▲トップへ   ▲MY本棚へ

横関大の本棚

  1. 再会
  2. グッバイ・ヒーロー
  3. チェインギャングは忘れない
  4. スマイルメイカー
  5. ルパンの娘
  6. マシュマロ・ナイン
  7. ピエロがいる街
  8. 仮面の君に告ぐ
  9. 彼女たちの犯罪
  10. 罪の因果性

再会 講談社
 第56回江戸川乱歩賞受賞作です。圭介、淳一、万季子、直人の4人の幼馴染みが23年前に封印した過去が、思わぬ事件をきっかけに浮び上がってきます。
 子どもが万引きしたことでスーパーの店長から強請られた万季子は、別れた夫、圭介に相談し、二人で金を持って万引きの証拠となるビデオを取り返しに行くが、交渉は決裂。翌日、再度二人で訪れたところ、店長が殺されているのを発見する。犯行に使用された拳銃は、23年前の銀行強盗事件で、警官であった圭介の父親が射殺された際に使用され、所在不明となっていた拳銃だったが、実は4人が犯行現場から持ち出してタイムカプセルの容器に入れて校庭に埋めたものだった。
 いったい、銃を掘り返したのは誰なのか。そして、店長を殺したのは・・・ 。中年となった4人のそれぞれの視点で物語は進んでいきますが、読者としては、この中に真実を隠している者がいることを常に念頭に入れて読み進んでいかなければなりません。
 23年前の事件の真相については、やってもいないのに自分がやったと誤解していたことが前提となって成り立っていますが、そんな誤解をするのかと、ちょっと疑間のあるところです。また、終盤の万季子親子と淳一の同棲相手との出会いもご都合主義という批判に晒されるかもしれません。しかし、それを補う非常に読みやすい文章で、あっという間に読了しました。久しぶリに刊行と同時に受賞作を購入しましたが、後悔はしない作品でした。
リストへ
グッバイ・ヒーロー 講談社
 昼は宅配ピザのバイトをしながら、夜はいつかプロになることを夢見てバンドの練習に精を出す亮太。彼が自分に課すルールは、「困っている人がいたら助けなくてはいけない」というもの。そんな彼が立てこもり事件の人質の“おっさん"に頼まれて、彼の脱出を手助けしたことから、思わぬ事件に巻き込まれていきます。
 乱歩賞受賞作の「再会」のような謎解きとは趣の異なる作品となっています。作品の雰囲気も前作のような重苦しさはありません。亮太の性格を反映してか、明るい感じといっていいほどです。
 「困っている人がいたら助けなくてはいけない」という亮太のルールは、正しいことですが、それを実行に移すことはなかなか難しいことです。人間的な繋がりが希薄になっている現在では、ときには、おせっかいと思われることもあるでしょうし(まさに、冒頭の夫婦喧嘩の仲裁はおせっかいそのものです。)、それより何より、自分が積極的に他人に関わっていく勇気があるかも問題です。
 そういった点からは、亮太は愛すべき変わり者であるかもしれません。ただ、それゆえにこそ、今まで他人との関わりを持たなかった“おっさん"との心の繋がりもできたのでしょう。ラストは泣かせますよ。
リストへ
チェインギャングは忘れない 講談社
(ネタばれあり)
 題名中の“チェインギャング"とは、作品中の説明では、「鎖で繋がれた囚人」転じて「絆で結ばれた集団」という意味があるそうです。まさしく、その意味どおり、絆で結ばれた者たちの話が展開されます。
 物語は、囚人護送車襲撃事件による逃走犯を追う池袋署刑事の神崎を主人公にしたパートと記憶喪失の男を助けたトラック運転手の早苗を主人公にしたパートが交互に描かれていきます。記憶をなくしたといって早苗の前に現れた修二。早苗と
航平の母子は次第に修二に惹かれていきます。一方、逃走犯の一人大貫修二の犯行に疑間を感じていた神崎は、相棒の黒木とともに修二の行方を追います。
 昔好きだった女を助けるために戻ってくる男というヒーローの物語です。そのヒーローも孤高の男ではなく、彼を無条件で信じる仲間がいます。ストーリー的には、ひと時代昔の日活映画の雰囲気の作品です。ラストも決まっています。だいたい、こういう映画では助けた女性とめでたくハッピーエンドとはならず、この作品のような結末になるものですからね。そこもまたヒーローらしいところです。
 いろいろな人が修二の人柄によって結びついていますが、この点最初のエピローグがうまく生きています。ちょっと現実ではあり得ないことも、まあ有りかなと許せます。サンタクロースと名付けられた連続殺人犯以外は皆いい人ばかりで、ホッとさせてくれる話でした。
リストへ
スマイルメイカー  ☆   講談社 
 自分のタクシーを「スマイルタクシー」と名付け、客が降りるときに笑顔で降りることをモットーにして黄色いブリウスでタクシー運転手をしている五味。ある日、一人の家出少年を乗せたことから五味は思わぬ騒動に巻き込まれていく・・・。
 家出少年を乗せた五味、警察署の前から婦女暴行容疑で保釈されたばかりの悪徳弁護士を乗せた女性ドライバーの香川景子、裁判所に向かう女性弁護士を乗せた前厄でついていない運転手の袴田。タクシーの運転手とその乗客を巡っての感動の物語です。それぞれのタクシーに乗っている者たちの話が交互に語られていきますが、しだいにある関わりがあることが明らかになってきます。
 途中まではミステリにはよくあるトリックを使って物語が進んでいきますが、そのトリックが明らかになったところで、読者は物語の全体像を把握することができ、着地点はある程度予想できます。ただ、予想以上の展開で感動を与えてくれる物語に読了感は最高です。こんなスマイルタクシーに一度は乗ってみたいと思わせる作品です。
 ラスト3ページでそれまでに見てきた景色が反転しますが、そこは横関さんに見事にやられました。よく読めば、最初からいろいろな伏線が張ってあったのに、気がつかなかったなぁ。そもそもプリウスが・・・(ネタバレなのでここまで)。オススメです。 
 リストへ
ルパンの娘  講談社 
 図書館司書の三雲華はある日交際していた桜庭和馬こ突然彼の家族に会ってほしいと彼の家に連れて行かれる。そこで華は公務員だと言っていた和馬が刑事であること、更に父母妹とも現役の警察官、祖父母も元警察官と警察犬の訓練士という警察一家だったことを知って驚く。なぜなら、華の家族は華を除いてみんな盗人だったから。そんな日、華の祖父が殺されるという事件が起きる。
 そもそも1年間交際していて、それも結婚を考えるまでの仲になっていながら相手の職業を知らないということは通常あり得ないと思うのですが、そこは脇に置いて続まないと話が進みません。
 祖父の事件の捜査を和馬が担当するなかで、華の一族が泥棒だとバレないでいられるか、その部分がわくわくドキドキのところです。和馬の妹は最初から華のことを怪しんでいるようですし、和馬の祖父の怪しげな行動も気になります。果たして華と和馬の恋はどうなるのか。華の祖父の事件はどう決着するのか。気楽に読むのに最適な1冊です。 
リストへ 
マシュマロ・ナイン  角川書店 
 小尾竜也はプロ野球のピッチャーだったが、身に覚えのないドーピング疑惑によって野球界を追われ、今では恩師を頼って私立高校の体育の臨時教員をしていた。小尾の勤める新栄館高校は格闘技系の部活でそこそこ知られた男子校だったが創立50周年を機に男女共学にしたものの、女子生徒の入学はわずか15人、そのうち5人が半年で退学という状況だった。校長はどうにか話題作りをしたいと、部員の暴力事件で部活動停止中であった相撲部員で野球部を作り、甲子園を目指すという途方もない計画を建て、小尾に監督を命じる。断ればクビという校長の脅しに、小尾は嫌々ながらも監督を引き受けるが・・・。
 高校の相撲界で注目を集める逸材だったのに先輩に虐められている同級生を助けようとして暴力を振るってしまった具志堅、皆から次期キャプテンと頼られる二階堂、身体だけなら既に相撲取りの嵯峨、自称相撲部一のプレイボーイの服部等々100キロを楽々超える体重の選手たちがグラウンドをドタドタと走る(歩く?)場面を想像するだけで笑いが零れてしまいそうです。
 物語では、あの体型で走ったり守ったりは無理だけど、とにかく腕力だけはあるからということで打撃に集中するという作戦を新栄館高校は取りますが、横関さんの筆力で何となく、それもありかなと思ってしまいます。もちろん、実際の高校野球では簡単にはそれが通用しないでしょうけど。
 相撲取りが野球をするという落差が笑いを生み、その中で部員たちの友情が描かれていくユーモア青春小説かなと思って読み始めましたが、それだけではなく、小尾のドーピング事件の真相もミステリー仕立で描かれていきます。
 「マシュマロ・ナイン」という題名が言い得て妙です。甲子園大会が開催されている今に読むには最適です。 
リストへ 
ピエロがいる街  講談社 
 兜市は静岡県東部にある人口15万人ほどの地方都市。現在、兜市は1500人を雇用していた工場が海外移転をしたため、雇用や税収に大きな痛手を受けて、財政難に陥っていた。そんな兜市に住む大学4年生の立花稜は、就職活動をしているが、なかなか内定を受けることができないでいた。途方に暮れてバスターミナルのベンチに座っていると、ピエロが近づいてきて願い事を一つ言えという。就職したいと答えた稜をピエロは自分の助手に雇う。ある日、兜市の宍戸市長の後援会長が殺害され、市長が容疑者として疑われるが、ピエロは市長は市の未来を託すに値する人間だとして、稜と新聞記者の城島とともに市長の無実を証明しようと奔走する・・・。
 作者の横関さんは、作家デビューする前は富士宮市の職員として働いていただけあって、地方都市の行政に詳しく、地方からの工場の海外移転による市の財政難や地方の医師不足、地方議会を牛耳るドンなど、その経験が遺憾なく発揮されています。
 読者の一番の興味は、人の目を気にすることなく街の中を歩き回るピエロの正体はいったい誰なのかということですが、横関さんは読者をある方向にミスリーディングさせた上に、更にラストでそこまでのことを反転させるどんでん返しをさらっと見せて、読者をあっと言わせます。僕自身もまんまと横関さんの仕掛けに騙されてしまいました。
 兜市がハッピーエンドとなるある政策の成功については、実際にはそんなことあり得ませんが、そこは話をハッピーエンドで終わらせるためのもので、メインの話ではないので、まあ揚げ足とらなくてもいいでしょうかねえ。 
 リストへ
仮面の君に告ぐ  講談社 
(ネタバレあり)
 病院のベッドで目覚めた涌井和沙は、鏡に映った顔が自分とはまったく違う見ず知らずの女性であることを知って驚愕する。女性は森千鶴という名前で1年前に歩道橋から転落して意識不明のままだったという。森千鶴の弟だという森潤に自分が別人であると信じてもらった和沙だったが、潤がネットで調べると、和沙は1年前に自宅マンションで殺されていたことが判明する。一方その頃、和沙と結婚間近だった歯科医の早田慎介は、歯科医を辞め、証拠不十分で釈放された事件の重要参考人の男・谷田部が以前働いていた配送センターでパート勤めをしながら谷田部の情報を得ようとしていた・・・。
 物語は和沙の視点のパートと谷田部の視点のパートを交互に描きながら進んでいきます。
 どうして、和沙の意識が千鶴の身体の中に入ったのか、和沙が千鶴の身体の中にいることができるのは10日だけとかの設定の説明はまったくなされません。あくまでこういう設定の中で和沙はどう行動するのかという点が物語の中心になります。
 和沙を殺害したのは谷田部なのか、ところがストーリーが進むうちに怪しげな人物が次々登場し、読者は作者にミスリードされていきます。ラストはものの見事にどんでん返しとなりました。意外性がありましたねえ。ここで初めて題名の意味がわかります。多くの読者がこういう展開は予想できなかったのでは。正直のところ、それはないだろう!という感じです。最終的に真犯人自身からの謎解きがなされていないので、動機も和沙の推理ですし、実行犯との関係もよくわかりません。ここは大きなマイナスポイントです。 
 リストへ
彼女たちの犯罪  幻冬舎 
 医者の妻で義理の両親と同居する元看護婦の神野由香里と大手自動車メーカーの広報部に勤める日村繭子という二人の女性の視点で第一部が語られていきます。周囲の友人たちが結婚していくことに焦り、婚活中の繭子はある日、怪我をして運ばれた病院で大学の先輩である医師、神野智明に出会う。彼は大学時代に繭子の後輩を乱暴した男であったことから、嫌悪感を抱いていたが、彼に言い寄られ、医師というブランドにやがて結婚相手として考えるようになってしまう。一方智明の妻である由香里は、智明の浮気を疑うが、やがて失踪してしまう・・・。
 ここで、冒頭に置かれた神野由香里という女性の死体が海から引き上げられたというニュースに繋がってくるわけですが、二部から捜査を行う刑事たちの調べから思わぬ事実が浮かび上がってきます。途中で明らかになる事実に、正直のところ、あまりにご都合主義すぎる設定ではないかと思ってしまいます。こんな人間関係の偶然ありえないでしょうに。その上、ある人物が人の殺害についてあれほど無反応でいられるのか、それまで描かれてきた人となりとはかなりかけ離れた性格になったようで、ストーリー展開にあまり納得できません。 
リストへ 
罪の因果性  角川書店 
 喫茶店で働く倉多佑美は、ある日星谷と名乗る男の訪問を受け、3年前に起きた事件の再検証を一緒にしてほしいと言われる。3年前、市役所職員だった佑美は家出した恋人の住所を教えて欲しいという男の電話を受け、相手の誘導で、話したわけではないが住所を特定する言質を取られてしまう。数日後、佑美は市内で起きた殺人事件の被害者である地下アイドルの名が男から聞かれた女性の名前だと知って驚く。やがて、佑美の対応がマスコミも知ることとなり、彼女は追い詰められて市役所を退職していた。その後、清掃会社に勤める野上という男が犯人として逮捕されるが、彼は裁判でも一貫して無実を主張していた・・・。
 物語は、3年前の佑美、殺害された地下アイドルのファンだった星谷、そして犯人として逮捕された野上、事件の捜査に当たる刑事の源田を描きながら進んでいきます。
 ある結果に対して行為者に法的責任を追及するためには、行為と結果との間に因果関係が存在することを要し、これが認められない場合には法的責任を問いえないという因果関係論を、大学生の頃、刑法で学びましたが、この作品には題名にあるとおり、因果関係という問題が大きく関係してきます。いったいどこまでが因果関係があるといえるのかという問題です。
 事件の構図が次第に明らかになるにつれ、読者としては佑美がこの事件に巻き込まれたことは、あまりに理不尽だと思ってしまいます。犯人が主張するある事実について、佑美の責任を追及することは、犯人の気持ちはわからないではありませんが、身勝手です。ラストの一ひねりは犯人に対する罰でしょうか。 
 リストへ