は正気の沙汰じゃないと思ったのよ。でも、あまりあの子が熱心にかきくどくから、ついに折れてしまったの。結局あの子の人生だし、ロブの好きなように生きるのが、一番いいと思ったのよ。それにしてもあの時には、立て続けに大問題があったわね。ロブがそんなことを言い出す半年前に、スーザンが──娘よ。ロブの三才上の姉──メキシコからの留学生と結婚するなんて言い出して。年下の外国人よ。あの時も相当驚いて反対したけれど、最後にはスーザンの気持ちに負けてしまったの。やっぱり、子供には子供の生き方があるんですものね」
 ビッグママはため息をひとつつき、少し首を振って、言葉をついだ。
「まあ、でも夢を達成するために人生はあるというなら、それもいいのではないかと思えたの。ロブの場合はね、音楽業界に入って、はっきりした夢ができたらしいわ。自分では叶えられなかった夢、ビッグアーティストを自分の手で育ててみたい──ええ、ロブははっきりそう言ったの。その夢のために、堅実な道を捨てる、と。それから二年経って、あなたたちの担当マネージャーになった時、あの時のあの子の顔を、わたしは忘れられないのよ。『夢が、本当になるかもしれない!』――ロブはまるで熱に浮かされたような口調で、そう言っていたわ。あなたたちは言ってみれば、あの子の夢なのね」
 僕はなんとなく当惑したような、面映い気分を感じ、そっと他の三人の顔を見た。どうやら彼らも、同じように感じているような表情を浮かべていた。
「だからこそ、わたしもこの年になって、おせっかいをしてみる気になったのよ。あなたたちのことも、本当にかわいいと思っているわ。みんな良い子だしね」
 彼女は微笑し、コーヒーを飲み干して立ちあがった。
「じゃあ、そろそろお昼の支度にかかりましょうか。何か食べたいものはある?」
「……できたら軽いものの方が」
 僕たちは顔を見合わせ、ミックが代表してそう答えた。
「じゃあ、パンケーキとシーフードサラダにしましょう」
 ビッグママはキッチンへと歩いていった。
「二時には出来るように支度するわ。じゃあ、みんな、がんばってね」
「はい……」僕らは頷くと、重い腰を上げ、立ち上がった。
 その時、みなの携帯電話がいっせいに小さく振動し、音を鳴らした。メールが着信したらしい。僕らは手を伸ばし、画面を開いた。
【トロントへ戻ってきた。遅くなってごめん。これからそっち行くよ】
 文面はそれだけだ。それはエアリィが僕らに一斉送信したメールだった。僕らは最初声を失い、それから同時に歓声を上げた。そして、みんなそれぞれに返信しようとする。
 僕も少し考えたあと、これだけ打った。
【良かった。早くこいよ! 待っているから】
 とはいえ、トロントからここまで来るには、仮にタクシーで来たとしても、二時間近くかかるだろう。いや、エアリィのことだから、さすがに自転車では来ないだろうが、原付バイクかもしれない。そうすれば、もっとかかる。しかし多少時間がかかっても、待とう。彼もきっとお昼は食べていないだろうから、ビッグママにお昼を遅くしてもらって、全員が揃ってから、みなで食べよう。その時に、いろいろ話もしたらいい。僕だけでなく、ほかの三人も同じように思ったらしい。そして僕らは、ビッグママにその旨を告げた。
「あら、ついにアーディス君も合流できるのね。本当に良かったわ!」
 彼女もほっとしたような笑顔を浮かべていた。

 僕らはそれからも作業をする気にはなれず、そのまま食堂にいて、ひたすら待った。そしてメールが着信して二時間半あまりがたった頃、僕らの耳に、ようやく小さなエンジン音が聞こえてきた。僕らは廊下に飛び出した。そこの窓からは、道路に面したほうの庭が見える。そこに、ホンダの原付バイクが止まっていた。ライダーはキーを抜き取り、上着のポケットにいれ、後ろの荷台に積んだバッグを下ろすと、かぶっていたフルフェイスのヘルメットをとった。その動作を確認すると同時に、僕らはいっせいに押さえきれない声を上げた。彼は窓越しに僕らが見ているのを見つけたようで、僕らに向かって小さく手を振り、少し困惑したような、照れたような笑みを浮かべた。そして何か言ったが、ガラス越しなので聞こえない。
 僕らは窓を開け、頭を突き出して口々に叫んだ。
「遅いぞ、エアリィ! 待ちくたびれたぞ!」
「でも、戻ってきてくれて、本当に良かった」
「本当に心配したんだぞ、この三週間!」
「今まで、どこに行っていたんだい?」
 騒ぎを聞きつけたのだろう。ビッグママも台所から出てきて窓の外を見、微笑んだ。
「アーディス君、来てくれてよかったわ。やっと元気になったのね! みんな心配して待っていたのよ。早く入っていらっしゃい」
「今行きます! 遅くなって、ごめん!」
 エアリィはちょっと頭を振り、にこっと笑った。その表情や声の調子は、以前の彼と同じような抑揚と明るさを持っていた。眼にも、かつての輝きが戻ってきている。僕は言いようもない安堵を覚え、ロビンもしんからほっとしたような表情だ。ミックやジョージはエアリィの異常な状態を体験していないだけに、そのコントラストはわかりにくいだろうが、『以前の彼に近い状態になったら戻ってくる』ということは知っていたので、同じように安堵したようだった。
 玄関に入ると、待ち構えていた僕らを見まわし、エアリィは再びちょっと困惑したような表情を浮かべた。
「みんな、ひょっとして……やっぱり、怒ってる?」
「いや!」僕はみんなを代表し、苦笑して首を振った。
「違うさ。待ちくたびれただけだ。あれから十二日目だ。トータル二四日だからな」
「中に入りなよ。本当に僕らはみんな、君を待ちくたびれていたんだから」
 ミックが穏やかに笑って言う。
「入りたいけど……そんなにみんなで立ちふさがってたら、入りづらい」
「いいからこいって、四の五の言ってないで!」
 ジョージが有無を言わさず手首を捕まえ、ぐいっと引っ張り込んだ。
「これだけ待たされりゃ、みんな並んでお出迎えになっても、仕方ないじゃないか。いいか、もう作業が終わるまで、黙ってどこかへは絶対行くなよ!」
「うん。じゃあ、部屋行って、荷物置いてくる」
 エアリィはホールを抜け、階段を上がりかけて振りかえり、かすかな苦笑を浮かべた。
「ついてこなくたって良いよ。部屋わかってるから。変わってなけりゃ、だけど。東の二番目だよね? ビッグママとジャスティンの間の」
「そうだよ。荷物を置いたら、すぐ食堂に下りてこいよ。部屋の窓から抜けたりするなよ! おまえなら二階からくらい、平気で飛び降りるからなあ」僕は指を振った。
「ずいぶん信用されてないなあ。逃げるくらいなら、最初から来ないよ」
 彼は笑い、たしかに二、三分で、すぐ食堂に下りてきた。
「もうすぐお昼にするわね。まだでしょう? ああ、その前に何か飲む? コーヒーなんかはもう大丈夫?」
 本気で病み上がりだと思っているらしいビッグママが、そう聞いてきた。
「あ、ありがとう。大丈夫だけど、お昼が出来てからでいいです」
 エアリィはちょっと笑って、そう答えていた。
 僕らは食堂のテーブルに座り、しばらく沈黙した。何から話を切り出していいか、僕は一瞬ためらったし、他の三人にしてもそうだったのだろう。エアリィにも同じ躊躇があったらしい。最初に口火を切ったのは、ジョージだった。
「だいぶ遅刻だな、エアリィ。でも、戻ってきてくれて、よかったぜ」
「うん、ありがと。ずいぶんみんなには迷惑かけちゃって、ごめん」
 その言葉にはランカスター草原で同じ言葉を口にした時とは違い、本心の響きがあった。
「トロントへはいつ戻ってきたんだ? 今朝か?」僕は聞いた。
「いや、戻ったのは一昨日の夕方なんだけど、すごく疲れた感じがして、そのまま寝ちゃったんだ。朝起きても、なんかふらふらしたから、ここまで来る元気が出るの待ってた。朝食べたり、シャワー浴びたりして、休んで……それで、あの時間になって、あ、復活できた、って思ったから」
「それなら、もうちょっと早く連絡してくれよな。一昨日帰ってきたのなら。そうしたらロブが迎えにいけたし、おまえもわざわざ原チャリで来なくてもすんだじゃないか。それに俺らも、もっと早く安心できたのにな」ジョージは肩をすくめている。
「ごめん。なんかでも帰ってきた時は、ともかくもうだるくて眠くて、限界、って感じになって、ベッドまで行くのが精一杯状態だったから。朝起きたら、今度はもうガス欠状態がやばくて。それに、日付見てびっくりしたよ。帰ってきた時、時計ちら見して、あ、もう八月十八日の夜か、三週間ちょいかかっちゃったんだな、って思ってたのに、朝起きてもう一回見たら、二十日になってて……あれ、十九日飛ばした! って」
「それは寝すぎだろう」僕らは苦笑するしかない。
「感覚的には一晩なんだけどさ。でも自分でも驚いたよ。それで十一時前になって、そうだ、出かける前にケータイ充電しなきゃって思い出して、電源入れたら、ものすごい着歴で、びっくりしたんだ。それで、連絡しなきゃなって思って」
「そうか。マネージメントには連絡入れたか?」僕は聞いた。
「うん。まあ……ロブにも一緒にメール出したから。そしたら速攻でロブから電話が来て、すごくいろいろ言われた。でも最後に、『よかったよ。もう黙ってどこかへ行くなよ』って涙声で言われて、どう反応していいか、わからなくなったな。ひたすら、ごめんなさい……って感じで。マネージメントの方には報告しておくってロブが言ってたから、任せちゃったけど、あとでトロントへ戻った時、謝りに行こうとは思う」
 メールが来た時、ロブはまだトロントへ向かって運転中だったはずだが、きっと慌てて車を脇に止め、電話をしたんだろう。どおりでメールを返信後、僕らを代表してミックが電話をかけても、話中で留守番電話につながったわけだ。
『出発を遅らせるかもしれないから、話はこっちへ来てからにしよう』
 ミックは肩をすくめ、僕らは待ったわけだが――。
「おまえさ、失踪騒動なんて起こしてくれたから、本当にみんな心配したんだぞ。そこ、わかってるか? 実家にもマインズデール教会にも、ボストンのお継兄さんにも、プロヴィデンスのおまえの友達にも、問い合わせが行ったんだ。そこは連絡入れたか? まあ、シスターには会ったんだろうけど……」僕は指を振って言いかけた。
「いや、長くなりそうだから、あとはこっち着いてから連絡しようと思ったんだ。ああ、あと教会には行ってないから」
「おまえ、ランカスター草原に行っていながら、教会に寄らなかったのか? そこまで行ってたなら、シスターに顔を見せるくらいできただろうに」
「だって、強制的に帰されたから」
「え、シスターにか?」
「違うよ。トロントへ戻る前に、お祖父さんお祖母さんのお墓参りして、シスターにも会ってきたかったのに」
 じゃあ誰にだよ、と問いかける前に、ミックが言った。
「それなら、今連絡をしておいた方がいいよ。みんな心配していたようだからね。話はそれからにしよう」
 エアリィも確かにそうだと思ったらしく、携帯電話からあちこちに電話をかけ始めた。最初に彼が相手に呼びかけた言葉から推測すると、おそらく一番初めは実家へ、それからボストン、マインズデール、最後にプロヴィデンスだろう。
 三十分以上かかって、ひととおりかけ終わると、彼は肩をすくめて苦笑した。
「ああ……なんかものすごく、いろいろ言われちゃったなぁ」
「僕らだって、言いたいことはいっぱいあるぞ」僕は指を振った。
「ごめん。ホントになんて言われても、僕には反論できないよ。ジャスティンのメモは見たんだ。でもあの時の僕には、その通りにはできなかった。何も考えられなかったし、ぼんやりしたことしか覚えてない。実際自分じゃない誰かが行動してるみたいな、そんな感じだったんだ。カナダに戻ってくるまでは」
 エアリィは首を振り、携帯電話をテーブルに置くと、僕らを見た。
「それで、みんなにすごく心配も迷惑もかけちゃったこと、それは本当に何も言い訳できない。でも、さっき連絡したみんなにも、いろいろ言われたけど、『良かった』って言ってくれた。それが本当に嬉しかった。ジャスティンやロビン、ジョージ、ミック、ロブも、みんなそう言ってくれて、本当に嬉しいと思う。それなのに、こんなに迷惑をかけて……本当に、ごめんなさい!」
 彼はテーブルに両手をつき、頭を下げた。そしてそのままの姿勢で、言葉を継いだ。
「でも、お願いだ。それ以上は、何も聞かないでほしいんだ! 何が原因でそんなことをしたんだとか、その間どこで何をしていたんだとか、僕には答えられないから。覚えてないとか、そんなんじゃないけど……でも、言えないんだ。僕が変になったことなんて、忘れてほしいんだ。すっごく虫のいいお願いだって、わかってるけど」
 しばらく沈黙が落ちた。たしかに疑問はつきない。この一ヶ月近くの間、さんざん気をもまされた。彼が負いきれないと言った『知識』とは、どういうものだったのか、覚醒したモンスター、『彼女』とは何者なのか、それを僕らがはっきり知ることは、生きている限りない――そんな予感もあった。でも、一時期完全に失われていた以前のアーディス・レインが、精神的にも物理的にも戻ってきた今は、もうそれだけで良いのではないか。この空白の三週間半を追求して、万一リスクが戻っては、かえって元も子もない。
 そういえば、『何かトラブルがあるの?』とステラに聞かれ、遠まわしにほのめかした時、『突然いなくなったのには、何かわけがあるはずだから。でも無事に見つかっても、話してくれなければ、無理には聞けないわ』と、彼女も言っていた。そう、本人が自分から話してくれなければ、無理には聞けない。聞くべきではない。それは、今の僕らには立ち入れない、踏み込むべきではない領域なのかもしれない。そんな気もした。
「わかった。忘れよう。おまえはきっとインドで、変な病気にでもかかったんだ。それが無事に治ったんだな」
「そうだな。それが一番無難な理由だろうな」
 ジョージも頷き、ミックとロビンも同意の声を上げる。
「ありがと、本当に」
 エアリィは僕らをしばらくじっと見、ほっとしたように言った。
「よおし、これでやっと、フルメンバーになったんだ! 昼食ったら、張り切って曲作り始めようぜ!」ジョージが勢いよく声を上げる。
「お待たせ。昼食が出来たわよ」
 そこへビッグママが、山盛りのシーフードサラダと、二十枚くらいのパンケーキを持ってきた。そしてホイップバターにメープルシロップの壷と、人数分のコーヒーとオレンジジュース。
「ありがとうございます!」
 僕らはいっせいに彼女に礼を言うと、昼食をとった。そしてしばらく消化のための食休みをした後、ホールに戻っていった。





BACK    NEXT    Index    Novel Top