太一は47歳のテレビドラマのライター。彼の家は、夫婦と女の子、男の子のどこにでもある普通の家族。ある朝目覚めると、住宅街であったはずの家の周りは林と化していた。彼らは、何らかの理由で過去にタイムトラベルしてしまい、そこが太平洋戦争中の時代であることに気付く。そんな中、繋がるはずのない電話に突然かかってきた電話は、同じように過去に飛ばされてしまった、幼い頃の友人・宮島敏夫からだった。彼も息子と二人で釣のため海に出て戻ってきたら過去に日本にいたという。二つの家族は戦争中の日本で生きていくこととなるが・・・。
夏がやってきました。この時期になると、夏の甲子園の試合中に球児たちが黙祷を捧げる様子がテレビで映し出され、広島や長崎に原爆が落とされたこと、終戦となったことを再認識します。でも、第二次世界大戦が終わって、すでに68年。戦争体験のある人も少なくなり、若い人たちは選手たちが何をしているのかを理解できていない人もいるのではないでしょうか。
戦争時代を経験している主人公の太一は、戦争中という時代を知らない妻や子どもたちに、現在の状況を語りますが、なかなか理解されません。物余りの時代に生きる現代の子どもたちが、毎日の食べるものさえ満足にないという状況を想像することは難しいでしょう。パニックになるのも無理もないと言わざるを得ません。しかし、国民への教育とプロパガンダによって、1億総玉砕への道を不審に思わずに突き進むかつての日本の様子は、いつの時代でも再現できそうな恐ろしさを孕んでいます。敏夫の息子の姿は、その時代に染まった典型的な若者の姿ですが、これもあり得る姿なのかもしれません。現代の戦争を知らない若者もその時代の雰囲気の中で、時代に流されてしまうかもしれません。戦争の悲惨さを忘れないためにも、戦争の事実は語り継がれて必要があると教えてくれる作品です。
この作品は81年にハードカバーで、84年には文庫で刊行されました。今回、再文庫化に当って、30年が過ぎているため、ラストシーンが一部変更になっています。 |