「本の雑誌」9月号で北上次郎さんが取り上げていたのに興味を持って読んでみました。
物語は、世田谷線沿線を舞台に8人の男女を描いた短編集です。主人公は、会ったことのない父親に会いに行く小学生、不倫相手の死亡から会社勤めを辞めスナックで働く女性、誕生日とともに定年を迎える男性、校閲業の傍ら雑貨店でアルバイトをする女性、恋人が留学してしまった広告会社の営業マン、30歳のグラビアアイドル、テレビの特撮ものに夢中の冴えない製紙会社の営業マン、家の中で居場所のなくなってきた老女と種々雑多です。
どの話も、主人公は心に悩みを抱えながら、ラストはホッとした感じで終わります。この先、きっとみんなそれなりの解決を考えていくんだろうなあと思わさせられるラストです(最後の「うぐいす」はちょっと違う感じですが)。
中での僕の一番は、「ハッピー・バースディ」です。かつて社長を殴ったことのある定年間際の男が部下の女性から相談があるといわれて・・・。若い女性に相談を持ちかけられたときの生真面目な男の心情がうまく描かれていて、楽しく読むことができました。所詮、女性の方が一枚上手です。手を握られたくらいで舞い上がってはいけません。胸の谷間に騙されてはいけません。と言いながら、僕もきっと舞い上がってしまうだろうなと思ってしまうところが、男の愚かさでしょうか。同じ愚かな男として折坂くんの行く末を案じないわけにはいきませんね(^^)
「コーヒーブレイク」もいいです。赤の他人の逃げた犬を探しながら恋人との最後の日を回想する主人公織部くんが魅力的です。
どの作品も、派手な事件が起きるわけではないのですが、展開がおもしろく、主人公も不思議と共感してしまうような人たちでした。「笑う招き猫」で小説すばる新人賞受賞後の第1作のようですが、なかなか拾いものの1冊でした。オススメです。 |