風よ僕らの前髪を | 東京創元社 |
(ちょっとネタバレ) 第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作です。 若林悠紀は大学卒業直前にある事件で大けがを負ったため、内定していた会社を辞退し、大学のサークルの先輩に誘われ、彼女自らが所長を務める探偵事務所の調査員として働いていたが、年末に辞めて4月から父親の会社に入社することとなっていた。そんな悠紀に伯母の高子から、愛犬の散歩中に絞殺された伯父の立原恭吾の事件を調べてほしいと依頼される。犯人が逮捕されない中、伯母の高子は養子の志史を疑っていると話す。依頼を受けた悠紀は、志史が交際していた喫茶店のウエイトレスや志史の中高校生時代の友人たちを訪ねて話を聞く。そうした中で、小暮理都という中学生時代の友人が浮かび上がってくる。更に理都の周辺で火事や父親の溺死という事件が起こっていたことを知る・・・。 ミステリーとしての事件の構造は、悠紀が色々と聞き歩く中で、志史にはアリバイがあったことがわかりますが、ミステリ好きには途中でたぶんあれかなと察することができるのではないでしょうか。主人公は悠紀ですが、それより強烈な印象を与えるのは、高子伯母が犯人ではないかと考える志史です。大学在学中に司法試験に合格するという優秀な頭脳を持ち、その心を誰にも見せようとしない態度は怪しさ満点です。そもそも養子といっても孫でもある志史への死んだ恭吾の振る舞いは、手を挙げるわけではないにしろ、精神的・物質的に虐待といっていいものです。恭吾には動機があるといっていいでしょう。一方、悠紀が調査をする中で浮かび上がってきた理都という人物にも、それもまた虐待といっていい事実があることが次第に明らかになっていきます。更には悠紀と理都の関係に入ってくる盲目の少女・怜奈もまた両親から虐待を受けているという事実を背負っています。そんな彼らはいったいどういう関係だったのかというのが事件の謎を解くカギになります。 途中までは志史と理都とのボーイズラブの話かと思いましたが、そこに怜奈がどう関わってくるのかが最後までわかりませんでした。そういうことだったんですねえ。そこまで想像できませんでした。それにしても、ラスト、作者は彼らに更なる苦しみを与えます。この後、彼らはどうなるのでしょうか。 |
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