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山本巧次の本棚

  1. 開化鐵道探偵
  2. 開化鐵道探偵 第一〇二の謎

開化鐵道探偵  東京創元社 
 「このミス」国内編第10位に入った作品です。初めて読む山本作品になります。
 時は江戸から明治になったばかりの文明開化の頃。京都・大津間の鉄道建設が行われている中、逢坂山トンネルの工事現場で不審な事故が多発する。工部省鉄道局長の井上は、幕末に北町奉行所一の切れ者と評判だった元定廻り同心・草壁賢吾に事故原因の解明を依頼するため、技手見習の小野寺乙松に彼が住む長屋を訪ねさせる。井上の熱意に草壁は依頼を引き受け逢坂山に向かうが、到着早々工事関係者が京都に向かう電車から転落死したという報告を受ける・・・。
 舞台となるのは明治12年、日本が近代化を進め始めていた時代を背景にしたミステリーです。明治政府の中での薩長の覇権争い、近代化の波で職を失う人々、日本での利権を奪い合う海外列強といった当時の時代背景も事件の謎を解く鍵となっています。
 事件を解決するのは、ホームズ役の草壁とその助手であるワトソン役の小野寺のコンビ。彼ら探偵が登場しても事件はすぐに解決というわけにはいかず、更にエスカレートして殺人事件が起きるという流れ。最後に関係者一同を集めた中で、探偵役の草壁が犯人を指摘して大団円。まさにミステリーの王道のパターンを踏襲しています。
 諸外国に頼らずに日本人だけの力で鉄道建設をやり遂げようとする井上局長の心意気はノン・フィクションだったのでしょうね。
 機関車の運転手のカートライトですが、時に描かれる彼のキャラクターはなかなか愛すべきものでしたが、ちょい役だったのはもったいなかった気がします。 
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開化鐵道探偵 第一〇二の謎 東京創元社 
 元八丁堀同心の草壁賢吾と鉄道局の技手・小野寺乙松のコンビが鉄道に関わる謎に挑むシリーズ第2弾です。
 日本鉄道の貨車が開業間もない大宮駅で、何者かによって分岐器を切り替えられたことにより脱線し、壊れた貨車から積荷の生糸以外に、あるはずのない千両箱が発見される。井上勝鉄道局長から呼び出された草壁は、小野寺とともに事件の調査を命じられる。
 今回は幕末に勘定奉行を務め、官軍によって処刑された小栗上野介の隠したとされる金を巡って、「秩父事件」を起こした自由党や没落した士族、さらには薩摩閥の警察との三すくみの攻防の中、草壁、小野寺のコンビが事件の謎を明らかにしていきます。相変わらずの草壁と小野寺のホームズ、ワトソンコンビですが、小野寺も草壁の性格に慣れてきたようで、ちょっと余裕が出てきたようです。
小栗上野介の隠し金といえば、未だにその存在を信じている人がいて、時々その埋蔵金の発掘の様子がテレビ番組にもなるので、多くの人が埋蔵金の存在は明らかになっていないことを知っています。その中で、この作品では埋蔵金にどういう決着を見せるのかと思いましたが、ラストで草壁が述べる埋蔵金についての推理はこのストーリーの落としどころとして、まあこんなものなのでしょう。
 今作には結婚したばかりの小野寺の妻・綾子が登場。賢くて、夫に言われておとなしく家に籠ることなどせずに、興味津々の体で積極的に草壁、小野寺の捜査に顔を突っ込んできます。新しい時代の女性とはいえ、さすがにその時代ではそこまでの女性はなかなかいないと思いますが、あまりに行動的な女性で、小野寺がすっかり彼女の掌の上で踊らされている感じです。今後シリーズが続けば再び登場することになりそうな個性豊かな女性ですね。
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