▲トップへ    ▲MY本棚へ

結城真一郎の本棚

  1. #真相をお話しします

#真相をお話しします  新潮社 
 (ネタバレあり)
 第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」を含む5編が収録されたミステリ短編集です。初めて読む結城作品です。評判が高くて図書館の予約がいっぱい。刊行から半年近くが過ぎてようやく順番がきて読み終えることができました。
 冒頭の「惨者面談」は中学受験を専門とする家庭教師の仲介ビジネス会社で営業担当として働く現役東大生・片桐が語り手。全国模試の結果が散々だったのでテコ入れの必要性を感じたと言って家庭教師あっせんの説明を聞きたいと言ってきたのに、いざ家を訪ねると母親もその息子の様子もおかしく話がかみ合わない・・・。真相が明らかになった後にもうひと捻りがあるという凝った作りになっています。
 「ヤリモク」はマッチングアプリで出会った女を “お持ち帰り”しようとしている42歳の男が語り手。独身と称しているが実は妻子持ちで、大学生の娘がパパ活をしているのではと案じてもいる・・・。「ヤリモク」とは、出会い系でセックスするのが目的という意味らしいですが、ここでいう「ヤリモク」とはという驚きの展開です。更に最後の1行にもう一ひねりを加えます。
 「パンドラ」の語り手の翼は妻の香織と高校二年生の娘、真夏との三人暮らし。かつて不妊治療で苦しんだ翼は、誰かの役に立てればと自らの精子を第三者に提供した過去があったが、10数年の歳月を経て、精子提供した女性が生んだ娘が会いに来る。そこで、翼は彼女から思いもしない事実を聞く・・・。ここで問題となる事実はミステリではよく取り上げられるものなので、読者としてはそれほどの驚きはないかもしれません。でも、翼の立場に立たされれば、題名にある「パンドラ」つまり「パンドラの箱」を開けるべきか悩むでしょうね。そうそう簡単に翼のように考えられるかなあ。
 「三角奸計」は大学時代の友人が開いたリモート飲み会が舞台。僕と茂木と宇治原は都内の某有名私大へ進学したものの、地方出身のためなんとなくはぐれ者と化していた三人が自然に寄り集まって「イツメン(秀逸なメンズ)」として意気投合した間柄。5年ぶりに顔を合わせたリモート飲み会の最中、チャットで宇治原から自分の婚約者と浮気している茂木を殺しに行くと送られてくる・・・。オンライン飲み会というまさに今コロナ禍で行われるようになったことを取り扱っているのがおもしろいです。でも、殺人を犯そうとする者に協力しますかねえ。
 日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」の語り手はネット環境さえあれば地方でも仕事ができると長崎の小さな島に移住した夫婦の小学生の息子。ユーチューバーの死、そして同級生の女の子の死の原因の背景にあるものはあまりに現代的で自分勝手です。
 各話で取り上げられているのは、中学受験、マッチングアプリ、精子提供、リモート飲み会、そしてユーチューブと、どれも現代的な題材です。この辺りがこの作品集の特徴でしょう。
 個人的には伏線が回収される最後の1行に驚きのある「ヤリモク」と、最後のもうひと捻りのある「惨者面談」が好きです。
 リストへ