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夕木春央の本棚

  1. 方舟
  2. 時計泥棒と悪人たち
  3. 十戒

方舟  ☆  講談社 
 大学時代の友人、裕哉の父が所有する別荘に遊びに来た柊一たち7人は、近くに近くに地下建造物を見つけたという裕哉の案内で底を訪れるが、辿り着いたときは日が暮れ、彼らは地下建造物に泊まることとなる。そこにキノコ狩りで道に迷ったという矢崎一家三人が合流する。ところが、翌朝地震が起き、出入口が巨岩によって塞がれてしまう。方舟と名付けられたいた地下建造物は、地下三階まであり、残されていた設計図によると地下三階から地上に繋がる非常口があったが、地下三階は水没しており、更に地震の影響で水位が徐々に上がり始め、このままだと方舟は全体が水没することになることがわかる。唯一助かる方法は中に設置してある巻き上げ機で巨岩を出入り口の前から地下二階に落とすことだったが、そのためには巻き上げ機を操作する者が一人部屋に閉じ込められ、上昇する水位の中助かることはないという事実だった。そんな中、裕哉が絞殺される・・・。
 出入口が閉ざされた地下建造物というクローズドサークルで、更におよそ1週間で水没するという時間的制約がある中での謎解きとともに、いかに脱出するかという緊迫感溢れる作品です。
 探偵役を務めるのは、今回の集まりにもめ事の気配を感じて柊一が同行をお願いした従兄の翔太郎。いったい、自分の命さえ危機的な状況の中で、なぜ殺人が行われるのか。そもそも、犯人がわかったところで、脱出はできるのか、犯人に残って巻き上げ機を操作しろと求めても素直に従うのかという疑問が残ったまま、翔太郎と柊一が犯人探しをします。
 ラストの翔太郎の謎解きに、「このミス 2023年版」第4位、「本格ミステリベスト10」第2位の順位ほどでもないかなあと思ったら、エピローグの犯人の告白に、これはやられました。まさか犯人の動機がこんなことだったとは、驚き以外の何ものでもありません。このランクも、むべなるかな。私自身のランクもいっきに上昇です。 
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時計泥棒と悪人たち  講談社 
 大正時代を舞台にした6が収録された連作短編集です。
 主人公となるのは、画家の井口とその友人の蓮野。この蓮野が変わっていて、厭人癖があり、東大を卒業後銀行に勤めたが、人との関わりが我慢できなくなって5か月で銀行を辞め、では人との関わりがない独りでこなせる仕事はと考えて泥棒になったという男。数十件の犯行の後、逮捕されるが父母も兄弟弟妹もいなかったため、井口が弁護士の手配等に世話を焼き、彼が再度泥棒をしないように、論文の翻訳の仕事をもってきたりしている。この作品はそんな二人が関わる事件を描いていきます。蓮野がホームズ、井□がワトソンといった体ですね。
 「加右衛門氏の美術館」は井口の父親が以前誤って売り渡した偽物のオランダ王族ゆかりの置時計を本物と取り替えようとする話。なぜ加右衛門氏は自分の美術館に収集した美術品を雑然と展示したのか。
 「悪人一家の密室」は二人が会いに行った男が密室で殺害された事件の謎を解き明かす話。なぜ家族の中で唯一といっていいまともな男が殺害されなければならなかったのか。
 「誘拐と大雪 誘拐の章」と「誘拐と大雪 大雪の章」は誘拐された井口の姪を救い出そうとする二人の活躍を描く話。なぜ井口の姪は誘拐されなければならなかったのか。
 「晴海氏の外国手紙」は井口が後援を受けている晴海氏の亡くなった妻あてのフランスからの手紙の謎を解き明かす話。晴海氏が同じ家の娘たちと結婚したのには何か理由があったのか。
 「光川丸の妖しい晩餐」は海に停泊している船の中で起こる殺人事件の謎を解き明かす話。料理(虎肉とはゲテモノすぎる!!)に入れられた毒に隠された犯人の本当の意図とは何だったのか(これは怖ろしい!!)。
 「宝石泥棒と置時計」は最初の「加右衛門氏の美術館」で、結局交換できず持って帰った置時計が盗まれた謎を解き明かす話。同じように続発するルビーの盗難と置時計の盗難は何か関係があるのか。
 この蓮野というキャラは、未読ですが、夕木さんのデビュー作であリメフィスト賞受賞作である「絞首商會」に既に登場しているようです。この蓮野と井口のコンビはこれからも登場しそうですね。彼ら以外に「光川丸の妖しい晩餐」に登場する大月というキャラも強烈な印象を残します。 
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十戒  講談社 
(ネタバレあり)
 芸術大学の入学試験に2度失敗し、浪人中の大室里英は、枝内島という離島を所有していた伯父が亡くなり、所有を引き継いだ父に連れられ、島をリゾート開発するための関係者と共に島にやってくる。島の中を探索したところ、何者かがいた形跡があり、作業小屋の中に製造された爆弾を発見する。とりあえず、翌日警察に連絡しようと寝た翌朝、一緒に来た不動産会社社員の小山内がボウガンで射殺され、崖下に落ちて死んでいるのが発見される。玄関ポーチの柱にピン留された犯人からのメッセージには、殺人犯が誰かを知ろうとしてはならない等10のルールが書かれており、一つでも守らないと起爆装置が作動すると書かれていた。
 舞台が離島という、いわゆる“クローズド・サークル"の中での殺人事件です。犯人は一緒に島を訪れた残り8人の中の誰かです。題名の「10戒」は犯人が設定したこの10のルールからきています。このルールは犯行後から朝までの間に犯人が考えたものですが、そうとすると犯人は頭良すぎです。普通、じっくり計画を立てた上の殺人ならともかく、こんな短い間にこんなルールを考えつかないでしょう。ということで、雰囲気的に(論理的にということではありませんが)、殺人犯はたぶんこの人だなと早くから予想がつきます。ラストで思わぬ事実が明らかになり、登場人物たちは腹の探り合いをしていたことがわかります。
 そもそもなぜ小山内を殺害したのか。爆弾製造の秘密を知られたからなら、なぜ全員を殺害しようとしないのか。ルールの一つ、3日間は島の外に出てはいけないのは何故か。なぜみんな、唯々諾々と犯人の言うことに従うのか等々個人的にはしっくりきませんでした。ふたを開けてみれば、爆弾製造犯と殺害犯は違ったのですが、爆弾製造犯は自分たち以外の者が殺害犯だとわかっていながら、簡単に殺されてしまうのもなんだかなあという感じでした。ただ、この「十戒」は実は前作の「方舟」と関わりがある作品だと知って、犯人がこの10戒を作った人物であるのも無べなるかなと納得です。続編とは気がつかなかったですねえ。 
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