| #真相をお話しします | 新潮社 |
| (ネタバレあり) 第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」を含む5編が収録されたミステリ短編集です。初めて読む結城作品です。評判が高くて図書館の予約がいっぱい。刊行から半年近くが過ぎてようやく順番がきて読み終えることができました。 冒頭の「惨者面談」は中学受験を専門とする家庭教師の仲介ビジネス会社で営業担当として働く現役東大生・片桐が語り手。全国模試の結果が散々だったのでテコ入れの必要性を感じたと言って家庭教師あっせんの説明を聞きたいと言ってきたのに、いざ家を訪ねると母親もその息子の様子もおかしく話がかみ合わない・・・。真相が明らかになった後にもうひと捻りがあるという凝った作りになっています。 「ヤリモク」はマッチングアプリで出会った女を “お持ち帰り”しようとしている42歳の男が語り手。独身と称しているが実は妻子持ちで、大学生の娘がパパ活をしているのではと案じてもいる・・・。「ヤリモク」とは、出会い系でセックスするのが目的という意味らしいですが、ここでいう「ヤリモク」とはという驚きの展開です。更に最後の1行にもう一ひねりを加えます。 「パンドラ」の語り手の翼は妻の香織と高校二年生の娘、真夏との三人暮らし。かつて不妊治療で苦しんだ翼は、誰かの役に立てればと自らの精子を第三者に提供した過去があったが、10数年の歳月を経て、精子提供した女性が生んだ娘が会いに来る。そこで、翼は彼女から思いもしない事実を聞く・・・。ここで問題となる事実はミステリではよく取り上げられるものなので、読者としてはそれほどの驚きはないかもしれません。でも、翼の立場に立たされれば、題名にある「パンドラ」つまり「パンドラの箱」を開けるべきか悩むでしょうね。そうそう簡単に翼のように考えられるかなあ。 「三角奸計」は大学時代の友人が開いたリモート飲み会が舞台。僕と茂木と宇治原は都内の某有名私大へ進学したものの、地方出身のためなんとなくはぐれ者と化していた三人が自然に寄り集まって「イツメン(秀逸なメンズ)」として意気投合した間柄。5年ぶりに顔を合わせたリモート飲み会の最中、チャットで宇治原から自分の婚約者と浮気している茂木を殺しに行くと送られてくる・・・。オンライン飲み会というまさに今コロナ禍で行われるようになったことを取り扱っているのがおもしろいです。でも、殺人を犯そうとする者に協力しますかねえ。 日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」の語り手はネット環境さえあれば地方でも仕事ができると長崎の小さな島に移住した夫婦の小学生の息子。ユーチューバーの死、そして同級生の女の子の死の原因の背景にあるものはあまりに現代的で自分勝手です。 各話で取り上げられているのは、中学受験、マッチングアプリ、精子提供、リモート飲み会、そしてユーチューブと、どれも現代的な題材です。この辺りがこの作品集の特徴でしょう。 個人的には伏線が回収される最後の1行に驚きのある「ヤリモク」と、最後のもうひと捻りのある「惨者面談」が好きです。 |
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| どうせ世界は終わるけど ☆ | 小学館 |
| 100年後に小惑星が地球に衝突することが発表された世界で生きる人々を描く6編が収録された連作短編集です。 小惑星・隕石の衝突で地球が滅亡するというストーリーは、映画では古くは「地球最後の日」をはじめ、「アルマゲドン」「ディープインパクト」「グリーンランド~地球最後の2日間~」等々、小説でも伊坂幸太郎さんの「週末のフール」、凪良ゆうさんの「滅びの前のシャングリラ」、荒木あかねさんの「此の世の果ての殺人」、ベン・H・ウィンタースの「地上最後の刑事」など様々な作品があります。この作品それらと異なるのは、他作品では小惑星・隕石の衝突が何か月とか少なくとも2、3年のうちに起こるのですが、この作品では初めてわかる冒頭の「たとえ儚い希望でも」では衝突まで100年という、かなり先のこと。したがって、通常だと滅亡を前にした人々のパニックが描かれますが、この作品の中ではそういう事態は起こっていません。その時代に生きる人にとっては地球の滅亡は自分が死んだ後のことであって、切実には感じない日常が流れていきます。ただ、そんな日常の中にあっても頭の片隅には世界が滅びるという意識があって、登場人物たちに影響を与えているというストーリーになっています。 自殺した友人・吉岡日向の葬儀に出た金井希望は彼女と一緒だった高校時代に思いを馳せる。100年後に小惑星が地球に衝突するという発表があった頃、日向は希望の好きなクラスメートとの間を取り持とうと希望の背中を押す(「たとえ儚い希望でも」)。 就活がうまくいかない村井。ある企業の説明会の会場で就活生の女性から声を掛けられる。村井は自分にとってヒーローだったという彼女のことを村井は高校生の時、電車内で痴漢にあっているのを救った女性だったと思い出すが(「ヒーローとやらになれるなら」)。 無人島で一人で暮らす男の前に若い男が現れる。一緒に暮らすうちに、その男が自分の妻子を殺害した男を殺して逮捕され、刑期満了の前日に刑務所から逃げた指名手配犯ではないかと疑った男は確かめようとするが(「友よ逃げるぞどこまでも」)。 最近ちょっとおかしい優等生の山路芽衣に誘われ、親に内緒で二人で東京に行くこととなった小学6年生の蹴斗。真面目だった山路がなぜそんなことをしようとしたのか(「オトナと子供の真ん中で」)。 別れた妻の元で暮らす娘の愛莉に、自分は宇宙飛行士だと嘘をついてしまった重機のオペレーター。そんな彼に娘は父親は宇宙飛行士だと学校の作文に書くという。弱った彼は元妻に助けを求めるが(「極秘任務を遂げるべく」)。 クラスメートと喧嘩して以来、不登校になった一緒に暮らす男の小学生の息子。毎日出かける男の子の後をつけた彼女は、彼が喧嘩したはずの友人と会い、砂浜で釣りをする男と話をしているところを見る(「どうせ世界は終わるけど」)。このラストの話は衝突まであと68年の時代ですが、前5話に登場した者たちのその後も描かれ、これがまた皆そんな人生送ってきたんだなあ、頑張ったんだなあと興味深く読むことができます。 |
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