第34回すばる文学賞受賞作品です。
イベント会社で働くサトミの周囲で、ある日突然人や物が消えていくようになります。置き忘れたかと思う身の回りの品だけでなく、採用されたはずのアルバイトや自分が携わっていた企画など、存在していたものがなくなるという不思議な出来事が続きます。周囲の人たちはそのことに気づきませんが、同僚の一人、久坂だけは、その出来事が自分のせいだとサトミに告白します。
こうした普通の話の中で非日常のことが起きるという話は僕好みです。自分の身近な人がいつの間にかいなくなってしまう、そしてそのことを自分自身も忘れてしまうということは(そして、忘れてしまうことがわかっている)、ものすごく恐ろしいことですね。世界そのものが不確かな存在となってしまうのですから。
果たしてサトミはどうなるのだろうと興味津々読み進めたのですが、サトミがこの現実に立ち向かおうとしたのに、あのラストはないなあと思ってしまったのは僕だけでしょうか。梯子を外された気分です。
タイトルの「トロンプルイユ」とは、フランス語で「だまし絵」という意味だそうです。 |