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結城充考の本棚

  1. プラ・バロック
  2. 衛星を使い、私に
  3. エコイック・メモリ
  4. クロム・ジョウ
  5. 狼のようなイルマ
  6. アルゴリズム・キル
  7. ファイアスターター
  8. エクスプロード

プラ・バロック  ☆ 光文社文庫
 貸冷凍コンテナから14体の凍死体が発見されたのを契機に、同じ状況下での死体発見が続きます。連続殺人事件の捜査を外され、合同捜査班に派遣されたクロハは、暴力刑事の噂のあるカガの下で捜査に当たるが、クロハを目の敵にするカガとことごとく対立する。
 機動捜査隊に所属する女性刑事“クロハユウ”を主人公にする警察小説で、第12回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作です。
 女性刑事といえばすぐ頭に思い浮かべるのは、誉田哲也さんの「ストロベリーナイト」等の主人公・姫川玲子。姫川は警部として班長という立場にありますが、クロハは刑事になったばかり。美人という点は共通していますが、姫川が感情を露わにするタイプに対し、クロハは冷徹な印象を周囲に与えます(実際はそうではないようですが)。さらに、姫川については、刑事になった経緯も描かれ、人間味を感じられるのですが、クロハについては、あまり掘り下げて描かれていないので共感を持てません。それは、作者が一貫して登場人物の名前をカタカナ表記しているせいもあるのかもしれません。今のところは、僕としては姫川に軍配が上がります。
 クロハばかりでなく、他の登場人物も名前がカタカナ表記になっているのは、作者としての何らかの意図があると思うのですが、このあたりはよくわかりません。
 後半に入ると、事件がいっきに動き、意外な事実が明らかになっていきます。怒涛の展開にページを繰る手が上まりません。ただ、あまりにすべてに繋がりがあったことが、ちょっとご都合主義的だと気になりますが。
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衛星を使い、私に  ☆ 光文社
 女性警察官クロハシリーズ第3弾です。今回は、表題作ほか6編からなる短編集です。
 シリーズ第1作目の「プラ・バロック」ではクロハは機動捜査隊に所属していますが、この作品ではクロハがそれ以前の、まだ自動車警邏隊に配属されているときの事件を描きます。
 6編の中では、日本推理作家協会賞短編部門の候補作となった「雨が降る頃」が秀逸です。交通事故死の裏に隠された真実をクロハが冷静に指摘します。クロハというカタカナ表記が無機質な感じを与えてしまうのですが、冷静さの表情の裏側に実は人間らしい感情を有していることがさりげなく描かれます。最後の「計算による報酬」は、この話の後日譚。権力者と対峙するクロハはカッコいいですね。
 「二つからなる銃弾」は、ピストル競技大会に出場した女性から見たクロハが描かれます。クロハに勝つために取られた手段によって、クロハが動揺するなど、冷静なクロハの別の面が見られます。この中ではクロハが“クロハユウ”ではなく“黒葉佑”と書かれているのも、警察官ではない彼女の裏側の顔を覘くことができるせいでしょうか。
 警察官であった父との確執や、彼女を助ける同僚警察官との関わり(特に上司のスギはよかった)など、1作目の「プラ・バロック」では語られなかった“クロハ”が描かれ、クロハシリーズに興味を持った人には気になる1冊となっています。
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エコイック・メモリ  ☆ 光文社文庫
 「プラ・バロック」に続く、女性刑事クロハユウを主人公にしたシリーズ第2弾です。舞台は前作の事件から1月ほどあとのこと。事件のあと、クロハは亡くなった姉の子どもの親権を姉の別れた夫と争っており、また人質事件でクロハに向けられた銃口からクロハを守るために警官の撃った銃により犯人が死亡し、撃った警官が世間の非難を浴びていることに心を痛めているなど、単に事件を描くだけでなく、クロハの内面も深く描かれています。
 そんなクロハに捜査1課の管理官からインターネットで流されている、人を殺す様子が映された映像が真実かどうかの捜査を命じられます。クロハの捜査により、犯行現場が明らかとなり、死体も発見され、事件は猟奇殺人の様相を見せます。 犯人やクロハを狙うサイという強烈なキャラクターが登場しますが、その強烈さが表面的なものにとどまっている気がします。犯人が何故にこうした猟奇的な犯行を犯すようになったのか、もう少し握り下げた人物描写がほしかったです。それがあれば、なおいっそうストーリーに深みが出たのではないでしょうか。でも、そのことにより、おもしろさが減少しているわけではありません。クロハとサイや犯人との対峙シーンはおもしろく読むことができました。
 相変わらず人の名前がカタカナで表記されており、それが現実ではなく異世界の出来事のように感じさせ、不思議な雰囲気を醸し出しています。
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クロム・ジョウ 文藝春秋
 男とのトラブルで追われている友人のヒスイをかくまったジョウ。お礼にと渡されたライターにはUSBメモリーが内蔵されていた。やがて、ヒスイの行方を捜す二組の男たちが現れ、殺人事件が起こる。彼らの目的はUSBメモリーなのか。果たしてそこには何か書き込まれているのか。物語は麻薬の売人の連続殺人事件が起きる渋谷の街を舞台にUSBメモリーを捜す男たちから必死に逃げるジョウを描いていきます。
 実の母親ではないという女性に育てられ、幼い頃から虐待を繰り返されていたジョウ。義理の母から髪を持って引きずり回されるからと、自分で短く髪の毛を切ったジョウ。幸せと感じたのは彼女の母親が死んで彼女のことを心配で見守ってくれていた男との3日間の逃走の時といった具合に現在までのジョウの生い立ちが簡単に描かれますが、ちょっと今のジョウを想像するには説明不足気味です。ジョウの本名は“榊丈”。女性でありながら“丈”とは、どう考えても男の名前です(途中まで、実はラストで男だったというどんでん返しがあるのではと思っていました。)。
 USBメモリーを巡っての二つの組織の争いはあっけなさ過ぎ、リハーサルスタジオのオーナーで元警官のマキタあるいは一方の組織の組長の片腕・タナカとの関わりはもう少し深いものとなるかと思ったら拍子抜け。ジョウの逃走と同時に進行していた麻薬の売人の殺人事件の犯人は読者としては想像がついてしまいますし、実際ジョウが気づかなかったのは考えられません。
 それにしても、作者の結城充考さんですが、登場人物の名をカタカナで記載するというのは、これまでの“クロハシリーズ”と同じですね。
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狼のようなイルマ  ☆   祥伝社 
 「クロハ」シリーズ同様、女性刑事のイルマが主人公の警察小説です。
 警視庁刑事部・捜査第一課に所属する入間祐希(イルマ)は、駅構内のトイレで発見された不審死体事件の捜査にあたる。被害者の周辺を調べる中で、IT企業のCEO・佐伯が捜査線上に浮かんでくる・・・。
 結城さん、今回も名前の表記がクロハ同様、カタカナ表記のイルマとなっています。カタカナで表記されると、近未来のような感じですが、なぜカタカナ表記にしたのでしょうか?
 クロハ同様、美人で長身でスタイルも抜群。黒いライダースーツを着るとなってはこりゃ男性にはたまりませんねえ。ただ、格闘技にも優れ、男でも締め落とされてしまうというからうっかり軽口も叩けません。冷徹なクロハよりは激情型で猪突猛進タイプに見受けられます。というより、題名にあるように狼のように鋭く襲いかかるタイプでしょうか。
 本作でイルマが立ち向かう犯罪者は3人。事業に邪魔になる者を殺すことを躊躇しないIT企業CEOの佐伯、その佐伯が雇った殺し屋の“蜘蛛”、そして佐伯を狙う大陸の黒社会の殺し屋の“低温”。その中でも特に印象に残るのは毒物を使用する“蜘蛛”です。登場シーンの彼を殺しに来た者たちへの毒の使い方もすごかったですが、それ以上に後半明らかとなる怪異な容貌と、異様な考え方で強烈なインパクトを与えます。
 一方、佐伯が大陸の敵対企業の人物を殺したことから、大陸の黒社会が報復のために送り込んだ“低温”は、よくあるパターンの生い立ちを待った殺し屋です。“蜘蛛”に比べれば、中国の貧しい暮らしの中で妹と二人で黒社会の中で生きてきた“低温”の方がずっと人間的です。
 イルマと部下の宇野の関係が誉田哲也さんの姫川玲子シリーズの姫川と部下の菊田に似ていて、ストーリーの展開と共にこちらも気になります。シリーズ化を期待したい作品です。 
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アルゴリズム・キル  光文社 
  女性刑事・黒葉佑を主人公とするクロハシリーズ第4弾です。
 組織捜査を逸脱する行動が問題視され、県警本部機動捜査隊から所轄署の警務課に異動になったクロハ。ある日、警察の交通安全の行事に駆り出されたクロハの目の前に、体中傷だらけの少女が現れ保護されるが、死亡する。捜査本部が設置される中、蚊帳の外に置かれたクロハに区役所子供支援室から虐待児童の保護への同行を依頼され、そのとき知り合った区役所職員のイマイから戸籍のない児童の保護への協力を求められる。その後も未成年の殺害事件が連続する中、クロハは電脳犯罪対策課のシイナから、あるゲームが事件に関連していることを教えられる・・・。
 最近、何らかの事情で戸籍がない子どもの問題がクローズアップされています。そういう点では、時代を反映しているストーリーですが、作品のインパクトとしては前作を凌ぐまでとはなっていません。事件の様相と犯人のキャラで強烈なインパクトを与えた「プラ・バロック」、「エコイック・メモリ」に比べると、今回の犯人は異常な人物ですが、それほど印象的なキャラではありません。というより、どこにでも存在していそうな現実味のある犯人です。
 一方、「プラ・バロック」では無機質な人間という印象が強かったクロハも、次第に黒葉佑という現実的な存在になってきた感じがします。それがいい方に転ぶのか,悪い方に転ぶのか、今後の展開が楽しみです。
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ファイアスターター  祥伝社 
 警視庁捜査一課の入間祐希(イルマ)を主人公とするシリーズ第2弾。東京湾上に浮かぶ天然ガス掘削プラットフォーム“エレファント”で従業員の転落事故が発生。海の上で所轄が不明のため、イルマが単身捜査に向かう。あいにくの台風が迫る中、応援もなくイルマは従業員11名の事情聴取を始める・・・。
 台風で外部と遮断され、されに何らかの原因で外部との通信もダウンしたプラットフォームが舞台ということで、これはクローズドサークルでの殺人事件、いわゆる形を変えた“孤島もの”です。犯人は従業員の中にいることは確か、果たして誰かという謎にイルマが挑みます。警察小説というより、本格ミステリの設定ですが、さらに犯人は爆弾魔ということで、単なる論理的な犯人捜しだけではなく、爆弾がどこで爆発するかのハラハラドキドキのサスペンスが加わります。
 確かに男たちから見れば生意気なやつと思えるほど強引に、そして男を前にして臆することかく捜査を進めますが、そこがイルマの真骨頂です。
 最初に転落死した男が特ち込んでいたものがイルマの前職を活かすものになるなど、伏線も張られていておもしろく読んだのですが、犯人の正体ということでは、早い段階て見当が付いてしまうのではないでしょうか。 
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エクスプロード  祥伝社 
 “捜査一課殺人班イルマ”シリーズ第3弾です。
 大学の物理学研究室で爆破が起き、教授が爆死する。爆破事件の現場に向かっていたイルマと部下の宇野は無線で入った超高層ビルでの立て籠もり事件発生の連絡に、犯人が立て籠もるビルへと行く先を変更する。イルマは手製の銃で守衛らを射殺し、SITの部隊も倒した犯人の斉東を逮捕するが、斉東は犯行の目的を黙秘する。その間に今度は科学雑誌の出版社で爆破事件が起き、編集者が死亡する。やがて、斉東と爆破事件が関係があることがわかるが・・・。
 美人で長身、黒いライダースーツを着て、1000ccのデュアルパーパスバイクで疾走するのですから、カッコいいとしかいいようがありません。結城さんの描く女性刑事は「プラ・バロック」のクロハにしても美人で格好良すぎですが、イルマはクロハより性格の激しさが表に出るタイプです。
 今回は、犯人の正体は誰かというミステリ的な部分のおもしろさもあり、また、犯人は前作の“ボマー”以上に強烈なキャラの持ち主という点で、前作以上に読み甲斐がありました。一匹狼的な土師という爆発物処理班の個性的なキャラもストーリーのおもしろさに一役買っています。また、イルマと宇野との恋愛という面も目が離せません。宇野がイルマに「警視庁を辞める気はありませんか」と聞いた後の一連の会話のラスト、イルマが言った後の宇野の言葉が聞きたかったですね。
 前回と同じ爆弾魔が相手ということで、前作の犯人である“ボマー”を留置所に尋ねて話を聞く場面が出てきます。これからすると、将来再度イルマの前に“ボマー”が登場する可能性もあるのでは。 
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