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山田彩人の本棚

  1. 眼鏡屋は消えた
  2. 今宵、喫茶店メリエスで上映会を

眼鏡屋は消えた 東京創元社
 第21回鮎川哲也賞受賞作品です。母校で教師をしている藤野千絵は、顧問をしている演劇部の部室で何者かに撲られたことにより、目覚めたとき高校2年生からの8年間の記憶を失ってしまう。親友だった実綺が高2に文化祭前に亡くなっていることを知った千絵は、元同級生の探偵・戸川涼介に真相を探るよう依頼する・・・。
 涼介と千絵の調査は、演劇部が演じることとしている「眼鏡屋は消えた」を書いた竹下実綺の転落死事件は自殺なのかから、実綺が「眼鏡屋は消えた」を書くに当たってモデルにした過去に学校で起きた男生徒の転落死事件の謎解きにも及んでいきます。
 この作品を読み始めて、北村薫さんの女子高校生が気がついたら40代の先生になっていたという「スキップ」を思い浮かべたのですが、それとはまったく違う雰囲気の作品でした。その原因は、主人公・藤野千絵のキャラです。千絵が高校生以降の8年間の記憶をなくしてしまったとはいえ、あまりに軽すぎるキャラがどうも鼻につきます。これは本人の心が高校生時代に戻ったからだとも考えたのですが、ラストに記憶が戻っても同じような感じでしたね。
 物語は、涼介と千絵が過去の事件の関係者に会って話を聞きながら真相を明らかにしていく様子を描いていきますが、8年間という時の経過の割には、関係者の記憶があんなにも残っていたり、証拠品まで残されているのにはあまりに都合が良すぎる感じがします。
 竹下実綺の転落死事件の犯人については、読んでいる人にはだいたい予想がついてしまいます。謎解きとしておもしろかったのは、男生徒の転落死の方ですね。なるほどそういうことだったのかと読むことができました。
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今宵、喫茶店メリエスで上映会を  角川文庫 
 シャッター通りとなった地方都市の商店街。そこにある喫茶店「メリエス」を舞台にして繰り広げられる人間模様を描いていきます。
 会社を辞めた亜紀は、亡くなった大叔母の家の遺品整理をするために、子どもの頃住んでいた町にやってきます。大好きだった商店街はシャッター通りとなり、大叔母に連れられて通った、週末には古い映画を上映し映画ファンが集まっていた喫茶店「メリエス」は、車に突っ込まれて壁が壊れており、マスターの野川はこれを機に閉店を考えていた。亜紀は最後の上映会を企画するが・・・。
 各話では、ちょっとした謎が提示され、亜紀がそれを明らかにしていくという体裁をとっています。謎といっても、家の中に入り込んでいるのは誰か、町のあちこちに電車の模型が入った缶詰めを置いたのは誰か、この町を舞台にした殺人犯の告白という体裁のブログを書いていたのは誰か、町の中を徘徊する30センチ以上の厚底サンダルを履いた女性の正体はとか、複雑怪奇なものではありません。ただ、それらの“誰か”がなぜそんなことをするのかが問題となるのですが・・・。ラストの話で明かされる、放火犯人の足跡の正体は、大団円に相応しいものでした。
 こうした謎解きとともに、亜紀が「メリエス」の再建のために奔走する様子が描かれ、亜紀の奮闘によって、「メリエス」を中心にして次第に人間の輪ができてきて、商店街が活性化していくという町おこしの話でもあります。 
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