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矢崎存美の本棚

  1. ぶたぶた
  2. 刑事ぶたぶた
  3. 食堂つばめ

ぶたぶた 徳間文庫
 ピンク色の豚のぬいぐるみが、あるときは家政婦、あるときはタクシーの運転手などになって人間と同じように生活をするなんて、ファンタジーというより子ども向けの作品かと思っていました。ところが様々な読書サイトで意外に評判がよくて、それじゃあちょっと読んでみるかと思ったら、第1作目が絶版になっているのか、本屋さんで手に入りません。ブックオフにもなく、そのまま読まないでいたところ、今回徳間文庫で再文庫化されたので慌てて購入して読みました。
 9話からなる短編集です。豚のぬいぐるみが人間と同じように生活し、「山崎ぶたぶた」という名前さえ持っていることを不思議に思うのは各話の主人公ばかり。周囲の人は誰も不思議に思わず、やがて主人公たちもそれが当たり前だと思っていきます。
 どおってことない話ですが、山崎ぶたぶたの姿を見ていると(読者は頭の中に思い浮かべるのですが)、ただの中年男(中年ぶた?)にすぎないのに、不思議と温かい気持ちにさせられます。「追う者、追われるもの」の山崎ぶたぶたなんて、まさしく中年男そのものです(題名の“者”と“もの”を区別しているのが愉快です。)。日常の生活でささくれだった心が癒されるという感じでしょうか。このシリーズのファンが多いのもわかりました。おすすめです。
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刑事ぶたぶた 徳間文庫
 ピンク色したぷたのぬいぐるみ“山崎ぶたぷた”が今回は刑事となって活躍するシリーズ第2弾の再刊です。
 ストーリーは赤ちゃん誘拐事件を背景に、山崎ぶたぶたと彼の指導を受けることになった新米刑事の立川が、数々の事件の解決を図るために奔走する姿を描いていきます。ぶたぶたは、ぬいぐるみという特性を生かしてさまざまな活躍を見せます。
 ぶたのぬいぐるみが刑事だなんて、登場人物たちも最初はみんな呆然としますが、いつの間にか受け入れてしまいます。ぶたのぬいぐるみが刑事として動き回るなんて、あり得ない、ファンタジーとしてもぱかばかしすぎると思ってしまいますが、この前提を受け入れないと物語を楽しむことができません。
 あの手でどうやって物を掴むんだとか、食べ物はどうやって食べるんだとか、あまり細かいことには拘らず、ぷたのぬいぐるみがトコトコと歩くことを受け入れれば、あとは、ぶたぶたのほんわかした雰囲気に自然と心のとげとげしさもなくなり、爽やかな読後感に浸れますよ。
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食堂つばめ ハルキ文庫
 臨死体験をした柳井秀晴。食い意地が張っているため、あの世とこの世の間の世界から生還した秀晴は、そこで出会ったノエのおいしい料理が忘れられずに、なぜかその世界に自由に行き来ができてしまうことになります。彼はノエに頼まれて、その世界に来た人を元の世界に戻る手助けをすることになりますが、なかなかうまくいきません。秀晴は彼同様、食べたいものを食べることにより、死の世界へと進まぬよう、ノエに食堂を開くことを提案します。
 「ぶたぶた」シリーズを書かれている矢崎さんらしく、今回もファンタジーです。楽しむためには、あまり理屈を考えずに小説世界の中に入ることが必要です。ノエという女性はいったい何者なのか(何者だったのか)。そして彼女と一緒にいるりょうさんは・・・。ラストは、お決まりといえばお決まりですが、心温まる着地点になっています。
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