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山之内正文の本棚

  1. 八月の熱い雨 便利屋(ダブルフォロー)奮闘記

八月の熱い雨 便利屋(ダブルフォロー)奮闘記 東京創元社
 便利屋ダブルフォローを営む皆瀬泉水が出会う5つの事件が描かれた連作短編集です。便利屋が主人公ということでは、今年直木賞を受賞した三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」と同じですが、「まほろ駅前〜」の個性的な主人公二人に比べると、こちらの泉水はちょっと特徴がないと言わざるを得ません。読んでいて泉水という男が想像できないんですよね。「まほろ駅前〜」が先にでて直木賞を受賞してしまったのは、この作品にとっては不幸だったのではないでしょうか。
 作品は、「吉次のR69」「ハロー@グッバイ」「八月の熱い雨」「片づけられない女」「約束されたハガキの秘密」の5編からなります。東京創元社のミステリ・フロンティアの1冊ですが、ミステリというよりは帯にもあるようにハート・ウォームな物語の集まりです。「ハロー@グッバイ」以外は警察も登場しません。謎解きよりは泉水に仕事を依頼してくる人々の哀しみを描くことに重点がおかれているといっていいでしょう。そして、その哀しみを泉水がどう受け止め、癒していくかがこの作品の読みどころとなっています。
 表題作の「八月の熱い雨」は、予想どおりの展開でしたが、ラストは思いがけない方向へと行きましたね。読者の期待(?)をものの見事に裏切るラストでした。
 最近ゴミ御殿が話題になりますが、「片づけられない女」で泉水に仕事を依頼してくる女も、そんな家中がゴミの中で生活している女です。どうして、彼女はこのゴミの中で生活しているのか、そして“片づけられない女”は実は・・・というところはおもしろかったですね。
 なかなか読後感のいい作品集でした。次回作にも期待です。
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