夏目漱石の「坊ちゃん」といえば誰でもその題名は知っている話でしょう。僕自身も中学生の頃読んだ記憶があります。夏目漱石の著作の中で心に残った作品といえば、「こころ」「三四郎」「門」の三部作が一番ですが、それらの作品よりも“坊っちゃん”は非常に読みやすかったという印象があります。
柳さんの手によるこの作品は、坊ちゃんが東京に帰って3年後から始まります。偶然(?)山嵐とあった坊ちゃんは、赤シャツが自殺したと聞き、二人でその真相を探りに四国に戻ります。
あの「坊ちゃん」が柳さんの手によって、ミステリ小説となりました。原作では、江戸っ子の“坊ちゃん”の四国の田舎町での破天荒な活躍がおもしろかったのですが、この作品では、実はその裏にはその時代を反映するようなできごとがあったというのですから驚きです。 赤シャツ殺害の犯人は読んでいれば予想がつくのですが、その動機にはうなってしまいます。夏目漱石の青春小説が社会派ミステリになってしまいました。解説を読むと、柳さんは、そのために意図的に物語の時代を10年ほどずらしているようです。ただし、ミステリになっても、文章の雰囲気は原作の“坊っちゃん”そのものです。柳さんの筆力は素晴らしいものがあります。 |